医療安全推進のための教育・研修システムの開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101249A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全推進のための教育・研修システムの開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 廸生(横浜市立大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山美知子(厚生労働省看護研修研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
安全な医療を確保するためには、医療機関における安全文化の確立と個別の対策の強化が必要であるが、長期的には医療従事者に対する医療安全に関わる教育・研修が不可欠である。本研究では、橋本班ではおもに医師の初期教育の観点から、丸山班では看護教育の観点から医療安全に関わる教育・研修のありかたについて検討した。
橋本班:専門職への医療安全教育の中で、とくに、医師への教育を実践することは、極めて重要な課題と考えられる。しかし、卒前、卒後の医師への医療安全教育や研修について、どのような内容が実施されているのか明らかにされていない。そこで本研究では、全国の臨床研修指定病院ならびに大学病院を対象に、臨床研修の研修体制・プログラムの整備状況や、研修医の医療安全教育・研修の実態について調査を行った。また、それに加え、医療安全に関する卒前教育の現状とあり方や、諸外国におけるリスクマネジメントに関する専門職教育の取り組みについても検討した。
丸山班:看護・医療事故が大きな社会問題となり、臨床はもちろん、看護基礎教育においても看護・医療事故防止への早急な取り組みが期待されている。現在、看護基礎教育での看護・医療事故防止のための教育方法として「講義」や「判例を中心とした事例検討」が主に行われている。しかし、この方法の範囲では、事故を起こさないようにという「注意と動機付け」に終始し、看護・医療事故防止に向けての効果的な行動変容には限界がある。先行して実施した平成12年度の研究をもとに、本研究では看護基礎教育に適した看護・医療事故防止のためのシミュレーション教材を用いた教育方法を開発し、その教育方法の効果を検討した。
研究方法
橋本班:全国の臨床研修指定病院、大学病院の全施設を対象とした質問紙調査を行った。各施設の病院長宛に、自記式質問紙を配布し、回答を依頼した。調査項目は、病院の概要、臨床研修プログラム・研修体制の整備について、医療安全管理体制の確立、研修医の医療安全教育・研修の実施、の4つの項目群に分けられる。分析は、まず項目毎に単純集計を行い、次に、臨床研修プログラム・研修体制の整備、医療安全管理体制の確立、研修医の医療安全教育・研修の実施の3領域について、項目を集約したスケールを作成し、病院の設置主体、病床規模や研修方式などの病院特性との関係を検討した。また、病床規模あたりの研修医の人数、および、指導医の人数あたりの研修医の人数の比についても検討した。
丸山班:看護・医療事故のシミュレーションの開発については、まず、文献検討や、産業界における教材の開発状況を検討した。次に、パイロットスタディとして、研究メンバー等によるシミュレーション体験と検討を行った。そして開発されたシミュレーションモデルに沿って4名の看護師を、ヒヤリハット・事故を体験させた。シミュレーション体験によって看護師らが学んだ体験を明らかにするとともに、事故を起こした者への心的外傷のケアをあり方を検討するために、看護師への面接調査を実施した。
結果と考察
橋本班:回答は、278施設(回収率46.6%)から得られた。研修委員会や研修プログラムの整備、全般的な医療安全管理のシステムの整備については、ほとんどの病院で形式的な取り組みが認められたが、研修委員会がない、研修プログラムが明文化されていない、安全管理委員会がない、事故予防マニュアルがないという病院も認められた。研修医の医療安全教育については、初任時に医療安全に関わる全体研修を行っているのが7割強であることや、研修医がインシデントレポートを書くこと義務付けている病院が4割強と、十分に整備されている状況ではなかった。研修方式では、スーパーローテート方式を採用している病院ほど臨床研修プログラム・研修体制の整備や、研修医の医療安全教育の実施がなされており、ストレート方式の病院の取り組みがあまり推進されていないという結果が認められた。また、研修医の採用人数が多い病院ほど、臨床研修プログラム・研修体制の整備や、研修医の医療安全教育の実施がなされている傾向が見られた。また、病床数あたりの研修医の人数及び指導医あたりの研修医の人数が多い病院ほど、臨床研修プログラム・研修体制が整備され、研修医の医療安全教育が実施されているという結果であった。
丸山班:看護師を対象にした看護・医療事故のシミュレーション開発においては、文献的検討、本研究メンバー・看護師によるパイロットスタディの結果、6つのシミュレーション開発の条件を取り出すことができた。その条件は、①発生頻度が高い事故である、②看護・医療事故としての代表性がある、③再現性が高い、④現実感を伴う、⑤「自分で判断する」「自己の行為を選択する」など看護師の関与の度合いが高い、⑥患者との相互作用が存在することである。この条件を満たすシミュレーションとして、模擬患者を用いた「誤薬」と「転倒・転落」のシミュレーションを開発し、チャート式のモデルとして表した。面接調査の結果、「誤薬」のシミュレーション体験からは、「存在しない『絶対の確かさ』」「『ひっかかり』へのとどまりと拡大化」「『揺らぐこと』に価値を置く」「中断の区切りと取りかかりの明確化」「状況に応じた『今の確かさ』」がとり出され、「転倒・転落」のシミュレーション体験からは、「危険性の程度の予測及び察知した転倒・転落が出現する可能性の不確実」「患者の欲求優先か看護者の判断優先かのアンビバレンツの自覚化」「転倒・転落予防のエビデンスの追求」「メタ認知を生かした対処行動の習性」の学びの構造が取り出された。
結論
橋本班:研修委員会や研修プログラムの整備、全般的な医療安全管理のシステムの整備といった、基本的な事項に取り組んでいない病院がわずかに見られ、臨床研修病院として迅速な取り組みが必要であると考えられる。研修医の医療安全教育については、組織的な取り組みを行っている病院は多くない。今後、標準化された研修医の医療安全教育のプログラムの開発がなされ、教育・研修に組み込まれていくことが必要である。研修方式の観点からは、今後、スーパーローテート方式に転換していく病院や、中小規模の病院の臨床研修体制・医療安全教育体制の整備が望まれる。
丸山班:本研究では、看護師を対象とした看護・医療事故のシミュレーション開発及び、開発された「誤薬」「転倒・転落」のシミュレーション体験の学びの構造として、以下のことが明らかにされた。1.看護師を対象とした看護・医療事故のシミュレーション開発の条件は、①発生頻度が高い事故である、②看護・医療事故としての代表性がある、③再現性が高い、④現実感を伴う、⑤「自分で判断する」「自己の行為を選択する」など看護師の関与の度合いが高い、⑥患者との相互作用が存在することである。2.1で示された条件を満たすものは、模擬患者を用いた「誤薬」と「転倒・転落」のシミュレーションである。3.「誤薬」のシミュレーション体験の学びの構造は、「存在しない『絶対の確かさ』」「『ひっかかり』へのとどまりと拡大化」「『揺らぐこと』に価値を置く」「中断の区切りと取りかかりの明確化」「状況に応じた『今の確かさ』」である。4.「転倒・転落」のシミュレーション体験の学びの構造は、「危険性の程度の予測及び察知した転倒・転落が出現する可能性の不確実」「患者の欲求優先か看護者の判断優先かのアンビバレンツの自覚化」「転倒・転落予防のエビデンスの追求」「メタ認知を生かした対処行動の習性」である。

公開日・更新日

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