急性心筋梗塞患者の予後に関する多施設共同前向きコホート研究-多元的ヘルスアウトカムに関連する宿主・治療・心理社会的要因と医療経済的解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101213A
報告書区分
総括
研究課題名
急性心筋梗塞患者の予後に関する多施設共同前向きコホート研究-多元的ヘルスアウトカムに関連する宿主・治療・心理社会的要因と医療経済的解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 福原俊一(京都大学大学院医学研究科)
  • 今中雄一(京都大学大学院医学研究科)
  • 上嶋健治(岩手医科大学)
  • 葭山稔(大阪市立大学大学院)
  • 佐藤直樹(日本医科大学)
  • 木内貴弘(東京大学医学部付属病院)
  • そうけ島茂(京都大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急性心筋梗塞は致命率の高い疾患の代表とされてきたが、冠動脈ステント留置を含む経皮的冠動脈形成術(PTCA)の普及、長期予後改善を目指したアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の早期投与の導入はじめとする治療技術の進歩によって、多くの臨床医は従来に比して予後の大きな改善を実感している。しかし国内では実際の早期致命率、再発率、生命予後が参照できる資料は限られており、これらの予後に関連する要因を多角的に検討した報告もきわめて少ない。本研究は大学病院を受診した急性心筋梗塞患者の予後を多元的なヘルスアウトカムとして捉え、その予測因子の包括的評価を目指す前向きコホート研究である。ヘルスアウトカムはsoftなendpointとしてQuality of Life (QOL)、hardなendpointとして心筋梗塞再発、脳卒中など他の血管イベントの発生、そして死亡を考え、その中でQOLをprimary endpointとする。予後予測因子としては宿主要因(性・年齢などの人口学的要因、疾病重症度、治療への反応性などの生物的要因)、治療的介入要因(PTCAか血栓溶解療法単独か、留置ステントの有無、ACE阻害薬投与の有無、心臓リハビリテーション実施の有無など)、喫煙習慣の続行・中止などの行動学的要因などを採り上げる。これらに加え、本研究では下記2点の予後予測因子としての可能性を検討する。1点目は心電図の周波数領域解析法(スペクトル解析)である。これは心拍変動のスペクトルのうちLF成分(低周波領域)とHF成分(高周波領域)の 2 領域に注目し自律神経機能を評価するものである。本研究ではこのようにして得られる自律神経機能とQOLから生命予後まで諸々のヘルスアウトカムとの関連を検討する。2点目が心理社会的要因、すなわちパーソナリティ、理解力、治療意欲、医療に対する満足度、ソーシャル・サポートなどの採用である。これらの要因は欧米では積極的に研究対象とされてきたが、わが国では臨床研究の中で十分な検討が行われていない。本研究ではこれらの要因について予後予測の視点からその意義の評価を行なう。さらにこれらのデータに対象者の了解を得た上で入院医療費情報をリンクさせ、コストとアウトカムの関連を検討する。本研究は以上のように臨床疫学的手法により急性心筋梗塞の予後を多元的に把握し、それらの影響要因の検討と経済的評価を通して、実地診療での意思決定につながるevidenceの提示を目指している。
研究方法
初年度である平成13年度は、共同研究体制の整備、調査票・実施プロトコールの作成、パイロットスタディなどfeasibilityの検討を進めた。プロトコールの概要は下記の通りである。研究対象は協力医療施設(岩手医科大学、日本医科大学、北里大学、大阪市立大学の大学属4病院)を受診した初回急性心筋梗塞患者である。心筋梗塞の診断基準・・・胸痛(30分以上)、心電図異常、CPK上昇(正常上限2倍以上)。受診時に全例を一旦登録するが、病態が安定した状態で追跡調査についてインフォームド・コンセントを得、同意の得られたケースのみ研究対象とする。入院後、病態安定時点(2~3週間後)で自記式質問票(パート1)への回答を求める。入院時に担当者(クリニカル・リサーチ・コーディネーター<CRC>または主治医など、各施設の状況に応じる)が診療記録から病態に関する必要情報を調査票に転記する。退院後1ヵ月
