高度総合診療施設における電子カルテの実用化と評価に関する研究

文献情報

文献番号
200101229A
報告書区分
総括
研究課題名
高度総合診療施設における電子カルテの実用化と評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
井上 通敏(国立大阪病院)
研究分担者(所属機関)
  • 楠岡英雄(国立大阪病院)
  • 是恒之宏(国立大阪病院)
  • 東堂龍平(国立大阪病院)
  • 岡垣篤彦(国立大阪病院)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター)
  • 武田裕(大阪大学医学部附属病院)
  • 松村泰志(大阪大学医学部附属病院)
  • 石川澄(広島大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,242,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
電子媒体による診療記録の保存(いわゆる「電子カルテ」)は、現在、多くの医療機関において使用されつつあるが、いずれも試行的な要素が大きく、高度・多機能な診療を行う高度総合診療施設での完全実用は未だ行われていないのが現状である。しかし、今後の医療の動向を見ると、診療記録の開示や診療費用の軽減化のために、電子カルテの実用化・普及は是非とも必要である。電子カルテの普及を妨げる要因に、極めて高価であり、また、その入力が煩雑であることが指摘されており、病院経営や診療現場になじみにくいとする意見もある。本研究は、診療録の電子保存の必要条件を満たし、かつ、廉価で使いやすい電子カルテシステムの仕様・要件の設計、並びに、他の電子カルテとの相互機能評価を可能とするシステムの開発を目的としている。
研究方法
本研究は、大きく分けて2つの部分よりなる。第1は、高度総合診療施設での実用を目指した電子カルテシステムの仕様・要件の設計であり、その焦点は、利便性と経済性にある。すなわち、現在実用されているシステムも含め、これまで提案されたシステムは、当院でのこれまでの評価では利便性に乏しく、診療現場での実用に耐えられないと判断されている。また、システムの導入・運用・保守管理に要する費用は極めて高額であり、経済面から実装化が妨げられている。本研究では、国立大阪病院での循環器科・産科での電子カルテの経験をふまえ、利便性・経済性に優れたシステムの開発のための要件等の設計を目標としている。第2は、電子カルテの相互機能評価システムの開発である。今後、多くのベンダーにより種々の電子カルテシステムが提案されると予想されるが、現状ではその機能を評価する基準がなく、定性的・主観的な評価に終始している。本研究では、異なった電子カルテ間での定量的・客観的な機能評価を可能とするシステムの構築を目標としている。今年度においては、そのための予備的検討を行った。また、倫理面に対しては、システムのセキュリティ確保により患者データの保護を計った。電子カルテについては、平成11年4月に発出された「基本原則」を遵守し、その基準に適合するべく開発・運用を行っている。また、患者データをはじめ、システム中に保存されるデータの取り扱いには、国立大阪病院情報システム利用規程など、それぞれの施設の規定に基づき、十分な注意を払い、取り扱った。
結果と考察
利便性・経済性に重点を置いた電子カルテシステムの仕様・要件の設計は国立大阪病院が中心となって行い、その一部の実施はベンダー(富士通)との協力により行った。その実施に当たっては、当院で試用中の電子カルテの特徴である「カード型カルテ」方式をより一層充実させ、完成させると共に、大阪大学医学部附属病院循環器科で試用中のダイナミック・テンプレート機能とも連携のあるシステム構築を目指している。今年度では、国立大阪病院の内分泌疾患、脳血管障害、腎疾患の診療領域に電子カルテの適用を図るべく、システムの仕様・要件の設計を行った。現在、これらの疾患領域用の表示画面を作成中である。また、国立大阪病院のように電子カルテ導入科と未導入科が混在する施設では、通常の病院情報端末では電子カルテを参照することができないため、未導入科でのカルテ参照に支障が存在する。そこで、電子化されたカルテの一部を病院情報システム端末に搭載されたWeb機能を用いて参照させること
により、電子カルテ導入科と未導入科での連携を図ることとした。今年度ではその基本設計を行い、次年度においてシステムの実現を計ることとした。電子カルテの相互機能評価システムの開発は、国立大阪病院、国立国際医療センター、大阪大学医学部附属病院医療情報部、広島大学医学部附属病院医療情報部との共同研究により行っている。今年度においては、次年度に予定している相互機能評価に必要な項目の設定のための予備的調査を行うに留まった。国立大阪病院で独自に開発した「カード型電子カルテ」は、現在、産科・循環器科において運用し、日常診療に役立っている。また、大阪大学医学部附属病院では、ダイナミック・テンプレートを有する電子カルテを循環器科にて使用している。本研究は、この2つの電子カルテを連携して発展させ、他の診療科においても日常診療を妨げずに使用できる電子カルテを実現しようとするもので、現在、拡張診療分野向けの設計を終わった段階であるが、これまでの結果から、十分機能するものと考えられる。これまで、電子カルテの機能を定量的に評価する手法はなく、これまでのシステム評価も主観的であったと言わざるを得ない。本研究では、ベンダーの異なる電子カルテシステム間でその機能を評価するためのシステムを開発し、国立大阪病院・国立国際医療センター・大阪大学医学部附属病院・広島大学医学部附属病院の4医療機関において、システムの性能比較を行うことも目的としている。今年度は時間的制約からその予備的調査のみが可能であったが、次年度以降において順調に進捗させ得るものと考える。本研究が目指す使いやすく、かつ他システムとの相対評価のなされた電子カルテが作成されれば、病院経営を圧迫することなく、かつ、日常臨床での使用も容易であることから、電子カルテの本邦での普及が急速に拡大することが期待できる。さらに、その結果、医療の質の向上とインフォームド・コンセントの形成を通じ、我が国の医療の発展に大きく寄与するものと予想される。
結論
今年度は3カ年計画の研究の初年度に当たり、時間的制約が多く、電子カルテ機能の相互評価システムについては十分な検討が行えなかった。しかし、利便性・経済性に重点を置いた電子カルテシステムの仕様・要件の設計については、国立大阪病院で試用中の電子カルテの特徴である「カード型カルテ」方式をより一層充実させ、完成させると共に、大阪大学医学部附属病院循環器科で試用中のダイナミック・テンプレート機能とも連携のあるシステム構築により達成できるものと示唆された。

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