医療機関におけるリスクマネジャーの機能に関する研究

文献情報

文献番号
200101247A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関におけるリスクマネジャーの機能に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
井部 俊子(聖路加国際病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療事故を防止し、より安全な医療を提供するための組織的な取り組みとして、医療施設へのリスクマネジャー(安全対策担当者)の配置が進みつつある。しかし、安全対策担当者の組織的位置づけは病院によりさまざまであり、その役割や機能について標準的なあり方が示されていなかった。本研究では、安全対策担当者の位置づけや機能について現状を把握するとともに、組織特性等による相違を比較分析し、安全対策担当者のあり方についての知見を得ることを目的とする。
研究方法
全国の臨床研修病院を対象としたアンケートおよび先駆的取り組みを行っている医療施設へのインタビュー調査を行い、その結果の分析を踏まえ安全対策担当者のあり方に関する検討を行い、安全管理のための病院の組織体制や安全対策担当者の機能や役割についての提言を取りまとめた。本研究を実施するにあたって、医療安全管理対策の専門家で構成される検討会を設置し、調査計画の策定、結果の分析および検討を行った。
結果と考察
全国の大学附属病院および臨床研修指定病院(精神科を除く)584施設を対象としてアンケート調査を実施し、269施設からの回答を得た(回収率46.1%)。アンケート調査の結果、以下のような点が明らかになった。①専任の安全対策担当者を配置しているのは13.0%、兼任は73.3%であった。安全対策担当者は病院全体を担当する場合と、部門を担当する場合があり、病院全体は71.7%、診療部門では78.9%、看護部門では86.2%の施設で配置されていた。②専任の安全対策担当者の職種は看護師が88.2%を占めていた。③専任安全対策担当者の活動内容としては「事故・インシデント等の情報収集・分析・改善」(89.7%)、「改善策のための各部門への依頼・調整」(87.2%)、「マニュアル作成」(79.5%)、「教育研修等への取り組み」(79.5%)を中心に活動しており、「事故発生時の患者さんへの対応」(33.3%)、「クレームの収集分析」(33.3%)、「訴訟対応」(12.8%)は実施割合が低かった。医療安全に関して先駆的な取り組みを行っている9施設を選定し、安全対策担当者を対象にインタビュー調査を実施した。インタビュー調査の結果、以下のような点が明らかになった。①病院の安全管理のための組織体制として、経営幹部レベル、病院全体の安全管理を担当する実務者レベル、各部門や病棟ごとの安全管理を担当するレベルという3段階のマネジメントレベルの設定が一般的である。②経営幹部レベルでは、副院長などの経営幹部が安全のための委員会の委員長を兼任している。③病院全体の安全管理を担当する実務者レベルでは、組織上病院全体を担当することが明確に位置づけられているケースと、部門に専任で所属し実態上病院全体の安全管理に関わるケースとがあるが、どちらの場合も主に看護職がその任を担っている。④いずれのケースでも各部門・病棟ごとの安全管理を担当する者を配置している。⑤事故発生時には臨時の委員会を立ち上げるなど、事故への対応は安全管理と連携しつつも別の枠組みで行われていることが多かった。⑥安全管理のための独立した部門がある場合、その部門は院長直属の組織で、委員会の事務局的機能を果たしており、病院全体の安全管理を担当する安全対策担当者はこの部門に属している。⑦独立した部門がない場合、委員会の事務局は事務部門が行っている。この場合、インシデント情報の収集分析にあたって専門的観点からの分析が行えないとの指摘もあった。⑧看護部には病院全体のものとは別に安全のための委員会が設置されていることが多い。⑨看護部門の委員会では、部門内のインシデント情報の分析・マニュアルの作成など部門独自の取り組みを行っていることが多い。その結果を病院全体の委員会へ報告すること
で⑥の問題を解決しているケースも見られた。以上の結果を踏まえ以下のような考察を行った。①安全対策担当者には施設によって異なるレベルや機能を設定しており、その名称のつけ方も様々であった。本研究では、病院全体の安全管理を担当する実務者を「医療安全管理者」、部門・病棟ごとの安全管理を担当する者を「医療安全推進者」と呼ぶことを提案する。②安全管理の問題には病院全体で組織的に取り組む必要があり、特に管理者のリーダーシップが非常に重要である。③病院全体の医療安全対策を担当する専任の医療安全管理者の配置が必要である。④医療安全管理者の機能として、以下のようなものが挙げられる。「インシデント情報・事故情報の分析(定量・定性)」「安全管理対策の立案・調整・周知」「職員への教育研修」「院内の安全に関する相談および助言」「安全に関わる他の委員会との連携」⑤医療安全管理者には以下のような能力・資質が求められ、今後はこれらの能力開発ができる教育体制を整備することが必要である。「インシデント・アクシデント報告を分析するための専門的な医療の知識および分析手法の知識」「データに基づいて議論を構築できる論理的思考能力」「院内の各部門との連携、調整あるいは交渉ができる高いコミュニケーション能力」「合理的な安全対策を立案する問題解決能力」「各種情報の収集・分析・加工のためのコンピュータリテラシー」「医療安全という新しい分野にひるまず挑戦する意欲」
結論
本研究では、臨床研修病院における医療安全管理に関する実態を把握・分析し、病院の安全管理体制および安全対策担当者のあり方について検討した。

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研究報告書(紙媒体)

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