の、外来受診時に自記式質問票(パート2)への記入・提出を求める。受診している医療機関に対する満足度についても回答を求めるが、この部分は匿名ID化した状態で、事務局へ直接郵送する。primary endpointは退院1年後のQOLとし、SF36(身体機能、社会的機能など8下位尺度で構成)、EQ5D、復職、睡眠状態(ピッツバーグ質問票)を評価する。Secondary endpointsとしては心筋梗塞再発、脳卒中発症など重篤な血管イベント、死亡を把握する。予後因子は、宿主要因として生理学的因子(左室駆出率、BNP、運動耐容能、ECGスペクトル、合併症など)、人口学的因子(性・年齢・経済状況・教育歴)。治療要因として内科的治療、血行再建術、ステントの有無、バイパス術、ACE阻害薬服用の有無、心臓リハビリテーションの有無、心理社会的要因としてパーソナリティ、理解力、医療に対する満足度、家族・友人などからのソーシャル・サポートなど)。退院時に入院医療費を把握し、CRC(または主治医)が匿名・ID化してデータセンターへ報告する。QOL得点の予測因子は重回帰分析、再発・死亡などは比例ハザードモデルを用いる。医療費と治療的介入要因、諸々のアウトカムから費用効果分析を行なう。予後に対する医療行為の役割を評価する際に、重症者に積極的な介入が行われることで解析上その介入が予後不良と関連しているように見える"indication bias"が生じる。本研究では必要に応じてデータ収集時に「その介入法を行った理由」を把握して、"indication bias"の減少を試みる。追跡は退院後の定期受診時を原則とする。転院例や通院中止例については郵送法や電話での情報把握を併用する。必要症例数の目安は左室駆出率の正常群・異常群でSF36の得点差が5点(標準偏差10点)とし、αエラー0.05、βエラー0.10として2群で336例が必要(両側検定)である。これに検討項目数、脱落例数を見込んで、2年間で600例の登録を目標とする。 
結果と考察
平成13年度は共同研究体制の整備、調査票の開発、パイロット スタディを行なった。予備的な検討としてTokyo CCU network の成績から、心筋梗塞の治療実態・予後に関する概略の知見を得た。各施設でのfeasibility評価を行い、状況に応じた実行可能な研究体制を整備した。申請時はCRCの活用を原則としていたが、事前評価によって、CRCの利用可能性が参加各施設で異なっていることが確認された。そのためデータ収集の標準化はマニュアル作成、分担者のsuperviseによって図るが、直接の担当者がCRCになるか主治医になるか、各施設の状況に照らして最も可能性の高い方法を選択することとした。関連情報を収集するための調査票は登録票の他、患者記入のものと医療スタッフによる医学的情報把握のための2種類が必要である。患者記入用の調査票は共同研究者との打ち合わせ会議、Eメール上でのブレーンストーミングによってフレームワークを決め、具体的な質問項目を順次確定させた。その際に、既存の質問票、先行研究で用いられた質問項目を必要に応じて修正を加えながら適宜採用した。医学的情報把握のための調査票作成に際しては、American College of Cardiologyの提言(JACC 2001;38:2114-30)を参照した。調査票ドラフトを作成後、各施設においてパイロットスタディを行なった。その結果を受けて、CRF形式、研究組織運営の改善を行い、調査票、実施プロトコールの確定に向けた検討を行なっている。調査項目の内容に合わせて、インフォームド・コンセントの文書も並行して検討中である。心電図スペクトル解析については、個人間・個人内の予測不能な変動が大きく評価が難しいとされていた。この問題に対処するため約100名の健常対象者で年間3回の検査を行い、単独では変動が大きい心拍変動指標を温熱環境変化への反応(適応能)として評価する手法を検討した。その結果、妥当性・信頼性の高い解析には1例当たり所要時間30分~1時間と推測された。したがって、全登録例を詳細に解析するのではなく、スペクトル解析に関してはnested case-control studyのデザインで、コストパフォーマンスを高める。入院医療の原価評価において、間接部門の配賦、人件費の
割り振りなど施設レベルでの取組みは現時点では課題が多いため、レセプトからの診療報酬(charge)関連データの把握を中心に検討を進める。心カテ、PTCAやCABGなどの侵襲的検査・治療・手術の際、携わった医師、看護婦、他の職種の数(および各々の経験年数など)と時間、術時間などを記録する方式での投入コストの検討の可能性を検討中である。症例登録については大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)の臨床研究支援システムの適用について予備的検討を行い、症例登録形式での対応が適当であることを確認した。各施設の年間急性心筋梗塞受診数は150例前後であり、2年間で目標症例数とした600例を越える登録が得られる見込みである。
結論
平成13年度は共同研究の体制整備を中心に取り組んだ。研究実施プロトコールを確定させ、倫理審査委員会の許可が得られ次第、本登録を開始する予定である。Primary endpointは退院後1年時点でのQOLであるが、3年から5年間は追跡できる体制を整備し、再発・死亡などhardなendpointについても検討を行なっていきたい。また研究活動の一般への周知には独自ドメインを取得してホームページを開設することを検討している。社会的なアカウンタビリティを果たせる形での研究進行を期したい。

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