医療機能の分化と連携を目指した医療計画の在り方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101230A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機能の分化と連携を目指した医療計画の在り方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 武藤正樹(国立長野病院)
  • 平尾智広(香川医科大学)
  • 野中博(東京都医師会)
  • 長谷川友紀(東邦大学)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター)
  • 中村修二(鹿児島県保健福祉部)
  • 横山重喜(静岡県総合健康センター)
  • 河原和夫(東京医科歯科大学)
  • 相馬孝博(国立医療・病院管理研究所)
  • 加藤尚子(国際医療福祉大学)
  • 芳賀克夫(国立熊本病院)
  • 石原明子(国立精神・神経センター)
  • 松本邦愛(国立医療・病院管理研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
19,915,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨今「介護保険制度」の成立や「健康日本21計画」の開始といった医療、福祉制度の劇的改変による医療計画を取り巻く環境の変化があり、さらには将来的には「第4次の医療法改正」に対応した新たな医療計画のあり方が現在、求められている。本研究は法制化当時とは大きく様変わりした医療計画の目的や目標を見直し、従来の「病床規制」から「医療の質や効率の改善」を目指して、「医療システム機能の分化や連携」を推進するための計画へと転換するに資することを目的としている。この研究により地域の医療システムの機能が分化し、役割を分担して連携することによって健康結果、医療の質、効率の改善に資する「新しい医療計画の策定法」の開発が期待される。日本の医療供給体制は、外来と入院、一次と二次・三次機能、長期と急性期、医療機能と福祉機能、薬局と医療機関の機能が未分化である。これらの背景や現状を踏まえて、医療計画の諸側面を総合的且つ系統的に評価することにより都道府県の医療計画策定を支援するとともに、今後の医療計画の在り方の検討を行うことを目的とした。
研究方法
1.社会学的評価1)県別アンケート-都道府県医療計画に関して、その策定過程、実施過程、評価過程の現状を明らかにするために、全都道府県の現行医療計画策定担当者及び、次期医療計画策定担当者を対象にアンケート調査を実施した。2.病院機能分析1)3つの病院論-日本の病院の平均在院日数は世界標準からみて例外的に長い。その一つの原因として日本の病院が急性期病院以外にいくつかの特性を持つ病院が存在することが研究によって明らかとなってきた。しかし、日本の平均材医院日数は、戦争直後はそれほど長くなく、近年に至り延長するに至ったことが判明している。そこで、規模別の病院機能特性を歴史的に分析した。2)歴史的分析-日本の医療システムの特徴を分析し、その歴史的変化の動向を捉えてみたい。更に医療システムが転換しつつある諸要因を分析し、それらがいかに医療システムの変化と関連するかを分析した。最後に要因の一つである日本の医療政策を世界的な潮流の中から位置づけてみる。3)クラスターによる病院分析-規模別、時系列分析により日本の一般病院は機能別に急性期型、長期型、外来型と3つに分類することができ、さらに未分化を加えて4つのグループが存在することが、先行研究により明らかとなっている。そこで、統計的手法を用いて、現時点での横断的な病院機能に基づいて、一般病院を4グループに分類し、それぞれのグループの特性を比較分析した。3.病床数分析-日本には大規模病院を中心とする急性期型の病院、中規模病院を中心とする長期型の病院、小規模病院を中心とする外来型の病院が存在していることが示唆されてきた。そこで本研究は医療施設調査や病院報告の個票を用い、個々の病院の機能特性を病床規模と対応して分析し、日本の病院には機能特性の異なる病院群が存在することを明らかにしようとするものである。4.医療の質評価1)結核-結核の医療の質を県別評価に評価するための第一歩として、本研究ではまず、結核の罹患率を県別に比較した。分子に県年齢階層別の新規登録患者数を、分母に県年齢階層別の人口を用いて、県
年齢階層別に罹患率を求めた。また、年齢10歳階級別の罹患率を1985年の基本人口を用いて、年齢調整罹患率を求めた。2)精神-医療計画で示された精神病床の算定式をもとに、精神病床の整備状況について過剰地域、不足地域を明らかにし、その背景について分析する。本研究では、地域ごとの精神保健対策が、医療計画に定める精神病床の過不足について、適正な病床数の整備に向けた具体的な施策策定の一助となることを目的に、地域ごとの疾病別の病床利用状況比較から、特に病床過剰地域における今後の精神保健施策の方向性をについて分析した。ここでは医療計画に示された算定式による基準病床数と既存の病床数との比較において、過剰地域、不足地域、それぞれ上位5県について、資料を作成、整理し、どのような特徴があるか分析した。3)難病-特定疾患受給者数は、疾病の疫学的推移のみならず、政策的、社会的要因が大きく関与する。本研究では、特定疾患についての政策提言を行う目的で、総受給者数の将来予測、各特定疾患受給者のトレンド、疾患別の将来受給者数の推定を行った。4)地域評価(県別)-都道府県レベルでの医療の質の現状を明らかにするため、暫定的ではあるがここではいくつかの疾病を選択し、それぞれの疾病ごとの指標を用いて地域評価した。今回は、母子、循環器、泌尿器、がんを対象として指標を設定し、重み付けをせずに各県ごとに順位付けをした。
結果と考察
