看護職員需給予測と中小民間病院における看護職員確保に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101203A
報告書区分
総括
研究課題名
看護職員需給予測と中小民間病院における看護職員確保に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
菊池 令子(日本看護協会)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村元子(日本看護協会)
  • 玉木健太郎(日本看護協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会を迎え、医療提供体制の改革、介護保険制度の充実など、保健医療福祉のサービス提供システムが大きく変化することが予測される。その中で保健医療福祉サービスにおける看護職員の役割はますます重要になってきている。質の高い医療を効率的に提供するには、病院が機能分化し、各機能の病院がそれぞれの機能を十分に発揮することが必要である。そのためには、中小民間病院も含めて各病院における適切な看護職員の確保が必須である。しかし、地域医療の第一線を担っている中小民間病院では、看護職員確保が困難といわれており、平成12年12月の厚生省「看護職員の需給に関する検討会」報告書においても看護職員確保の地域格差、施設間格差が問題とされている。そこで、中小民間病院における看護職員確保の実態と確保方策を明らかにすることを目的に本研究を企画した。平成12年度は、看護職員の需給予測を概観した上で、中小民間病院で看護職員を確保する立場の看護管理者や労務管理者を対象に聞き取り調査とアンケート調査を実施し、看護職員確保に関する実態と看護職員採用意向や確保方策を明らかにした。平成13年度は、中小民間病院が求める「看護実践能力のある看護師」や「看護管理者」の確保方策を検討するために、他病院での看護経験を有し中小民間病院に再就職してくる看護職員について、職場を決める上で重視した点、就業経緯、就業後の勤務条件・勤務環境・業務内容の変化、今後の就業継続意向、中小民間病院の魅力と改善点に関する意識を明らかにした。また、同様な状況にある診療所看護職員の就業構造も明らかにした。平成14年度は、平成12年度と平成13年度の研究成果をもとに、中小民間病院について求人側と求職者側とのミスマッチを改善するためにナースセンターが果たすべき役割を検討し、その上で、例えば中小民間病院の看護職員確保推進者に対する相談調整など有効と考えられる事業をモデル的に実施し、評価する予定である。
研究方法
他病院等での看護経験を有し中小民間病院に再就職してくる看護職員について、職場を決める上で重視した点、就業経緯、就業後の勤務条件・勤務環境・業務内容の変化、今後の就業継続意向、中小民間病院の魅力と改善点に関する意識を郵送によるアンケート調査により明らかにした。調査対象は「平成11年版病院要覧」(医学書院発行)に掲載された全国の200床未満の民間病院(「医療法人」「個人」の病院)から経営主体別に無作為に2分の1に当たる2662病院を抽出した。各病院の院長・看護部長宛に調査票を送り、平成11年4月以降で最近再就職してきた看護職員の中で看護管理者が定着を望む常勤の看護職員1名に調査票を渡してもらい、本人が直接返送する方法をとった。調査期間は平成14年2月26日~3月20日。調査票回収状況は、2662票の送付に対し、有効回収数726(有効回収率27%)であった。倫理面への配慮については、アンケート調査は、回答者無記名で行い、また、調査結果は研究目的以外には使用しない旨を調査票に明記した。また、中小民間病院への就業継続や退職の要因を明らかにするために、中小民間病院に就業した看護職員や退職した看護職員、就業を斡旋したナースセンター関係者に個々の事例について聞き取り調査を実施した。診療所看護職員の就業構造分析は、厚生省の「医療施設調査」「衛生行政報告例」の集計・分析により実施した。
結果と考察
民間中小病院に再就職した看護職員が職場を決める上で最も重視した点は、「家庭生活と両立できる」が最も多く3分の1以上を占め、次に「自分に合った仕事ができる」が2割弱で、結果的に前回の職場に比べ
収入が低くなった人が半数以上を占めた。再就職後、看護業務で困った点として「医療行為における看護職の判断や責任範囲・医師との役割分担」を6割の人があげ、「看護記録」「療養上の世話における看護職の責任範囲・介護職員との役割分担」など看護業務を遂行する上で何らかのとまどいがあった。現病院の就業上の魅力は半数以上の人が「通勤時間・通勤の利便性」をあげ、3分の1の人がそれぞれ「勤務時間帯」「勤務時間数」「看護職員間のチームワーク」をあげていた(複数回答)。改善を望む点としては6割以上の人が「賃金」をあげ、「看護職員数」「病院の施設・設備」「医師とのチームワーク」「医師数」と続いた(複数回答)。一方で、看護業務改善に関して、3割の人が「すでに提案して一部改善された」と答え、看護業務改善に対する意欲は高かった。また、看護関連の教育研修について7割の人が「是非受けたい」と答えており教育研修に対する意欲も高かった。しかし、以前の職場で培った看護職としての能力は、6割以上の人が「一部活かしている」程度で、再就職者の看護能力が充分に活かされていないと考えられた。現病院での就業継続意向については、勤務を継続する意向の人が3分の2を占めた。中小民間病院に就職した看護師や退職した看護師に対する聞き取り調査からは、病院の勤務時間に対する柔軟な対応が就業定着を促進する一方で、病院経営が組織化されていないことで看護職員の勤務意欲を低下させている状況が明らかになった。診療所看護職員の就業構造については、この10年間に就業看護職員数が1.3倍に増加し、特に看護師の増加率が高く、就職する層が新卒准看護師から既卒看護師にシフトしつつあることがわかった。
結論
中小民間病院に再就職してきた看護職員の多くは「家庭生活と両立できる」「自分に合った仕事ができる」ということを重視し、自分自身の生活や気持ちを大事にしている一方、看護業務改善や教育研修に対する意欲高く、このような再就職者がその能力を充分に発揮できる環境を整え、積極的に確保活用することが今後の中小民間病院の医療・看護の向上にとっても重要なことと考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-