病院からの医療事故関連情報の集積に向けた方法の確立とその分析による効果的な事故防止策の実施に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101246A
報告書区分
総括
研究課題名
病院からの医療事故関連情報の集積に向けた方法の確立とその分析による効果的な事故防止策の実施に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大道 久(日本大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 今中雄一(京都大学大学院)
  • 寺崎 仁(日本大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療の質を確保する上での基本である安全な医療を実現するために、病院における医療事故および警鐘的事例報告を集積する体制を構築し、集積された事例についての要因分析等から得られた効果的な事故防止策を医療の現場に還元して、病院における医療事故防止の徹底を図ろうとするものである。
研究方法
日本医療機能評価機構が認定した病院の中から、医療事故防止に熱心に取り組んでいる約50病院に対して、医療の質向上の取り組む認定病院の立場から、患者安全の確保に効果的な方策について協議し、その推進のために有効な活動を行うことを呼び掛けた。これに対して47病院から賛同の回答を得て、各病院から管理者(病院長)と医療事故担当の実務責任者の2名が研究協力者として本研究に参画する体制を整備した。具体的な活動として、定期的に班会議を開催して必要な課題を検討することとし、この研究協力者会議の名称を「日本医療機能評機構認定病院患者安全推進協議会」とした。また、この協議会の下に実務責任者による「実務者部会」を置いて、実務的な検討の場とした。一方、医療事故に関する原因分析の方法論、報集積過程のプライバシー保護とセキュリティ、小規模病院におけるリスクマネジメントなどの課題についても、別に検討が進められた。
結果と考察
第1回患者安全推進協議会では、協議会設置の背景と経緯、協議会の基本的趣旨・目的と役割、協議会が収集する情報の内容と範囲、情報提供するうえで配慮されるべき条件などが協議された。それらを踏まえて、初回の実務者部会では、収集される事例の範囲、医療事故関連情報集積のための前提条件、情報のデータ形式・様式と情報提供方式が検討された。第2回実務者部会では、集積データの分析・評価と情報還元、医療事故の発生場面の類別化・種別化、情報提供のための様式・項目の検討が行われ、第3回の実務者部会では、事故発生場面の類別化「運用版」の検討、「医療事故関連情報提供書」の記載事項、「患者安全推進提案書」の記載事項・様式の素案が提案された。年度内最後の患者安全推進協議会では、改めて患者安全推進協議会の趣旨と活動方針を明確にし、「患者安全情報提供書」と「患者安全推進提案書」による情報の提供、事故発生場面の類別化・種別化の提案、情報管理体制と匿名性の確保、「患者安全推進専門部会」の設置などが承認された。そして、次年度から実際の情報提供とその分析、相談・助言などの活動を開始する方針が確認された。
本医療機能評価機構が、医療事故に関する情報を集積して、その原因を分析して広く病院に還元することにより事故防止を図ることについては、ほとんど異論はないものと思われる。また、病院から医療事故に関連したさまざまな問題について相談を受け、助言をすることについても、医療の質向上に関する支援事業をすることが評価機構の本来の役割であるところから、十分に期待される活動であろう。ところが、医療事故に関して病院の立場から現在求められているものは、現実に起こってしまった医療事故の原因と、その責任の範囲や程度を中立的・客観的に判断して、患者・家族との間に入って仲介・調停の役割を担う適当な組織・機関である。協議会における論議においては、日本医療機能評価機構がこの役割を担うべきであるとする意見、または期待には大きなものがある。しかし、起こった個々の医療事故について調査し、当事者間の仲介・調停の役割を担うことについては、賛否は分かれている。日本医療機能評価機構の本来の役割は病院認定事業であり、事故調査や当事者間の仲介・調停の役割を行うことは想定されていないとする意見と、行政や警察への報告・届出という手続きで対応されている医療事故についての非専門的な扱いが、医療機関側はもとより患者・家族にとっても本意な結果を招いている場合が少なくないので、早期に適切な組織・機関を確立する必要があるという認識から、学術的・中立的専門組織である日本医療機能評価機構がその役割を担うことが大いに期待される、とする意見が相半ばしている状況である。この問題は、患者安全に関する情報提供を受け、協議会や専門部会による協議・検討をへて、その成果を病院に還元してゆく中で、どの程度の社会的評価を得ることができるかにかかっている。当面は、「患者安全推進提案書」と「患者安全情報提供書」による情報提供を受けて、医療事故の原因分析と防止策の提示、およびその有効性の評価などを行い、要望に基づいて相談・助言の活動を継続してゆくことが課題であると考えている。
結論
医療事故および警鐘的事例に関する情報の提供については参画病院の概ねの合意が得られ、経験された医療事故から得られた教訓については「患者安全推進提案書」、個別の事例に沿った情報については「患者安全情報提供書」の2種別の様式によって情報提供を受けることとした。また、医療事故、及び警鐘的・教訓的事例の情報を提供する上で、手術・薬剤・検査などの基本区分とともに、それらの発生場面を想定しておくことが有効であり、具体的な発生場面の類別化・種別化を図った。情報管理体制と匿名性の確保について検討し、情報管理者を置いて、提供された情報の入力、検索、編集、統計処理等の段階での情報破壊・改竄の防止に万全を期すとともに、情報分析のための検討会議や協議会への情報提供に当って、その匿名性の確保に最大限の配慮をすることとした。患者安全推進協議会に、医療安全に関する専門家、法律家、当協議会のなかの適任者などにより構成される「患者安全推進専門部会」を設置し、提供された情報の分析と評価を行うこととした。情報の分析と評価の結果は、情報提供病院に報告・助言を行うとともに、適切に加工して広く認定病院に情報として還元することとした。
「患者安全推進提案書」、及び「患者安全情報提供書」については、今回得られた所定の様式によって平成14年度から情報提供を受け入れを開始し、「専門部会」の検討を経た後、協議会において協議し、その成果を公表する方向で活動を進める。また、本研究の成果を踏まえ、医療事故とその原因、及び対応策等に関する相談を受け、要望に応じて助言・勧告を行うことを事業化することを検討する。第三者の中立的立場から事故について調査することや、当事者間の仲介・調停を行うことなどについては、関係者の意見や周辺の動向を踏まえて論議を継続する。

公開日・更新日

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