1.医療計画の社会学的評価に関する研究1)医療計画の政策ツールとしての信頼性は前回調査時(1995)と比較して格段に増していることが明らかとなった。また、医療計画が今後の医療政策分野の課題について貢献しうると考えられている。しかし、一方で行政計画策定の一般的課題となっている住民参加についてはその実現度は低く、今後の課題として残っている。2.病院機能分析1)3つの病院論-平均在院日数と外来入院比、看護部門投入量の歴史的分析を総合的に勘案すると、小規模病院は外来入院比が高く、在院日数は低く、看護部門投入量は大規模と中規模病院の中間に位置し、過去数十年間、その機能には大きな変化は認められていない。一方、中規模と大規模病院においては1960年代後半から1970年代の半ばにかけて、外来入院比や看護部門投入量に関しては若干の差が認められたものの、平均在院日数では極めて類似した病院機能を有していたが1970年代の後半に至り、中規模病院の平均在院日数が延長することによって、二つのグループは機能的に分化し始めたと考えられる。以上から、規模別の病院機能の歴史的分析によって今日みられる病院の3つのグループ、急性期型、療養型、外来型の歴史的な期限が明確となった。2)歴史的分析-日本の医療供給システムの特徴は、その機能が未分化なところにある。しかしこの数十年間分化の傾向にある。その背景として、健康転換や経済の低成長が考えられるが、やはり医療の技術革新が大きく影響を及ぼしていると考えられる。医療政策でもその変化に対応し医療の質の確保と効率の改善を目指して分化を促す政策がとられてきた。日本の政策は今、世界で進行しつつある健康変革の潮流と日本での表現形態と考えられる。3)クラスターによる病院分析-これまで規模数や時系列によって分析してきた機能別病院分類を、ある1時点における病院機能を用いた統計的分類で用いても、同様のグループが認められた。約8000の一般病院のうち、統計的分類によると、約2000の急性期病院、約1400の長期療養型病院、約2800の外来型の病院、約3000の未分化病院であった。日本の病院は、急性期のみならず少なくとも二つ、及び未分化の病院機能から成り立っていることが判明した。3.病床分析-散布図分析や統計的手法により、日本の病院の機能特性に対応したサブグループの存在を検証した。病床規模別の平均値データによって示唆されていた急性期、長期、外来型の病院は個々の施設特性を有するデータを用いた今回の分析でも存在が証明された。高機能病院は先行研究が示唆するように、大規模に多く、長期型の病院は中規模に多く、外来型の病院は小規模に多いことが認められた。しかし、それぞ
れのグループは分布を有し、一律に病床規模のみで明確な分類が可能というわけではなかった。従って更に、診療特性を勘案した分析が必要である。今後の病院経営や政策決定にはこれらのサブグループの存在を考慮して検討されねばならない。4.医療の質評価1)結核-年齢調整罹患率については、罹患率が高かった方から順に、東京(32.32)、大阪(31.84)、和歌山(30.31)、奈良(28.43)、大分(28.12)と続いた。年齢階層別に見ても、東京と大阪は、青年層(20-39歳)と中年層(40-59歳)で1位と2位、若年層でも3位までに入っていたが、高齢層(60歳以上)ではワースト10には入っていなかった。和歌山と奈良は青年層、中年層、高齢層でワースト10に、埼玉は若年層、青年層、中年層でワースト10に入っており、一方、同じ首都圏でも、神奈川はほとんどの年齢層で罹患率の最も少ない県の一つであった。今後、治癒率、治癒期間、平均在院日数、耐性菌の率なども県別に算出し、結核医療の質の県別評価を進める予定である。2)精神-本研究から、各都道府県における精神科病床数の基準病床を基準とした過不足と、地域の疾患別に見た精神病床の利用のあり方との比較検討により、各地域の疾病対策や社会復帰対策等の精神保健福祉施策をより医療計画における適正病床数への誘導と連動するものにする可能性が示唆された。今後は、過剰県、不足県それぞれ5県の分析対象県についてより詳細に比較検討行い、医療計画における基準病床数の算定基準として考慮すべき要素についてさらに検討を行う。3)難病-総受給者数の将来予測は、2005年には約60万人、2010年には約80万人、2015年には約100万人に達することが予測された(2000年47万人)。受給者数の多い上位10疾病ではすべて増加のトレンドを示しており、SLE、ベーチェットでは将来受給者増加はするものの、その伸びに鈍化がみられたのに対し、潰瘍性大腸炎、クローンなど多くの疾病では、さらなる受給者の増加が予測された。現在の制度、運営が今後も維持されるとするならば、将来的な受給者数は増大の一途をたどり、国家のさらなる負担となることが予測される。このため①給付対象疾患の慎重な選定、②受給対象者の基準の慎重な設定等の早急な対策がのぞまれる。4)地域評価(県別)- 総合順位では、長野県、新潟県、千葉県、神奈川県、兵庫県という順に順位が出た。地域的な偏在性は、循環器について東高西低、泌尿器については西高東低の傾向が見られるものの、今回の分析ではそれを指摘するところまでにしか至らなかった。今後は、指標を洗練しより確実な評価ができるように努めることと、重み付けについて検討することが課題となるであろう。
結論
医療計画は今後の医療政策で重要な役割を果たす。だが、そのためには参加と科学性の二つをふまえた上での計画策定が望まれる。本年度の研究では、都道府県の医療計画策定担当者へのアンケート調査の実施によって、計画への参加の実態が明らかにすることができた。今後は企業経営、公共政策の観点から計画の策定過程の理想像を組み立てていかなくてはならない。また、科学性については医療の質評価に関して今回、得られた知見を活用するべきである。これらを統合するためには評価による絶え間ない過程の監視がなくてはならない。洗練された評価技術の研究も並行して進められなければならない。

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