情報技術を利用した1型糖尿病患者を対象としたケアサポートシステムの開発と定量科学的及び質的分析による医療技術評価

文献情報

文献番号
200101227A
報告書区分
総括
研究課題名
情報技術を利用した1型糖尿病患者を対象としたケアサポートシステムの開発と定量科学的及び質的分析による医療技術評価
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(京都大学大学院 医学研究科 内科系 臨床疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 大石まり子(大石内科クリニック(国立京都病院WHO糖尿病協力センター))
  • 岡田泰助(高知医科大学医学部 小児科)
  • 大田祥子(岡山中央病院)
  • 豊増佳子(聖路加看護大学看護管理学)
  • 西田佳世(高知医科大学医学部 看護学科 臨床看護学講座)
  • 青木則明(Department of Medicine / Information Research and Planning、Baylor College of Medicine)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
18,795,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の情報技術(information technology:IT)の進歩に伴い、携帯電話など携帯情報端末の利用が急激に増加している。携帯情報端末は様々な年齢層で幅広く利用されており、個人情報管理としてだけではなく、インターネットにも接続可能であり、新時代のコミュニケーションツールとしても注目されている。本研究は、1型糖尿病患者を主な対象として、携帯情報端末による健康管理(e-health)と健康教育(e-learning)システムの開発と運用、評価を目的とする。
研究方法
本研究は3年計画で、初年度である今年度は、各種の現状調査とニーズアセスメントを行った。2年目は、ケアサポートシステムのプロトタイプの構築と運用実験を行い、3年目は本格的なシステムを構築した上で、比較対象試験、費用効果分析、質的研究を利用したその有用性の包括的評価を行う予定である。以下に本年度の研究方法を記述する。
(1) 研究の対象となる高知県の1型糖尿病患者に対するケアの現状調査を行った。IDDM療養行動質問紙を利用して各患者の現状の把握を行い、情緒支援ネットワーク尺度現状を利用した支援の程度の定量的評価、そして自己効力感尺度にうよる効力感の評価を行った。さらに、ソーシャルサポートの有無による糖尿病コントロールの程度と各患者の個別の要因を検討した。
(2) 現状におけるITを利用した糖尿病ケアの試みを。①医療情報の記録におけるIT利用 ②患者教育支援におけるIT利用 ③糖尿病治療支援におけるIT利用の3つの視点から、調査した。さらに、現状でインターネット上で入手可能な1型糖尿病ケアの情報についてまとめた。
(3) 平成13年8月に高知で開催された1型糖尿病患者のサマーキャンプの中で、システムの利用者である患者と家族、医療従事者のニーズアセスメントを行った。その際に、小型携帯端末を利用したケアサポートシステムに対する患者や親のニーズや期待、不安を質的手法を用いて評価した。
(4) ニーズに最適なシステム構築を目的としたシステムアナリシスを行う。現在、利用可能な携帯電話、個人情報端末(personal digital assistance: PDA)、小型コンピュータそれぞれの利点と欠点について詳細を検討した。さらに本システムに関与する情報技術についての基礎調査を行った。
結果と考察
(1) 高知県における思春期・青年期1型糖尿病患者の療養行動の現状としては、全体的には自立しており、望ましい行動がとれていた。しかし、具体的な対処行動の理解は十分ではなく、学校生活が中心である小中学生には、個々の生活パターンにあわせて自分自身の血糖推移のパターンを把握できるような具体的で個別性のあるサポートが必要であることが明らかになり、今後の教育介入における基礎資料が得られた。
ソーシャルサポートの内容における血糖コントロールへの影響については,肯定的ソーシャルサポートと否定的ソーシャルサポートに区別して検討した結果,否定的ソーシャルサポートが存在する子どものHbA1cは7.64±2.96%でそうでない子どもの6.64±0.67%に比べ明らかに高かった(P=0.02)。以上から,小児期発症1型糖尿病者の血糖コントロールを良好にするためには,医療従事者は,いかに子どもが肯定的ソーシャルサポートを受けることができ,かつそれを有効活用できるよう指導するかが最も大切であると考えられた。また,医大への通院時間が長いほど血糖コントロールが高い傾向にあるということは,遠距離の子どもは初期教育を専門的に指導されていないことが考えられる。このような問題点を解決するためにIT(Information Technology)を用いて,糖尿病に対するリアルタイムの正しい指導や子どもや両親の悩み相談などを行うことが1型糖尿病者の予後の改善につながると考えられた。
(2) わが国の糖尿病医療におけるIT利用の現状についての報告は、現在のところ十分ではない。しかし、インターネット上では数多くの試みが見られ、情報を提供しようとする動きが見て取れた。しかし、デジタルディバイドの存在や、現状における情報技術の制限、またコンテンツの提供形態に伴う種々の問題点から、そのユーザビリティは十分ではない可能性がある。
(3) 今回のニーズアセスメントの結果、ケアサポートシステム開発によって、1型糖尿病患者の糖尿病コントロールや改善のモチベーションを高め、実際の糖尿病コントロールや改善に役立つ情報の提供する可能性が示唆された。また、携帯情報端末機器についての良好な反応や、利用・活用可能性について実際的で具体的アイデアについても意見も得られた。
(4) 種々の要因を検討した結果、第三世代の携帯電話が、本プロジェクトのニーズにマッチしていると考えられた。この結果はニーズアセスメントの結果と合致するものであった。
結論
以上の結果を踏まえ、平成14年度以降は、(a) プロトタイプの開発 (b) 糖尿病患者を対象としたサマーキャンプでデモンストレーションと再度の質的調査による評価、 (c) システムの運用実験の経験を元にインフォームド・コンセントに必要な要件を検討 (d)米国の健康情報科学の専門家と共に、セキュリティを十分に考慮した本格システムの構築 (5) 臨床的効果と費用効果、患者の満足度を定量科学的かつ質的に包括的評価、を順次行っていく予定である。

公開日・更新日

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