外来機能および看護職の役割とその効率性評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200011A
報告書区分
総括
研究課題名
外来機能および看護職の役割とその効率性評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
岡谷 恵子(社団法人日本看護協会)
研究分担者(所属機関)
  • 数間恵子(東京大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
外来における看護機能、とりわけ個別の相談・指導活動は、長期にわたる療養行動を支援して疾患の進展憎悪を防ぎ、国民医療費の増大を抑制する上で極めて重要と考えられる。本研究は、個別の相談・指導活動対象のモデルとして糖尿病患者を取り上げて検討したものである。平成9年に厚生省が行った糖尿病実態調査によれば、わが国の糖尿病患者は約690万人と推定されており、その大部分は、インスリンを使用していない患者(以下、インスリン非使用患者)である。糖尿病患者は、血糖コントロールを良好に維持することにより合併症の発症やその進行を防止しうるが、それを達成するために患者がそれまでの生活習慣を変更して、新たな自己管理行動を習得し、継続していくことは容易なことではない。現在医療者に求められているのは、患者の生活の質(Quality of Life: QOL)を最大限に向上させながらも合併症を最小限にする援助の実施である。特に、個別性の高い生活習慣に対する支援をする上で、看護師が担う役割は大きいと考えられる。実際それに呼応するように、多くの病院で、インスリン非使用患者に対する外来での個別相談・指導ならびに集団指導後の個別指導に、30分以上におよぶ時間をかけて対応していることが、数間らの平成13年度の外来における看護の相談・指導機能に関する調査により明らかになっている。しかしこれらの活動は、現在診療報酬上何ら評価されていないため、相談・指導のニーズに対して十分な対応ができないという問題が指摘されている。診療報酬上の評価が得られれば、今まで以上に多くの病院で、これらの活動が促進され、患者の糖尿病自己管理行動に対する適切な援助が実現されうると考えられる。インスリン非使用患者に対する看護個別相談・指導の客観的な有用性を検証するため、これらの活動が全国の病院でどのように実施されているのかという実態について調査する必要がある。さらに、そうした活動の結果もたらされた成果について、どのような要因が関連しているのかを探索することも、今後の外来看護機能のあり方についての検討に寄与するものと考えられる。これらの行為の有用性を検討する際には、糖尿病患者のQOLへの支援が重要であることから、QOLも重要となると考えられる。全ての糖尿病患者に共通の治療は食事療法であり、この実施はQOLに大きく影響を与えていると考えられる。食事療法を実施しながら負担なく日常生活を送ることができるような援助は看護機能の重要な要素であり、食事に関連するQOL(以下、食事関連QOL)を詳細に評価する尺度を用いて、外来看護個別相談・指導を評価できる可能性がある。したがって本研究では、1.インスリン非使用患者に対する看護師による外来個別相談・指導の実態およびその成果の関連要因を明らかにすること、2.糖尿病用食事関連QOL尺度を開発し、その信頼性・妥当性の検証を行うことを目的とした
研究方法
1.インスリン非使用糖尿病患者への看護師による外来での個別相談・指導の実態調査まず、糖尿病外来看護に先駆的な取り組みを行っている病院7か所・診療所1か所をほぼ本州全域から選び、聞きとり調査を通じて外来看護機能に関する予備的体系整理を行った。その結果に基づき、全国の200床以上の病院で、数間らの平成13年度調査の回答より「在宅療養指導料」適応外対象にも相談・指導を提供していることが明らかで、回答に施設名が明記されていた179施設を対象とした。調査は3段階に分けて行い、第一段階は看護管理者、第二段階は実際に個別相談・指導に携わっている看護職者に、調査票を郵送した。第三段階では、調査票の一部について再現性確認のための再調査を行っ
た。調査内容は、病院の糖尿病外来看護個別相談・指導体制、患者実績、相談・支援外来等の実態、相談・指導による患者や看護職者等への影響とし、糖尿病外来看護機能について検討した。
2.糖尿病用食事関連QOL尺度の作成
