看護職における男女共同参画の課題と可能性に関する研究

文献情報

文献番号
200101242A
報告書区分
総括
研究課題名
看護職における男女共同参画の課題と可能性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
矢原 隆行(福山市立女子短期大学)
研究分担者(所属機関)
  • なし
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
3,037,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来、看護職、介護職等ケア・サービスを行う職業領域は、典型的な女性的職業として、その多くが女性によって担われてきた。この背景には、家庭における女性役割を含む社会構造に深く刻まれたジェンダー構造の存在があるが、膨大な量の看護・介護問題を考えるとき、家族にせよ専門職員にせよ、男性が看護・介護に従事することなしには、真の意味での男女共同参画社会の到来はおぼつかない。他方で、未だ少数派とはいえ、これらの領域に進出する男性の数は近年、着実に増大している。こうした社会的背景をふまえ、本研究においては、広範囲に男性ケア・サービス専門職をめぐるマクロおよびミクロな現状を把握するとともに、そこで彼らが抱える諸課題を明らかにし、より有効な人的資源の活用を可能とする方策について検討することまでを目指す。具体的には、男性ケア・サービス専門職に焦点をおいた質的(今年度)および量的(次年度)実態調査を行い、わが国の看護・介護職における男性活用の課題と展望について具体的に検討する。
研究方法
今年度は、次年度計画の量的調査のパイロット・スタディとして、1)男女看護・介護職関係者への面接調査、2)男性看護・介護職者をめぐる従来の諸議論および先行研究のレビュー、を実施した。
1)の面接調査は、おもに2001年9月~2002年3月にかけて、スノーボール・サンプリングおよび理論的サンプリングにより抽出された年齢、経験年数、勤務施設、地位(学生および既退職者も含む)等多様な男女看護・介護職関係者80名(地域は九州地区を中心に他地区も含めた全国の10都道府県)を対象とし、集団面接および個人面接の形式で行った。面接方法は、おもにHolstein,J.and Gubrium,J.によるactive interviewを参考とした。
2)の男性看護・介護職者をめぐる従来の諸議論および先行研究のレビューについては、おもにこれまでの国内の看護・介護系学会における当該テーマに関わる報告、および学会誌、商業誌等における論文、特集記事等を包括的にレビューし、さらにそれらの研究者のうち直接面談が可能である者については、面談の上、当該テーマについて討議を行った。
結果と考察
1)男女看護・介護職関係者への面接調査:インタビューにおけるトランスクリプトをひとまずいくつかの職業ステージ(進路選択段階、学生段階、スタッフ段階、指導者・管理者段階)ごとに分類・整理するとともに、各々の段階におけるストーリーの解釈を通して、それらの多くを貫く職業/性/感情という男性看護職をめぐる語りにおける三つの主要な概念を見出した。これらは多数の語りにおける複数の水準で前景、後景に現れ、いずれかがいずれかに影響を及ぼし、規定的な働きを有する概念であり、個々の概念自体が多様なプロフィルを有するものの、語りにおける一種のアトラクタと見なし得る。すなわち、職業→性、性→感情、感情→職業、職業→感情、感情→性、性→職業といった図式的であるがダイナミックな把握を可能にするものである。2)男性看護・介護職者をめぐる従来の諸議論および先行研究のレビュー:男性看護職をめぐる従来の諸議論においては、看護職という女性化された職業カテゴリーに対して「看護士」を位置づける方法として、看護職に対して男性性を不可視化すること、および男性性を可視化することの二つの戦略が確認された。男性性の不可視化にはさらに二つのアプローチがある。ひとつは、看護職自体の職務内容を女性性や男性性に本来的に関係のないものとみなすことにより、職業としての看護職をジェンダー・カテゴリーの対象から引き離すことである。そして、もうひとつは、個人としての看護士における男性性を不可視化することである。逆に、男性性の可視化戦略は、女性的職業としてジェンダー化されている看護職に対して、あえて女性よりもむしろ男性としての看護士が必要であるような領域を創出するものである。ただし、いずれの戦略も部分的な有効性と限界を有していることが確認された。
結論
従来の男性看護職に関する先行研究が、その配置状況やイメージに関する性差の観点からのおもに量的な研究であったのに対し、今回、質的研究法を駆使することにより、多様なステージにおいて生じる課題とそこにはらまれた可能性について、当事者の語りを通して浮かび上がらせることができた。そこで収集したデータから明らかとなったのは、①職業/性/感情という男性看護職をめぐる語りにおける三つのアトラクタの存在、②男性性の可視化/不可視化という二つの戦略とその限界であった。今回の研究成果にもとづく次年度の量的調査研究により、看護職における男女共同参画の課題と可能性についてさらに明確化できるものと考える。

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