精神専門看護師の直接ケア技術の開発及び評価に関する研究

文献情報

文献番号
200101239A
報告書区分
総括
研究課題名
精神専門看護師の直接ケア技術の開発及び評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
野末 聖香(慶應義塾大学看護医療学部)
研究分担者(所属機関)
  • 宇佐美しおり(熊本大学医療技術短期大学部)
  • 若狭 紅子(東京女子医科大学看護学部)
  • 片平 好重(横浜市立市民病院)
  • 福田 紀子(横浜市立大学医学部付属市民医療センター)
  • 釜 英介(都立松沢病院)
  • 早川 昌子(関西労災病院)
  • 岡谷 恵子(日本看護協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,086,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神看護専門看護師(精神CNS)の直接ケア技術の実態と、その成果を明らかにすることを目的とした。
研究方法
精神CNS8名を対象に面接調査を、また精神CNS8名と病棟ナース19名を対象に質問紙調査を行なった。面接調査は、精神CNSの直接ケアの対象、内容、成果について半構成的質問紙を用いて行なうもので、面接は、精神看護を専門とし、かつ質的研究の知識と経験の豊富な研究協力者が行った。質問紙調査は、精神CNSの直接ケアの効果を測定するために、CNSの直接ケア前後における患者の精神状態やセルフケアレベルについて評価するものであり、評価には、BPRS(Brief Psychiatric Rating Scale)、GAF(Global Assessment of Functions)を全症例に、メニンガー患者分類表を精神疾患をもつ患者のみに用いた。質問紙は無記名で、郵送法により回収した。
面接データの分析は、対象者の許可を得て、テープ録音し、逐語録を用いて質的な分析を行った。分析はCNSが関わった問題と背景、アセスメント、介入の組み立て、介入、成果という視点から、コード化、カテゴリー化を行った。分析結果の信頼性・妥当性を高めるために、データ分析は精神看護のエキスパートであり、かつ質的研究に精通した助言者とともに行った。また、BPRS、GAF、メニンガー患者分類表のデータ分析については、精神CNS、ナースごとに、精神CNS介入前後で合計点を比較し、2群間で母平均値の差の検定を行った。
研究における倫理的配慮については、精神CNSの所属長及び、対象者の研究協力の同意を得、必要に応じて病院の研究倫理委員会の承認を得た。また、患者に対しても研究協力の承諾を得た。データの分析、研究結果の公表に際しても、対象者及び調査の中で知りえた患者の情報について匿名で扱うなどの倫理的配慮を行なった。
結果と考察
面接調査の結果、精神CNSの直接ケアの技術とその成果について、持ち込まれる問題及び背景、アセスメント、介入の組み立て、介入の実際、成果、直接ケアへの影響因子、という視点で分析することができた。その結果、以下のことが明らかになった。
まず、精神CNSに直接ケアが依頼されるのは、患者の精神的・身体的問題が複雑化、長期化していて、改善の見通しが立ちづらい問題であり、かつ、その問題の改善に対して、ナースや他の医療スタッフがやる気を無くしたり、ケアの方向性が見出せない状況に陥っているときであった。直接ケアを依頼された精神CNSは、患者の心身の問題をアセスメントすると同時に、家族や、ナース、医師といった医療スタッフの抱えている葛藤や、関係者間で起こっているダイナミズムをシステム論的に捉え、分析していた。このようにして行なったアセスメントに基づいて、介入を組み立てていた。介入の組み立ては、精神看護のエキスパートとしての技術を用いた直接ケアに加え、看護チーム、医療チームが主体的に、連携してケアに取り組めるように計画していた。患者に対する直接ケアとしては、精神療法的アプローチ、認知・行動療法的アプローチ、リラクセーション、教育的アプローチなどがあり、それに加え、家族の支援、ナースへのコンサルテーション、サポート、教育、他の医療職者との連携、調整、といった働きかけを統合的に行なっていた。精神CNSの介入の成果として、患者には、過喚起発作の消失、不眠の改善、自傷行為の減少、抑うつ気分の改善といった心身の症状改善や、症状悪化や二次的障害の予防、日常生活行動の拡大、ストレス対処能力の向上、といった変化が認められた。家族には、家族自身の精神状態の安定、患者理解の深まり、対処行動の改善が認められた。また、ナースには、ケア意欲の回復、患者理解の深まり、ケアの幅の広がりなどが認められた。さらに、看護チーム、医療チームの協力、連携が促進された。
また、質問紙調査の結果、精神CNSの介入後、患者の精神状態とセルフケア行動が有意に改善した、ということが明らかになった。例えば、不安の軽減、心気的訴えの減少、抑うつ気分の改善、緊張緩和、といった精神状態の改善が認められ、全体的な精神機能が改善しており、食事、個人衛生、活動といったセルフケアのレベルが向上していた。
以上のような患者の変化は、精神CNSの介入のみによってもたらされたとは言えないが、精神CNSの介入後、それまで問題が複雑で治療が難航しており、改善が困難な状況にあった患者の心身の状態やセルフケアレベルに改善が認められたということは、精神CNSが患者の直接ケアにあたり、かつ、家族、医療スタッフにもコンサルテ-ション、心理的サポート、教育、調整といった機能を用いて統合的に関わったことが大きく影響していると考えられる。すなわち、精神CNSは、直接ケアによって患者の回復を直接的に助けるが、さらに医療職者に対しても支援を行い、統合的な介入によって、医療チーム全体が、質の高いケアが提供できるように働きかける。このような精神CNSの直接的、間接的働きかけによって、患者に、より効率的で良質の医療サービスを提供することができる、ということが示唆された。今後は、対象とする症例数を増やし、精神CNSの働きかけの内容と成果をさらに詳細に分析する必要がある。
結論
精神CNSに直接ケアが依頼されるのは、患者の精神的、身体的問題が複雑化、長期化していて、かつ、その問題の改善に対して、ナースや他の医療スタッフがケアの方向性を見出せない状況に陥っているときである、ということがわかった。直接ケアを依頼された精神CNSは、患者の心身の問題をアセスメントすると同時に、家族や、ナース、医師といった医療スタッフの抱えている葛藤、関係者間で起こっているダイナミズムをシステム論的に捉え、分析していた。このようにして行なったアセスメントに基づいて、介入を組み立てていた。患者に対する直接ケアとしては、精神療法的アプローチ、認知・動療法的アプローチ、リラクセーション、教育的アプローチなどがあり、それに加え、家族の支援、ナースへのコンサルテーション、サポート、教育、他の医療職者との連携、といった働きかけを統合的に行なっていた。
精神CNSの介入の成果として、患者には、過喚起発作の消失、不眠の改善、自傷行為の減少、抑うつ気分の改善といった心身の症状改善や、症状悪化や二次的障害の予防、日常生活行動の拡大、ストレス対処能力の向上、といった変化が認められた。また、家族には、家族自身の精神状態の安定、患者理解の深まり、対処行動の改善が認められた。ナースには、ケア意欲の回復、患者理解の深まり、ケアの幅の広がりなどが認められた。さらに、精神CNSの介入によって、看護チーム、医療チームの連携が促進される、ということが明らかになった。

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