ストレス関連疾患に関する医療経済学的評価基準の作成(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101212A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレス関連疾患に関する医療経済学的評価基準の作成(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
石川 俊男(国立精神・神経センター国府台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木登茂子(九州大学大学院医学研究院)
  • 伊藤順一郎(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 大井田隆(国立公衆衛生院)
  • 久保千春(九州大学大学院医学研究院)
  • 小牧元(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 釈文雄(国立療養所岩手病院)
  • 西間三馨(国立療養所南福岡病院)
  • 原井宏明(国立療養所菊池病院)
  • 樋口輝彦(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 伏見清秀(東京医科歯科大学大学院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
19,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心身症や摂食障害、神経症、うつ病などのストレス関連疾患等に対する精神・心理療法は保険診療上、通院精神療法及び入院精神療法、心身医学療法等で評価されているものの、要する時間に対して保険診療上適切な評価がなされているか、さらに医師以外の治療者(心理士など)が行った場合には算定ができないなどの課題も存在している。そこで、精神・心理療法を行った場合の治療効果及び経済的評価を医療保険制度面から多施設において行い、系統的・組織的に詳細な分析を行うことにより、精神・心理療法の位置づけを行う。これにより、EBMに基づいた医療が行われ、医療の質が高まると共に、効率的で経済的な診療体系の構築に役立てることができると考えられる。
国民皆保険制度をとっている我が国においては、診断・治療技術は診療報酬点数により評価されているものが大部分であり、保険システムのより適切な評価と効率的な運営に向けた改革を行っていく上でも、先ず現在の制度を基盤として評価を行い、それを元にして更なる効率的な診療を行っていくことは必要である。
また、ストレス関連疾患について、精神・心理療法を行う場合、治療者の技術に対する評価が難しい分野であり、診断・治療に関するガイドライン等の指標も今後必要となるため、指標を作成する際の要素としても精神・心理療法に関する治療効果及び経済効果の研究は不可欠である。指標の構築によって、精神・心理療法の適応となる病態が明らかとなり、適切な診療科への受診を容易にし、治療期間の短縮にもつながる。さらに、現在国家資格として認められていない心理士の役割、心理士が関わった際の治療・経済的効果についても検討を行い、今後資格の是非を議論する上でもこの研究は必要である。
この研究により、これまで評価の困難であった心身症や神経症、うつ病などのストレス関連疾患に対する医療技術・特に精神・心理療法について経済面からの適正な評価が推進され、今後、効率的な医療保険制度改革を行っていく上でも成果を上げることができる。さらに、今後増加することが予想されているこれらの疾患から国民の健康を守ると共に、国民が負担する医療費の軽減にもつながり、国民の経済的負担減にも寄与するものと考えられる。
研究方法
1 ストレス関連疾患治療の現状分析
本研究を実施する各施設から、アトピー性皮膚炎・気管支喘息・過敏性腸症候群・摂食障害・うつ病・社会恐怖と診断されて精神・心理療法を受けている症例を、各疾患約100例選別し、年齢、性別疾患重症度、治療経過、精神心理療法以外の治療法、治療効果、合併症、医療費等について担当医にアンケート調査を行う.対照群として精神心理療法を受けていない薬物療法中心の症例を、年齢、性別、疾患重症度、合併症等を考慮した上で選択する.比較分析の精度を向上するために重症度、疾患像を厳密に定義して、エントリー症例を決定する.披検群と対照群について、治療内容、治療効果、医療費を比較分析し、これらの疾患に対する精神心理療法、薬物療法などに区分して集計し、精神心理療法の有無による治療費用の差異を分析する.
また、各施設において当該6疾患の間近の新規受診例を症例データベースに登録し、疾患重症度、治療内容、治療効果等について定期的にデータを登録し、コホート分析を実施する.患者の年齢、性別、疾患重症度、合併症の有無等と精神心理療法、薬物療法などの有効性の関連を分析するとともに累積医療費を集計計算し、各種治療法の費用対効果を分析する.
