専門看護師の看護ケア技術とその効果および疼痛マネジメント事例の分析

文献情報

文献番号
200101241A
報告書区分
総括
研究課題名
専門看護師の看護ケア技術とその効果および疼痛マネジメント事例の分析
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
小迫 冨美恵(横浜市立市民病院)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤まゆみ(北里大学病院)
  • 中村めぐみ(聖路加国際病院)
  • 濱口恵子(静岡県立がんセンター開設総室)
  • 吉田智美(神戸大学医学部附属病院)
  • 田村恵子(淀川キリスト教病院)
  • 角田直枝(筑波メディカルセンター訪問看護ステーション)
  • 伊奈侊子(三重大学医学部看護学科)
  • 梅田恵(昭和大学病院)
  • 岡田美賀子(聖路加国際病院)
  • 大谷木靖子(昭和大学横浜市北部病院)
  • 千﨑美登子(北里大学東病院)
  • 豊田邦江(細木病院)
  • 松本仁美(新日鐵広畑病院)
  • 花出正美(日本看護協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,798,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、がん看護専門看護師の疼痛マネジメントの実践過程を記述し、がん看護専門看護師の疼痛マネジメント技術を明らかにすることであった。
研究方法
対象者は、日本看護協会の認定を受けているがん看護専門看護師で、がん看護専門看護師自身が関わった疼痛マネジメントの実践事例を提供することに、同意が得られた4名であった。対象者に疼痛マネジメントの実践事例を語ってもらい、がん看護専門看護師10~12名による事例検討を行い、対象者および事例検討の参加者の同意を得て、対象者の語りと質疑応答を含む事例検討の様子をテープ録音し、逐語録を作成した。逐語録中の対象者の語りをデータとし、分析は、質的帰納的方法によって行い、4事例それぞれについて、がん看護専門看護師が行う疼痛マネジメント技術および専門看護師の機能から見た疼痛マネジメント技術を分類して記述した。匿名性の確保に配慮し、必要に応じて所属施設の倫理委員会の承認を経て研究協力の同意を得た。
結果と考察
がん看護専門看護師(以下、CNS)が行う疼痛マネジメント技術の特徴は、以下であった。
・ 事例Aにおいて、CNSは、疼痛マネジメントに関わる人々の認識のズレをリソースの活用をして調整し、患者・家族が痛みと共存した生活ができるように支援していた。
・ 事例Bにおいて、CNSは、正確な疼痛アセスメントに基づいて家族の凝集性が疼痛に影響していることを見抜き、スタッフの力量とケアのタイミングを見定めて、患者・家族に最大の効果をもたらすケアを吟味しつつ、働きかけていた。
・ 事例Cにおいて、CNSは、疼痛マネジメントのプロセスで患者にとっての「痛みのもつ意味」を見い出し、ナースに教育的に関わっていた。
・ 事例Dにおいて、CNSは、外来という限られた時間の中で瞬時に疼痛マネジメントの優先性を判断し、協働者とのアクセスを開始していた。
すべての事例においてCNSは、伝統的自然科学的な観察や測定、現象に潜む意味の探求、相互作用を通しての自己理解、倫理的な判断といった多面的な複数の技術を駆使し、それらを統合し、一体化しながら疼痛マネジメントを展開していた。
・ CNSは、WHO除痛ラダーにもとづく段階的な薬物療法の知識やがんの病態のアセスメント、およびトータルペインとしての苦痛のアセスメントという疼痛マネジメント技術を用いていた。すなわちCNSは、必要に応じて自らが、医療情報を活用して詳細なフィジカルアセスメントを行い、治療や今後の見通しについて医師の見解を確認し、他の専門職とともに討議していた。また、苦痛を身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、またスピリチュアルな苦痛へと分割してアセスメントすることはなく、まさに分割不能な全体性を保持しながら患者の個別的な痛みの現象を捉えていた。
・ トータルペインへの焦点化の始まりは、CNSの「何かおかしい」という気づき、あるいは直観であり、CNSは、患者・家族に出会った時の現象を瞬時に捉えて、疼痛マネジメントの見通しを想定していた。そして、CNSが想定する疼痛マネジメントの見通しは、固定的なものではなく、情報を刷新しながら修正されていく柔軟性をもつものであり、Bennerの達人ナースの卓越性を認識する原点と一致していた。
次に本研究において明らかになった、専門看護師の機能から見た疼痛マネジメント技術の特徴は、以下であった。
・ CNSは、患者のみ、また痛みのみに焦点をあてるのではなく、疼痛マネジメントへの主体的参加者として家族を捉えていた。
・CNSの実践機能の特徴は、患者・家族の反応や状況に合わせて自分自身のありようを考え、振り返るということを繰り返しながら実践していくという姿勢にあった。
・ CNSのコンサルテーション、コーディネーション、教育機能においてCNSは、個々の事例にかかわる問題に応じて、押すか、引くかという自らの介入の必要性を見極め、スピードと深さを併せ持ちながら複数の機能を統合して発揮していた。
・ CNSは、ナースの力量を査定して、その力に応じた働きかけのタイミングや指導内容を吟味し、ナースに対する教育的機能を常に意識していることで臨床におけるOn the Job Trainingに貢献していた。
・日本看護協会が規定している専門看護師に期待されている5つの機能、すなわち、実践、コンサルテーション、コーディネーション、教育、研究以外に、「変化を起こすチェンジエージェントとしての技能」や「自らの実践やコンサルテーションの評価を含む洞察」が見て取れる事例もあった。
CNSは、癌の病態に関する専門知識や疼痛マネジメントに必要な知識、倫理的実践能力、およびマネジメント能力を基盤として疼痛マネジメント技術を駆使し、CNSとしての機能を発揮していることが示され、これらがCNSの疼痛マネジメント技術の卓越性の源であると考えられた。
結論
疼痛マネジメントにおけるCNSの実践事例の記述から、CNSの疼痛マネジメント技術の卓越性の源は、癌の病態に関する専門知識や疼痛マネジメントに必要な知識、倫理的実践能力、およびマネジメント能力であり、CNSは、患者・家族に対する直接的ケアの側面、ナースの実践を支え教育する、他の専門職との協働を推進するという間接的な側面の双方から、わが国のがん患者の疼痛緩和の課題解決に貢献していることが示された。

公開日・更新日

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