在宅医療における臨床経済学的評価

文献情報

文献番号
200200002A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療における臨床経済学的評価
課題番号
-
研究年度
平成14(2002)年度
研究代表者(所属機関)
大久保 一郎(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤智(ライフケアシステム)
  • 吉岡洋治(筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,131,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後、在宅医療を推進していくためには、在宅医療に関する費用効用分析(Cost Utility Analysis)による効率性の評価の必要性が望まれる。
在宅医療の費用には直接医療費用(治療費用)以外に、直接非医療費(介護機器や介護のために家屋の改築等の医療関連費用、公的介護保険費用)や間接費用(家族介護時間、家族の休職等)が発生している。政策的に在宅医療をより一層促進させるためには、これら直接非医療費や間接医療費を含めた広範囲な費用計算を詳細に測定し、経済学的な負荷の実態を正確に把握する必要がある。また、在宅医療の効果は単に延命年数ではなく、QOLの概念を加えたものでなければならず、効用値(Utility)による測定が必要不可欠である。費用計算に加え、このような効果(効用)を同時に測定することにより、費用効果(効用)分析(Cost Effectiveness Analysis, Cost Utility Analysis)に代表される臨床経済学的評価が可能となる。
費用効用分析により、より高いQOLを獲得するために追加される費用(限界費用効用比)が測定されることとなり、これは患者家族に対して医療の場として施設または在宅を選択する上での重要な判断材料を提供することができる。
在宅医療が患者家族にとって経済的負担が大きいのであれば、その費用種類と金額が明確にされることにより、これらの負荷を軽減させるための補助金制度を創設することが可能であり、また患者家族の効用値の改善が費用の増加分ほどではなければ、効用値の向上のための地域における在宅医療支援システムを構築する等の施策立案の基礎的資料となることが期待できる。
そこで本研究では、臨床経済評価のアプローチによって、費用効果分析を行うためのパイロットスタディを行った。本研究は4部構成になっている。第1部は国民医療費における在宅医療の現状について。第2部は在宅医療の経済学的評価に関する研究論文の文献検討。第3部は臨床経済評価における費用の測定について。第4部は、臨床経済評価における効果の測定についてである。
研究方法
在宅医療国民医療費の推計は、社会医療行為別調査を用いて費用を推計した。調査対象期間として、平成4年から平成11年とした。
在宅医療の経済学的評価に関する研究論文の文献検討は、Cost comparisons between family-based care and nursing home care for dementia(Journal of Advanced Nursing, 1999,29(4),1005-1012)The willingness of families caring for victims of stroke to pay for in-home respite care-results of a pilot study in Taiwan(Health Policy 46(1999)239-254)とした。
臨床経済評価の費用と効果については、平成15年2月、山梨県都留市Tクリニックで在宅医療をうける患者32名の主たる家族介護者を対象として、Tクリニック看護師による訪問調査員の面接による他記式調査及び日記式記録は調査対象者による自記式調査行った。訪問調査員による文書と口頭による説明をし、同意を得られた回答者は22名を対象とした。
費用測定については、直接医療費用は、実際の治療費用を1週間の日記式記録で測定をした。直接非医療費用については、そのうち変動費用は日記式記録で測定し、固定費用は回顧的記録式により費用測定した。
間接費用については、人的資本法と支払い意思法で測定し、支払い意思法は、競りゲーム方式、世帯収入の割合及び受取意思法の併用で調査した。人的資本法は、1週間の日記式記録で測定した。
効果測定は、標準賭け法(SG)、時間交換法(TTO)、感覚温度計(RS)、Euro-QOLとした。
結果と考察
在宅医療に支出される医療費を国民医療費の視点からマクロ的に把握した。在宅医療の医療費推計は、平成11年は1兆65億円であり、平成4年と比べると平成11年は約3.2倍であった。また国民医療費に占める割合は、平成4年はおよそ0.31%、平成11年はおよそ3.25%であった。在宅医療のシェアは、増加しているものの依然として少ないと考えられる。
在宅医療の経済学的評価に関する研究論文の文献は、家族ケアと施設(ナーシングホーム)ケアの費用の比較検討及び家族ケアのレスパイトケアの支払い意思額について検討し、調査方法や分析方法は、本研究を実施する上で参考になり有用であった。
在宅医療における臨床経済学的評価の費用には、直接費用と間接費用があり、それぞれ測定方法が異なり、それぞれの課題を検討した。直接医療費用及び直接非医療費用のうち変動費用は、長期的な視点と前向きな視点が必要であり、今後の更なる検討課題とされた。また直接非医療費用のうち固定費用は、調査対象者による差が大きいことが明らかになった。間接費用は、支払い意思法(WTP)による測定では、99,868円(標準偏差72,578円、範囲10,000-250,000)中央値では75,000円であった。
在宅医療における臨床経済学的評価の効果には、単に延命年数ではなく、QOL(Quality Of Life)の概念を加えた効用値(Utility)を測定することを検討した。結果は、患者のUtilityの平均値は、SGで0.48、TTOで0.61、RSで0.51、Euro-QOLで0.51あった。
結論
診療報酬の改定毎に在宅医療の対象の拡大及び点数の引き上げが行われてきており、在宅医療国民医療費の推計によると、国民医療費に占める割合は確実に増加しているものの平成11年はおよそ2%であることが明らかになった。
在宅医療の経済学的評価を行う上で、その手法としてケア日誌や市場仮想法(WTP)を用いた調査方法が本研究に大変有用であることがわかった。
在宅医療の費用測定においては、記録の方法を、効果(Utility)測定には、質問項目の被験者への理解やそのための方法を考慮しなければならないことが示唆された。

公開日・更新日

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