保健事業における個人情報の保護及び利活用に関する研究

文献情報

文献番号
200200005A
報告書区分
総括
研究課題名
保健事業における個人情報の保護及び利活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山英二(神戸大学)
  • 岡山 明(岩手医科大学)
  • 玉腰暁子(名古屋大学)
  • 衛藤 隆(東京大学)
  • 杉森裕樹(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康増進事業を実施する上で、個人情報の活用は生涯健康管理の観点からも有用な活動である。保健事業を推進するためには、個人健康情報をハイリスク戦略と併せてポピュレーション戦略に活用することが必要であり、この課程で個人情報の取り扱いには十分な配慮を必要とする。個人情報保護法が現在審議中であるものの、保健事業における個人情報の取り扱いについて検討することが、今後望まれる。そこで、現行の保健事業に関わる法規毎に、保健事業の内容を整理することで、今後のマニュアルの作成に必要な論点を整理することにある。
研究方法
以下の課題について、分担研究を行った。現行の保健事業に関わる保健事業を分担して、個人情報の収集、保管、事業内利用(定型業務)、非定型業務、開示訂正請求に関して整理した。地域保健法に関しては、岡山分担研究者が老人保健法に関して、玉腰分担研究者が感染症に関して整理した。衛藤分担研究者は母子保健法を、吉田主任研究者は学校保健法を分担した。職域保健に関わる労働安全衛生法については、杉森分担研究者と森研究協力者がまとめた。整理の方法につついて、情報の質や期限や入手経路を含めた収集について、保管、事業内利用(定型業務)、非定型業務、開示訂正請求毎に現行の状況を整理し、個人情報保護法と齟齬の無いように調整する資料を整理することとした。個人情報保護法と保健事業の関係について、総括的部分を丸山分担研究者が個人情報取り扱いの基本原則について検討した。
結果と考察
丸山分担研究者は、個人基本情報として、利用目的による制限、適正な取得、正確性の確保、安全性の確保、透明性の確保されることが規定である。個人情報保護法では、個人情報取扱事業には、利用目的の特定(個人情報取扱事業者義務規定については20条),利用目的による制限(21条),適正な取得(22条),取得に際しての利用目的の通知等(23条),データ内容の正確性の確保(24条),安全管理措置(25条),従業者の監督(26条),委託先の監督(27条),第三者提供の制限(28条),保有個人データに関する事項の公表等(29条),開示(30条),訂正等(31条),利用停止等(32条),理由の説明(33条),開示等の求めに応じる手続(34条),手数料(35条),個人情報取扱事業者による苦情の処理(36条),となる。保健事業における取扱において留意すべき点として、(1)利用目的による制限、(2)適正な取得、(3)正確性の確保、(4)安全性の確保、(5)透明性の確保が必要とされる。岡山分担研究者は、保健事業として老人保健法のおける1健康手帳、2基本健康診査、3健康相談、4健康教育、5機能訓練を挙げ、予算事業による保健関連事業として1健康づくり事業、2癌検診に分け、情報の質・保健場所・期限、入手経路、事業内利用、非定型業務、開示・訂正請求に分けて検討した。保健事業に関しては、事業の一環として健診成績などの個人情報を利活用することが求められるので、特定の承諾を必要としないが、追加項目の実施や非定型業務に関わる事業については、実施目的、実施主体や保管場所、個人特定情報の管理方法、入手方法、事業内利用、非定型業務では了解を得るために必要な情報を提示して了解を得る。玉腰分担研究者は、保健所の文書台帳から「結核」に関わる文書を挙げるとともに、結核発生動向調査事業について整理した。結核関連文書としては、結核医療費公費負担関連の決定、諮問、申請書、結核家族健診台帳、結核登録者個人索引カード、結核登録票など多くの文書が5年保存であるものの、結核健診実施計画や結核予防法で定める医師および管理者の行う届け出は1年間になっている。動
向調査においては、新規患者の情報は月報に、年末現在の登録者および登録除外者の情報は市町村に報告され、市町村が厚生労働省の中央感染症情報センターに報告する。衛藤分担研究者は母子保健分野における保健事業の関連として、「母子健康手帳」が中心であり、各家庭の保護者において記載され保管されるものである。妊産婦および乳幼児の検診において提示を求められることはあるが、幼稚園や保育所入園入所や学校入学において提出を求める可能性もあり、その取扱には注意を要することが指摘された。妊産婦および乳幼児健康診査では、医療機関委託されている場合には医療機関における情報として取り扱われており、一方集団健診の場合には「健康カード」などの媒体で保存されるので、保管、開示、廃棄方法、目的外使用の条件について取り決めておく必要が指摘された。吉田主任研究者は、学校保健に関わる健康情報として学校健診、保健調査、結核健診の問診調査の変更、保健教育における個人情報の取扱について整理して、保健調査や結核健診の問診の取扱について、留意点を指摘した。杉森分担研究者と森研究協力者は、職域における個人情報保護に関わる保健事業について整理した。労働安全衛生法第66条1 項「事業者は,労働者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,医師による健康診断を行なわなければならない。」で示されているように,事業者が実施する就業上の措置に必要なのものと位置付けられている。日本産業衛生学会「産業保健専門職の倫理指針」(平成12 年4 月) において「健康診断等を行うにあたっては,参加の有無による利益と不利益を労働者に十分説明し,その同意を得て行う。」とあり,法定の義務項目であっても,健診参加の有無による利益と不利益を労働者に十分説明し,その同意をて行うことが望ましいとされている。一方、職域では問診情報として、健康相談記録、家族歴、生活習慣情報、メンタルヘルス調査、診断書、適正配置に関する情報、就業配慮の意見書、個人曝露測定結果、労働災害関係の記録など多くの情報が取り扱われており、事業所内での共有化や開示に際して十分の配慮が必要である。
結論
健康増進事業の推進には、個人健康情報を利活用することが必要である。個人健康情報の入手、保管、定型的活用、非定型業務(研究的活用)、開示・訂正請求について、取扱の手順を明らかにすることが望まれ、個人情報保護法の成立と合わせてマニュアル規定かすることが望まれる。

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