移植医療の費用負担・財源調達システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
200200009A
報告書区分
総括
研究課題名
移植医療の費用負担・財源調達システムの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
上塚 芳郎(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 井原辰雄(医療経済研究機構)
  • 坂巻弘之(医療経済研究機構)
  • 速水康紀(医療経済研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
6,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、注目を集めている移植医療の費用については、一部の臓器については公的保険の対象となっているが、それ以外の臓器に係る移植医療の費用、及びドナー確保、コーディネート費用については、患者、移植医療実施医療機関、国庫補助、民間助成によりまかなわれている現状にある。社会的必要性の高い移植医療であるが、(社)日本臓器移植ネットワークおよび骨髄移植推進財団など移植コーディネーションを担う団体の財政は危機的状況にあり、現行の財源調達システムでは、将来的に移植医療の円滑な実施に支障が出ることが懸念されている。移植医療については、個別の移植医療についての経済学的な研究はある(腎移植)が、移植医療全体のシステムについての費用負担のあり方などについての研究は実施されていない。本研究の目的は、将来にわたる移植医療の円滑な実施を可能とする財源調達システムのあり方について検討を行うための基礎資料作成である。そのために現行の費用負担、特に移植医療に固有の「あっせん・コーディネート費用」の負担の現状を調査した。
研究方法
以下三点について調査した。①心停止下における腎移植のあっせん・コーディネートの費用についての調査。②髄移植におけるあっせん・コーディネートの費用についての調査。③脳死下の移植医療に係る医療費、コーディネート費用について、海外の状況の調査。心停止下における腎移植のあっせん・コーディネートの費用(①)に関しては、2002年に実施された全59症例を調査対象とし、担当した移植コーディネーターへのアンケート調査および臓器提供病院、移植施設への訪問調査を実施した。なお、本調査は、症例記録「臓器提供者情報経過記録」を基礎資料としているがコーディネーターの記憶に頼らざるを得ない面があるため、対象を直近年度に限定した。
骨髄移植におけるあっせん・コーディネートの費用(②)に関しては、ドナー発生からのコーディネーション費用に関してはすでに財団法人骨髄移植推進財団による調査がなされている(移植までの期間短縮に関する指標調査2002年12月実績)。しかし、実際のコーディネーション業務の多くはボランティアの活動に支えられており、その実質的な活動内容についての体系的な調査はなされていない。そこで既存の公開されている資料を整理することで、現在ボランティアによって担われている業務を含めてコーディネーションに要するコスト調査(2003年度実施)の基礎資料を作成した。海外の状況の調査(③)に関しては、フランス(Etablissement francais des Greffes:EfG)、イギリス・アイルランド(UKトランスプラント)における移植コーディネート団体の公表データを収集し、また渉外担当者に対して資料請求を依頼することで調査を進めた。またフランスでの海外調査を行い、以下3点について調査を行った。1.コーディネーションの実態について(フランスでの移植コーディネート団体(EfG)を訪問調査)。2.移植医療費の実態について(Caisse de L'Assurance Maladie(疾病金庫)を訪問調査)。3.移植医療の医療機関での実施体制について(サンテティエンヌ大学地域大学病院センターを訪問調査)。
結果と考察
①心停止下における腎移植のあっせん・コーディネートの費用についての調査については以下の点が明らかとなった。1.あっせん・コーディネートに要した人的資源投入量について。コーディネートに要した日数の中央値は2.2日、関わったコーディネーター人数の中央値は4名、延べ投入時間の中央値は103時間44分だった。また、コーディネートに要した日数の最頻値は1日以上2日未満(14件)、コーディネーター人数最頻値は4名(25件)、延べ投入時間の最頻値は60時間以上80時間未満(13件)だった。2.コスト計算結果について。あっせん・コーディネートに要した人件費(1件あたり)を「1.あっせん・コーディネートに要した人的資源投入量」をもとに、計算した結果は、中央値: 46万4,044円、最大値:330万4,339円、最小値: 7万9,047円、最頻値: 30万円以上40万円未満(19.3%)であった。また人件費以外の経費は、1件あたりの平均を算出した結果、コーディネーター派遣旅費が9万615円、緊急車輌費(リース料、駐車場費、燃料費)が20万9,929円、通信費が7万9,487円であった。人件費、経費を合計した移植コーディネーションの1件あたりのあっせん・コーディネート費用は、中央値が84万4,074円、最大値が368万4,370円、最小値が45万9,078円、最頻値が60万円以上70万円未満(22.83%)だった。本研究を通じて把握された臓器提供者1名当たりに要するあっせん・コーディネート費の中央値は84.4万円であった(人件費中央値46.4万円、経費1件当たり38.0万円)。現在あっせん・コーディネートに要する費用は移植医療を受けた患者に対し移植完了後1症例10万円が請求されている。そのため、1名の臓器提供者から2腎提供された場合には20万円のあっせん・コーディネート収入が社団法人日本臓器移植ネットワークに入る。これらの点から、患者が支払うあっせん・コーディネート費は、これらの業務を行うにあたり直接的に発生している人件費、経費額をカバーしていないことが明らかになった。今後の検討課題として、あっせん・コーディネートを受益者負担とする従来の仕組みを継続していく際には、実際のコスト と患者が負担する費用の範囲に関する整理を明確に行っていくことが必要であると考える。これは、説明責任の観点、さらに国庫補助の範囲、運営主体の責任範囲の明確化において必要な検討となろう。
結論
本調査研究の結果、2002年に実施された心臓死下における腎臓移植手術57症例中、55症例が20万円(両腎とも移植手術成功時に患者より請求可能な金額)を超過していることが明らかになった。また、国外調査によりイギリス、フランスにおいてはコーディネーション経費の負担は公的財源より支出されており(イギリス:保健省、フランス:雇用連帯省保健局・疾病保険)、患者負担は発生していないことが明らかになった。

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