個別相談・指導の評価指標を検討するため、食事を含めた生活全般に関する新たなQOL尺度「糖尿病用食事関連QOL尺度(案)」を作成し、その妥当性、信頼性に関して、標準的な心理測定(psychometric measurement)の技法を用いて検討した。尺度(案)は、食事療法に関連する特異的QOL(狭義の食事関連QOL、計17項目)と、食事療法から派生する生活機能制限(包括的健康関連QOL尺度であるShort Form-36; SF-36からの転用)からなっている。対象は、北関東に位置する一般病院(病床数456床)通院中の糖尿病患者で、一定の基準に合致した291名中、調査に協力が得られたものとした。調査は施設の承認を得て行った。
結果と考察
1.インスリン非使用糖尿病患者への看護師による外来での個別相談・指導の実態調査8施設の聞き取り調査では計14名の看護職者から協力が得られた。全国郵送調査では第一段階では179施設中87.6%(有効票62.0%)から、第二段階では105施設の計402名中85.6%(有効票69.9%)から、それぞれ回答が得られた。第三段階では協力の意思を示した170名中87.1%(有効票87.1%)から回答が得られ、中等度の再現性が確認された。それらから、看護職者による外来での個別相談・指導はインスリン非使用患者を含む糖尿病患者に対して、様々な体制・看護提供システムの下で行われ、多岐にわたる内容のケアを提供していること、個別相談・指導の実施が患者や看護職者自身、周囲の医療従事者や病院などへ様々な影響を与えていることが明らかになった。患者に対する変化は、看護職者が「自己管理の具体化」への支援を心がけているほど、大きいと認識されていた。現状では、患者のニーズや医師の要請に応えるために、看護職者は、制限された環境の中で、必要に応じて個別相談・指導を実施せざるを得ない状況にある。しかし、糖尿病患者個人個人の日常生活上の困難全般に対して、より効果的な相談・指導を提供するためには、他業務から独立した相談・指導に専念できる立場の看護職者が、プライバシーの保たれる相談・指導専用の場所で、ある程度の時間をかけて落ち着いて患者と接することができる体制が保証されていることが必要である。また実際、個別相談・指導に従事していた看護職からのこうした体制に対する要望も極めて高いものであった。しかしそれを実現するには、人材の確保や設備の整備、およびそれにまつわる諸経費など、それぞれの医療施設の努力に依存するだけでは困難である。今後は外来での個別相談・指導に対する診療報酬の新規設定等に向けた働きかけが必要であり、そのために、個別的な相談・指導に対する患者のニーズや臨床的効果、およびその経済的な効率性を検討していく必要があろう。2.糖尿病用食事関連QOL尺度の作成291名中238名から調査承諾と回答が得られ、236名を有効とした。再現性確認のための再テストにはそのうちの150名から協力が得られた。狭義の食事関連QOLの17項目は因子分析結果から3因子構造(「食事全般の主観的満足感」「食事療法の負担感」「食事療法からの受益感」)であることが確認された。「糖尿病用食事関連QOL 尺度」は、この3下位尺度に、SF-36から転用の4下位尺度(「全般的食事感」「社会機能の制限」「活力」「心の健康」)とあわせた7下位尺度とした。この7下位尺度、およびSF-36 の他の下位尺度を用いて、因子妥当性、収束的妥当性、弁別的妥当性を検討し、本「糖尿病用食事関連QOL尺度」がそれぞれ独立の7ドメインから構成されることを確認した。また信頼性を検討した結果、各下位尺度のクロンバックのα係数は0.71~0.84、再テスト法による級内相関係数は0.46~0.75、重み付きκ係数は0.36~0.70であった。以上の結果から、「糖尿病用食事関連QOL尺度」は、信頼性および妥当性を充分に備えた尺度であった。今後、糖尿病患者に対する支援方法の効果指標として活用するために、感度および反応性の検証が課題である。
結論
看護個別相談・指導に携わっている看護師を対象とした全国調査を実施した。その結果、看護職者による外来での個別相談・指導はインスリン非使用患者を含む糖尿病患者に対して、様々な体制・看護提供システムの下で
行われ、多岐にわたる内容のケアを提供していること、個別相談・指導の実施が患者や看護職者自身、周囲の医療従事者や病院などへ様々な影響を与えていることが明らかになった。これらは、今後の外来看護機能のあり方についての検討に重要な示唆を与えるものと考えられる。また、糖尿病用食事関連QOL尺度を作成し、これが因子妥当性、収束的妥当性および弁別的妥当性、内的整合性、再テスト信頼性を有するものであることを確認した。今後、患者への個別相談・指導の効果の測定指標として活用するために、感度および反応性の検証が必要である。

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