脳卒中地域クリティカルパスの開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101218A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中地域クリティカルパスの開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 清二(慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 太田哲生(慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター)
  • 森健太郎(順天堂大学伊豆長岡病院)
  • 青柳昌樹(三島社会保険病院)
  • 黒澤崇四(NTT東日本伊豆病院)
  • 稲田晴生(中伊豆リハビリテーションセンター)
  • 袴田康弘(静岡県立総合病院)
  • 築地治久(伊東市立伊東市民病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
12,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
寝たきり、要介護の最大原因である脳卒中を対象として、地域の貴重な急性期医療資源やリハビリテーション資源を合理的かつ効率的に活用し、地域の医療の質の向上を図るため、急性期から回復期さらには維持期までの一貫した脳卒中地域クリティカルパスを開発し、併せてクリティカルパスが円滑に運用されるためのITを活用した地域診療ネットワークを構築することを目的とする。 
研究方法
本研究の中核をなすものは地域クリティカルパスの開発とITを活用した地域完結型診療ネットワークの構築と検証である。救命救急センターと地域救急病院は脳卒中をBrain Attackとして捉えた上、回復期との連携を考慮した院内クリティカルパスを策定する。回復期リハビリテーション病院は急性期病院からの受け入れ態勢の整備とともに患者の選択基準、回復期リハビリテーションの方法論を確立し、急性期と連結したクリティカルパスの策定と検証を行う。また、維持期との連携についても検討する。地域リハビリテーション広域支援センターは地域におけるリハビリテーション資源について調査把握し、回復期と維持期との連携について研究する。以上の研究に基づき地域の特性に見合った発症から維持期までの一貫した地域クリティカルパスを確立する。一方、圏域によってリハビリテーション資源に格差があり、隣接する医療圏との協力体制作りは良質な医療を求める患者のニーズに応えるため必要かつ重要な研究課題であり、各圏域における脳卒中患者の疫学的調査および動態調査を行い、圏域間の連携について研究する。とくに、県立総合病院は県の中枢病院として、将来的な全県的システム構築の可能性についても検討する。月が瀬リハビリテーションセンターは他の分担研究者と協力してクリティカルパスの開発に参加するとともに地域完結型診療ネットワークシステムの構築について検討し、システムの管理運用を行う。3年計画の初年度である本年度は既存のクリティカルパスの見直しあるいは新規策定を行う。また、圏域内の医療資源の調査および病病連携の現状調査から問題点の抽出などシステム構築に必要な情報の収集を行う。これらの調査に基づき、地域に最も適した地域クリティカルパスの開発と連携システムの構築の検討、立案を行う。第2年度では策定された地域クリティカルパスおよび診療ネットワークシステムの試行と検証および改良を行う。最終年度には、引き続き試行と検証および改良を行い、パスおよびシステムの確立と効用の検証を行う。
結果と考察
当地域においては、設立母体、性格、規模などをまったく異にする急性期病院、回復期リハビリテーション病院、慢性期病院、介護施設が効率的な連携を保つことなく診療活動を行っており、転院時にタイムラグを生ずるなど、貴重な医療資源が有効に活用されておらず、その損失は大きい。これら資源を合理的・効率的に活用するためには各施設が施設内での医療の効率化を図るとともに一貫した地域クリティカルパスの導入し、地域内の病院情報や患者情報をリアルタイムに共有できるITを活用した診療ネットワーク作りが望まれる。急性期クリティカルパスについては、脳神経外科手術を必要とする脳血管障害では合併症などによるバリアンスが多く、クリティカルパスの作成は困難とされてきた。われわれは過去の症例の統計的解析から、主な疾患について入院早
期に回復期リハビリテーション病院での治療の必要性やその時期の予測可能なクリティカルパスを作成した。また、手術を必要としない症例についても、疾患別、重症度別にクリティカルパスを作成した。回復期クリティカルパスについての日本リハビリテーション学会のアンケート調査によればリハビリテーション専門医のいる病院においてさえ、バリアンスが多い、エビデンスがないなどの理由からクリティカルパスを実施しているのは28%にすぎない。今回、既存の回復期クリティカルパスや急性期クリティカルパスも視野に入れて、機能障害・能力低下の観点からクリティカルパスを作成した。一部、運動機能面から地域クリティカルパスの骨格ともなるべきパスを考えた(別紙資料)。脳卒中の発症から維持期までの一貫したクリティカルパスは同一施設内においては存在するが、多施設間にわたるクリティカルパスは例を見ない。急性期病院と回復期病院のリハビリ担当医が同一でなく、また急性期医療ではクリティカルパスは疾患別で実施されるのに対し、回復期リハビリテーションでは症状別、ADLの評価別に行われることが大きな要因である。このように急性期と回復期では管理方法や観察項目に明確な差異があるため、地域クリティカルパスの確立にもっとも大事なポイントである急性期および回復期の両クリティカルパスをシームレスにつなげることは困難である。この問題を解決するためには急性期パスと回復期パスに共通の簡明な評価項目の開発と急性期にはアウトカムに主眼を置いたパスの導入を図り、回復期には症状観察の要素も加味したパスの導入を図ることによりシームレスな連結の可能性が示唆されたが、具体的には今後の課題とされた。今回は、急性期病院より転送されてきた患者をリハビリテーションコース決定まで一定の観察期間を入れることによって両者をドッキングさせることを提案した。試行と検証を重ねて、回復期におけるアウトカムを急性期病院にフィードバックすることなどによって問題解決を図って行く予定である。脳卒中に対する地域連携システムの構築の試みないしは実行は熊本市や福岡県などで見られるが、ITを活用したものは類を見ない。われわれは地域の医療資源、特に、リハビリテーション資源の調査および患者の動態調査、病病連携の現状調査から問題点の抽出を行い、それらから得られた情報をもとに地域に最も適したネットワークシステムの構築について検討した(別紙資料)。ネット上で施設情報や空きベッド情報、診療情報などを共有することになる。診療情報には個人情報も含まれるため、守秘機能に十分な配慮をし、インターネットを介さない地域LANを利用することによってセキュリティーを確保した。平成12年に介護保険制度が導入されて以後、維持期施設に患者が滞り、回復期から円滑に移行できない傾向が見られ、さかのぼって回復期あるいは急性期にまでその影響が出てきている。この問題の解決のため回復期リハビリ病院と在宅支援事業者および在宅医療をサポートするかかりつけ医間で患者情報を共有し、スムースな連携を確立して在宅医療の拡大を目的に汎用性の高いテレビ会議システムを活用した連携システムの開発と構築を行った。
結論
寝たきり、要介護の最大原因である脳卒中を対象として、地域の貴重な急性期医療資源やリハビリテーション資源を合理的かつ効率的に活用し、地域の医療の質の向上を図るため、急性期から回復期さらには維持期までの一貫した脳卒中地域クリティカルパスの開発とクリティカルパスが円滑に運用されるためのITを活用した地域診療ネットワークの構築について研究した。

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