看護情報の電子的交換規約の研究開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101207A
報告書区分
総括
研究課題名
看護情報の電子的交換規約の研究開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
美代 賢吾(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 石垣恭子(島根医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、1)看護に関わる情報、特に患者のケアに必要とされる情報を病院と訪問看護ステーションなどの間で電子的に交換するための通信規約の開発、2)その規約を病院情報システム上に実装し、運用試験を行うことによる評価、の2点である。
現在日本の医療構造は、公的介護保険制度によって在宅においてケアを行う方向へと、大きく転換しつつある。入院期間の短縮化による早期退院や症状の悪化による再入院など、患者の施設間の移動に伴う患者情報の再収集が大きな負担となっている。この負担がケアの継続性および患者の生活の早期安定化の妨げとなる要因の一つになっている。
一方、現在多くの病院で電子化が進み患者情報が電子的に蓄積される環境が整いつつある。また、訪問看護ステーションなどの在宅看護関連施設での患者情報の電子化も、限られた人的・物質的資源を有効に効率よく活用するために今後ますます進んでいくと考えられる。このような、病院側と訪問看護ステーション側の個々の情報インフラが整備されていくなかで、次に必要となってくるのは、施設を越えたネットワーク化であり、そのためには、患者のケアに必要とされる情報の電子的情報交換規約の開発および試験的実装による評価が不可欠である。
現在、医療情報の施設間での電子的情報交換規約に関しては、MML(Medical Mark-up Language)やMERIT-IX(MEdical Record, Image, Text - Information eXchange)によるMERIT-9紹介状DTD(Document Type Definition)が既に提案されている。MML規約は診療録2号様式、MERIT-9紹介状DTDは医師の紹介状に基づいて開発されており、医師が扱う患者情報の交換を念頭においた規約である。これらの規約は、平成12年度の本課題研究班によって、看護サマリに必要とされる項目が、患者基本情報を除けばほとんど無く、また情報構造も看護サマリになじまないことが明らかになった。
以上のような観点から、昨年度、本課題研究班は、看護サマリを交換するための新たな情報交換規約の開発を目的として、「看護サマリ交換データ項目セット暫定版」を作成した。平成13年度は、1)昨年度開発した看護サマリ標準項目集暫定版を実装に耐えるレベルまで改訂を行うこと、2)看護サマリ作成システムおよび看護サマリ受信システムの改良を行い改訂版を試験実装して評価を行うこと、の二つの研究目標を達成することを目的とし研究を行った。
研究方法
病院から訪問看護ステーションに送る患者情報の電子的交換規約暫定版を改定し、電子的交換規約の実装試験を行うために、分担研究者および研究協力者とともに、以下の方法により研究を行った。
1)昨年度度本研究班において開発した、看護サマリ標準項目集暫定版を、看護サマリ作成システムおよび看護サマリ受信システムへ実装することを前提に、項目集に内包された問題点の整理と項目の見直しを行った。
2)改訂した看護サマリ標準項目セット改訂版の中から、現実的に必要となる項目および交換のための情報構造について、既存の3施設の看護サマリを元に、項目集改訂版から必要な項目を抽出し、試験用のDTDを作成した。
3)平成10年度国立大学附属病院共通ソフトウェアである、「医療文書作成支援システム」を用いて東京大学医学部附属病院の開発サーバ上に、看護サマリ標準項目セット改訂版を実装した看護サマリ作成支援システムを構築した。また、看護サマリの受信側システムとしてネットワークで接続された端末に上記の看護サマリ標準項目セット改訂版を実装したシステムを構築した。
結果と考察
本年度は、以下の研究結果を得た。
1.平成12年度に開発した看護サマリ標準項目集暫定版について、各項目の粒度の統一と細分化、および網羅的な採録、さらに不要項目の削除により、看護サマリ標準項目セット改訂版として、941項目の項目集を作成した。そのうち、厚生省の委託を受けて財団法人医療情報システム開発センターが作成した「電子保存された診療録情報の交換のためのデータ項目セット(J-MIX)」に対応付けられるものは645項目(69.5%)であり、看護独自の項目は、287項目であった。
2.既存の3病院の看護サマリを参考に、サンプル看護サマリを作成し、実装試験用の情報構造を定義し、試験実装および試験交換を行った。
看護サマリ標準項目集の開発においては、情報構造にはあえて主眼を置かず、看護サマリに使用する項目を網羅的に採録する方針で項目集の改訂作業を行った。これは、看護サマリの情報交換に用いる情報の構造はそのユースケース(一般用、在宅酸素用、小児用、ターミナル用等)に依存する部分が多く、すべてのユースケースにおいて普遍的で一般的な情報構造を定義することが困難であったためである。
採録した項目のXMLで用いるタグ名の付与にあたっては、項目集改訂版とJ-MIXとのマッチングを行い、J-MIXに対応付けられないものは、それに倣ってタグ名を作成する方式を採用した。J-MIXはラベル名の中に階層が埋め込まれ、ラベルそのものによって要素の意味が説明されているため、情報の受け手は、前後の構造をパースすることなく受け取った要素の意味の把握が可能となる。今後、この看護サマリ標準交換項目集に含まれる各項目を用いて、それぞれのユースケース毎に情報交換規約を作成すれば、異なる情報構造が定義されていても、各項目の意味を確実に伝えることが可能となる。
また、実装試験による看護サマリの交換では、作成した看護サマリがXML形式で表現されるため、訪問看護ステーション側でも様々な形で再利用が可能である。ネットワークを介して、サマリを閲覧したり訪問看護ステーション側のデータベースに保存することが可能になるだけでなく、XMLファイルをフロッピーディスクやCD-Rなどの可搬形媒体に保存することで、患者に電子看護サマリを持参してもらうといったことが可能になる。
なお、本規約は、看護サマリにかかわる情報項目を網羅的に採録したものであり、交換のための情報構造は別途定義する必要がある。今回の実装試験は、サンプル看護サマリを用いて行ったが、今後は、ユースケースごとに交換する項目セット(DTD)を作成し、標準化していく必要がある。また情報交換のタイミング等の通信プロトコルも別途取り決める必要があり、今後これらのガイドラインを提供している必要があると考える。
本研究により開発した交換規約が、実際の臨床現場で実用化されることになれば、施設・在宅を越えたケアの継続性の保証、また短時間での高品質・等質的なケアプランの作成が間接的な効果として期待される。これによって、患者のケアに関わる情報の共有化が促進されると共に、患者の生活の早期安定化に大きく寄与すると考えられる。
結論
本年度、分担研究者、研究協力者とともに、昨年度開発した、「看護サマリ交換データ項目セット暫定版」を基に、システムへの実装に可能なレベルまで改訂を行い、これを用いて、看護サマリ作成システムおよび看護サマリ受信システムに試験実装した。今後の課題として、ユースケースに基づいたDTDの作成および、情報交換のタイミング等の通信プロトコルのガイドラインを整備する必要性が明らかになった。

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