2.精神心理療法を行う場合の効率的で経済的な指標の確立
1.の結果から、精神心理療法の内容、治療期間、治療時間、心理療法士の係わり方、精神心理療法以外の治療法の内容等について、各疾患毎に、治療効果への影響、医療費等との関連性を分析し、精神心理療法の選択と実施の合理性に関する総合的な指標を検討する.また、各施設において、これらの指標を治療法の指針として採用した診療を行ない、その治療効果および経済性を分析し、各指標の妥当性を検証する.
3.年次計画
初年度は、調査エントリー症例のクライテリア、疾患重症度の判定法、治療効果判定基準などの定義、アンケート調査項目の選定、医療費分析項目の選択などを行った上で、被検群、対照群症例を選択し、アンケート調査を行い、その集計と統計分析を実施する.また、コホート研究のための患者データベースの作成を行う次年度以降、症例対照分析とコホート分析を平行して実施していく.また、初年度結果から精神心理療法実施のための効率的で経済的な指標の暫定版を作成し、それらを指針とした診療を行なった場合の治療効果などを分析した上で、効果的な治療法選択のための指標案を策定する.
結果と考察
初年度は、調査エントリー症例のクライテリアを決定し、疾患重症度の判定および治療効果判定のための治療者用および患者用の調査用紙を疾患ごとに作成した。また、各施設の本研究対象患者の受信状況の聞き取り調査を行い、統計学的に十分な症例が確保できるように調査を実施する医療機関を選定した。摂食障害(久保、伊藤)、気管支喘息(西間)、アトピー性皮膚炎(小牧)、過敏性腸症候群(釈)うつ病(樋口)、社会恐怖(原井)、それぞれの疾患について治療者用、患者用の調査項目の検討を行い、調査用紙を作成した。さらに共通の調査項目(石川)についても2回の班会議を経て決定した大井田および伏見は研究計画の科学性を高めるために全体研究計画の方針を明らかとし、統計学的な処理についても検討を加えEBMになりにくい精神・心理療法の効果判定や医療経済学的視点について出来うる限りの考え方を示した。また、荒木はこれまで発表された心理療法の効果に関する欧米論文について検討を加え今回の調査研究計画に重要な示唆を与えた。具体的な調査票は横断研究とコホート研究にわけてそれぞれ患者用と治療者用に分かれて作成された。全体調査は、疾患非特異的に共通した調査票となっており、内容としては医療への満足度や治療効果、社会適応能力の改善度、医療経済的な部分などSF36(8項目のみ)の一部を併用して国際的な基準をも満たす質問表とした。医療者側には疾患の重症度、改善度、精神・心理療法の内容などを加味した調査票となっている。過敏性腸症候群、気管支喘息、アトピー性皮膚炎などの個別疾患では厚生省精神・神経疾患委託研究の心身症研究班(西間三馨主任研究者平成11-13年度)における心身症の診断基準などが盛り込まれた質問表になっている。摂食障害については伊藤が集団療法について、久保が認知行動療法の有効性についての検討の重要性を説明した。そのためにそれぞれ精神科領域、心療内科領域で質問表を作成して個別の精神・心理療法の有効性についても検討を行うこととなった。一方、精神病圏ではうつ病および社会恐怖に関した調査票が作られた。パニック障害についても検討されたが、現代では世界的にみて薬物療法の有効性が確立しており、心理療法の意味は大きくないだろうとのことで今回は調査を行わないことに決定した。それぞれ確立した質問表を用いて調査が開始されている。また、全国的にみて一施設で症例を集めることが不可能な疾患や精神心理療法であるので、協力施設にお願いして症例を集積することにした。ちなみに協力施設として、島田市の島田市民病院心療内科、京都南病院心療内科、国立大阪病院皮膚科、札幌の手稲ルカ病院内科、国立国際医療センターなどの施設から協力の了解が得られている。今後も数施設増える見込みである。
結論

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