後期高齢者における家族・地域の支援機能の変化と公的支援の活用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200200007A
報告書区分
総括
研究課題名
後期高齢者における家族・地域の支援機能の変化と公的支援の活用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 弘子(東京大学大学院人文社会系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 直井道子(東京学芸大学教育学部)
  • 小林江里香(東京都老人総合研究所)
  • 深谷太郎(東京都老人総合研究所)
  • 杉原陽子(東京都老人総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
7,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「介護の社会化」を提唱する介護保険制度の導入は、高齢者の家族の支援機能が変化してきた結果であるとともに、同制度の導入で公的支援が身近な選択肢となることにより、家族の支援機能をさらに変化させる原因ともなり得る。したがって、高齢者の私的支援の問題に焦点を当てた研究の緊急性・必要性は高い。とりわけ、保健福祉ニーズが高く、今後絶対数や人口に占める割合の増加が予想される後期高齢者を対象とする研究の必要性はきわめて高い。
本研究は、1987年から継承している全国高齢者の長期縦断調査と、1999年に開始した後期高齢者調査の追跡調査を、介護保険制度導入後の2002年に実施することにより、(1)私的支援の提供者としての家族(特に子ども)の機能の実態とその多様性をもたらす要因、および(2)健康悪化に伴う私的支援・公的支援の活用と支援間の相互関係の検討を行うことを目的とする。さらに、子どもとの同居率の低下など高齢者の家族形態が変化してきている現状を踏まえ、(3)高齢者支援における地域ネットワークの役割についても検討する。
研究方法
(1)全国調査の実施:本研究事業初年度である2002年度は、1987年からの対象者にとっては6回目(追跡調査としては5回目)、1999年に追加された70歳以上の対象者にとっては初めての追跡調査を実施した。調査対象者は過去5回のいずれかの調査に1回以上協力した人であり、住民票の除票確認により死亡が確認された対象者を除く3,901人(このうち、本研究の主な分析対象である1999年当時70歳以上だった高齢者は2,857人)であった。調査は2002年10月に訪問面接法で実施し、このとき一時的な不在や病気などの理由で回答できなかった対象者については、約2ヶ月後に再訪問して面接を実施した。重い病気等で本人に調査できなかった場合には、家族等に代行調査を実施した。
2)先行研究の検討および既存データベースの分析:相続と子どもからのサポートの課題について、主に日本国内で実施された相続に関する調査研究をレビューした。また、1999年調査の70歳以上の新規対象者1,405人を分析し、独居高齢者の社会的ネットワークの特徴を、その他の世帯類型(「夫婦のみ」「夫婦と子」「子ども」)の高齢者との比較によって明らかにした。
(倫理面への配慮)主任研究者が所属する東京大学人文社会系研究科には倫理委員会に関する規定がないため、分担研究者が所属する東京都老人総合研究所において倫理委員会の許可を得た項目について調査した。さらに、以下の配慮により倫理的問題は回避できると考える:(1)調査実施上の配慮:事前に調査の主旨と協力依頼を記載した文書を対象者に郵送し、拒否がない人に対してのみ訪問面接調査を実施する。また、調査協力の同意が得られた対象者に対しても、調査開始前に答えたくない質問については答えなくてもよいことを伝える。(2)回収済調査票の管理上の配慮:調査票は、研究者の責任において厳重に保管・管理する。また、回収された個人データは、統計的に処理・分析し、個人の機密に配慮する。
結果と考察
(1)2002年調査の回収状況:新たに実施した調査の回収率は、本人調査の完了者が約7割、代行調査の完了者を含めると8割強であった。ただし、2002年末時点では調査データのチェック作業が完了していないため、ここに示した数値は速報値であり、今後修正される可能性がある。今後、追跡期間中に脱落した対象者の特徴、欠票理由の分析など、データの質を詳細に検討する必要がある。
(2)相続と子どもからのサポートに関する先行研究の検討:相続意識に関する先行研究は、同居の長男に相続させる「伝統」型から、面倒をみてくれた子に相続させる「対価」型と自分が資産を老後の生活に消費する「自己消費」型の2つが増大してきた点を示唆していたが、相続の実態に関するデータは少なかった。われわれの研究では、配偶者と死別した女性高齢者に焦点をあて、夫の遺産がどのように分配されているのかという実態を把握するとともに、相続とサポートの関連を、全国調査データに基づいて明らかにすることができる。この点で本研究の意義が確認された。
(3)独居高齢者の社会的ネットワーク:独居高齢者が、同居家族がいないことを補うネットワーク構造を持つか、また同居家族以外のネットワークがその機能をどの程度代替しているかについて検討した。その結果、以下の点が明らかになった:(a)独居者の友人・近隣ネットワークの規模(人数)はその他の世帯類型と同程度であり、親族ネットワークの規模は相対的に小さかった。しかし、友人等との接触頻度は「夫婦と子ども」世帯より多く、限られた規模の人々と緊密な関係を持つ傾向があった。この結果は1987年調査を分析した先行研究の結果とも類似していた。(b)独居者は、保健福祉サービス情報の入手を除き、サポートを入手できない(サポート提供者がいない)リスクが相対的に高かった。サポート提供者がいる場合は、サポートを期待できる程度に差はなかった。(c)独居者では、別居子が主要なサポート源となっており、別居子がいる人ほどサポートを入手できないリスクが低かった。ただし、病気や寝たきりの世話については、別居子がいるというだけでなく、別居子が近くに住んでいることが、また、日常の簡単な手助けについては、別居子と日頃から頻繁に接触していることが重要であった。(d)情緒的サポートや日常の手助けの相手としては、独居者の3割前後が友人・近所の人を挙げており、友人数や友人らとの接触頻度が多い人ほどサポートを入手できないリスクが低くなっていた。これらのサポートに関しては、家族以外のネットワークでも代替可能であることを示している。
結論
1987年からの対象者にとっては5回目の追跡調査、1999年に追加された70歳以上の対象者にとっては初めての追跡調査を2002年10月に実施し、7割以上の高い回収率を得た。また、先行研究の検討と既存のデータベースの分析を行い、相続と子どもからのサポートの交換、および独居高齢者の社会的ネットワークの特徴について検討した。その結果、先行研究では相続の実態に関するデータは少なく、全国調査データに基づいて相続の実態を把握するとともに、相続とサポートの関連を明らかできる本研究の意義が確認された。また、独居高齢者は、同居家族がいないことを補完するより大きなネットワークを持つわけではないが、友人等との接触頻度は多い傾向があった。また、様々なサポートを入手できないリスクが相対的に高いものの、情緒的サポートや日常の手助けにおいては、友人や近所の人など家族以外のネットワークがサポート提供者になり得る可能性が示唆された。
データの質の検討や、縦断調査データを用いた分析、特に健康悪化に伴う私的支援・公的支援の活用と支援間の相互関係についての分析については、データベースが完成する2003年度の課題として残されている。

公開日・更新日

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