医療施設機能別にみた看護職員の配置と業務(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101202A
報告書区分
総括
研究課題名
医療施設機能別にみた看護職員の配置と業務(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
菅田 勝也(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
看護が十分に役割を果たすためには、患者構成に見合った職員を配置し、また介護職員との役割分担のあり方を吟味する必要がある。本研究は、まず、介護保険型療養病棟、医療保険型療養病棟、並びに回復期リハビリテーション病棟における①看護職員及び介護職員の配置と業務実施状況及び役割分担状況、②看護職員に期待する役割を明らかにすることを目的とした。さらに、看護職員及び介護職員の業務実施状況や役割分担状況と③有害事象発生率、④看護職員及び介護職員によるケアの質評価、⑤患者及び家族の満足度、⑥看護職員及び介護職員の職業性ストレス及び職務満足度、といったアウトカム指標の関連を検討することも目的とした。
研究方法
研究参加に同意した7施設の30病棟において、平成13年12月~平成14年3月に質問紙調査を実施した。病棟管理者質問紙で職員配置、前年度退職職員、患者特性、褥創・肺炎・抑制・転倒転落等の有害事象を尋ねた。看護・介護職員用質問紙は平日の24時間に勤務していた看護・介護職員を対象とし、基本的属性、各業務(大分類10,小分類25)の実施時間、不足感、看護・介護間の役割分担希望、ケアの質の評価、職業性ストレス、職務満足度を尋ねた。患者用質問紙は、対象病棟に入院中の患者のうち、自力もしくは家族の代筆で回答できる者を対象とし、基本的属性、ケアへの満足度、各業務についての看護・介護間の役割分担希望を尋ねた。家族用質問紙は、患者用質問紙と同様の内容で、対象病棟に入院中の患者に面会にきた家族を対象とした。調査は無記名で行い、対象者へは研究の目的や方法を文書で説明し、自由意志による参加、内容が研究者以外に伝わらないこと、内容が職業上の評価や治療やケアに影響しないこと、統計的処理をした上で個人名や施設名がわからない状態で公表することを保証した。また、患者及び家族へは閉封可能な封筒を用意し、封をした状態のまま研究者に送られるようにした。
結果と考察
病棟用及び職員用の質問紙には、30病棟(介護保険型療養病棟7,医療保険型療養病棟14,回復期リハビリテーション病棟9)、看護職員184名及び介護職員228名から回答があり、30病棟の患者143名、家族311名から回答があった。
①本研究の対象となった介護保険型療養病棟及び医療保険型療養病棟では看護職員が6病床に1名強、介護職員が3病床に1名弱配置されており、回復期リハビリテーション病棟では、看護職員が3病床に1名、介護職員が6病床に1名強配置されており、看護職員の比率は異なるものの、病床あたりの看護及び介護職員数は同程度であった。患者あたりの業務時間は、生活援助が平均76.9分と最も多く、次いで状態観察が平均19.4分、ケア管理が平均16.2分、医学的処置が平均15.1分であった。看護職員は3分の1強、介護職員は3分の2強の時間を生活援助にあてていた。看護職員の実施割合は医学的処置、連携、事務的業務では7割以上と高く、環境整備、生活援助では2~3割と低かった。
②多くの業務について、看護職員、介護職員とも7割以上が「今の分担でよい」と回答していたが、医学的処置は今以上に看護職員が実施した方がよいと回答する者が多かった。生活援助、環境整備については、看護職員は今以上に介護職員に分担して欲しいと思っていたが、介護職員は今の分担でよいか、もしくは今以上に看護職員に分担して欲しいと思っていた。患者、家族とも、生活援助や環境整備については8割以上が「必ずしも看護婦がしなくてもいいと思う」と回答していた。
③有害事象発生率については、患者あたり業務時間が患者特性を反映しているためか、患者あたり業務時間が多い方がよいアウトカムを示すことも悪いアウトカムを示すこともあった。しかし、有害事象発生率と看護職員実施割合との間に有意な相関があった項目はほとんどが負の相関で、看護職員実施割合が高いほどよいアウトカムを示していた。特に、生活援助や環境整備、状態観察の看護職員実施割合が高い病棟ほど身体拘束率や院内褥瘡率が低かった。
④職員にケアの質について18項目を尋ね、その回答を主成分分析後バリマックス回転したところ、「安全で適切なケアの提供」と「個別的なケアの提供」の2つに分けることができた。「安全で適切なケアの提供」の評価得点は患者あたりの治療・処置の補助時間や事務的業務時間が多い病棟ほど高かったが、「個別的ケアの提供」の評価得点は患者あたり業務時間との関連がなかった。生活援助や環境整備に属するいくつかの項目で看護職員実施割合が高い病棟ほど「安全で適切なケアの提供」や「個別的なケアの提供」の評価得点が高かった。
⑤本研究で翻訳したClient Satisfaction Toolの日本語版は11項目各5段階と簡便で信頼性係数も高く有用な尺度となる可能性が確認された。患者あたりの注射・点滴の準備・実施時間が多い病棟ほど患者の満足度が低く、内服介助、状態観察、引き継ぎ、排泄介助時間が多いと家族の満足度が高くなっていた。介護保険型療養病棟及び医療保険型療養病棟では、環境整備の看護職員実施割合が高い病棟ほど患者の満足度が低く、引継ぎ、排泄介助、環境整備の看護職員実施割合が高い病棟ほど家族の満足度が高く、注射・点滴の準備・実施、ケア計画の立案・評価・修正の看護職員実施割合が高い病棟ほど家族の満足度が低かった。回復期リハビリテーション病棟では、生活援助、中でも食事介助、着替え・洗面介助の看護職員実施割合が高い病棟ほど家族の満足度が高かった。
⑥「記録」「連携」の看護介護時間が多いと、看護職員・介護職員の満足度得点が高く、「状態観察」の看護介護時間が多いと介護職員の「量的労働負荷」ストレス得点が低くなっていた。また、「生活援助」の病床あたり看護介護時間が多いと介護職員の職務満足度得点は低くなる傾向がみられた。さらに、「状態観察」の看護職員実施割合が高いと、看護職員の「役割葛藤」ストレス得点が低くなっていた。また、「連携」の看護職員実施割合が高くなると、職務満足度が低くなっていた。医療保険型療養病棟の看護職員では、他の2種類の病棟よりも職業性ストレスが強く職務満足度が低かった。介護職員については、介護保険型療養病棟では全般的にストレス得点が低かった。
結論
看護職員は約3分の1、介護職員は約3分の2の時間、「生活援助」を実施していた。看護職員は「医学的処置」「連携」「事務的業務」を、介護職員は「環境整備」「生活援助」を主に分担しており、ほぼ現在の役割分担に納得していたが、「医学的処置」については今以上に看護職員が実施することを望んでいた。「生活援助」「環境整備」に関しては、看護職員は今以上に介護職員が分担することを望んでおり、患者及び家族もそれを承認していたが、介護職員は看護職員と協力して実施することを望んでいた。各業務の病床あたり看護介護時間及び看護職員実施割合のいくつかは、有害事象発生率、職員によるケアの質の評価、患者及び家族のケア満足度、職業性ストレスや職務満足度と関連しており、病床あたり看護介護時間が多く、看護職員の実施割合が高いほど、これらのアウトカム指標がよい結果を示す場合が多かった。しかし、逆の関連を示す項目も若干あった。また、医療保険型療養病棟では、介護保険型療養病棟及び回復期リハビリテーション病棟より「医学的処置」の看護職員実施割合、ケアの質の評価得点が低く、職員のストレス得点が高くなっていた。

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