三次救急医療施設における医療情報データベースの基盤整備と二次救急医療体制の確立と評価方法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101198A
報告書区分
総括
研究課題名
三次救急医療施設における医療情報データベースの基盤整備と二次救急医療体制の確立と評価方法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
島崎 修次(杏林大学医学部救急医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 小林国男(帝京大学救命救急センター)
  • 山本修三(済生会神奈川県病院)
  • 相川直樹(慶應義塾大学医学部救急部)
  • 益子邦洋(日本医科大学附属千葉北総病院救命救急部)
  • 石原晋(白鬚橋病院)
  • 佐古伊康(静岡県立総合病院)
  • 信川益明(杏林大学医学部総合医療学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常生活圏である二次医療圏において救急医療体制を完結することを目指し、救急医療の確保のために、二次、三次救急医療機関の機能分担に基づいて地域における効率的な救急医療体制を構築すること、並びに評価方法を開発することが必要である。救命救急センターがセンター自身の機能のみを充実させるのではなく、二次医療圏の二次、三次救急医療機関との連携を効率的に行い、二次医療圏において文字通りセンターとして機能すれば全体の質も向上すると考えられる。地域協議会が救急医療体制を評価することが重要でありガイドライン作りの為の評価方法の開発が必要である。三次救急医療機関における患者に関する医療情報データベースの基盤整備が求められている。疾患別、重症度別、ISS(injury severity score)別のデータベースが、三次救急医療機関ごとに整備され、更には、三次救急医療機関の間のデータベースが構築されれば、例えば、nonpreventable deathといった症例、救命処置が困難な症例に関する情報を提示することができ、症例に関するインフォームド・コンセントと共に、救急医療の限界について、国民の理解を今まで以上に高めることができる。そこで、各救急医療施設で有用な、脳血管疾患、急性心筋梗塞、多発外傷、重症熱傷の初期救急医療(初療から第3病日まで)のクリニカルパスを作成することを目的とした。これにより、我が国の救急医療全体の国際的な医療水準を維持することが出来ると期待される。
研究方法
各分担研究者に、救急疾患として代表的な、脳血管障害、急性心筋梗塞、多発外傷、重症熱傷のクリニカルパスを作成して貰い、さらに、分担研究者の各施設に既に存在するクリニカルパスについて、その臨床的有用性や問題についても調査、研究を行って貰い、全国の救急医療機関でも利用可能なパス作りを作成することにした。島崎修次が重症熱傷、小林国男分担研究者が多発外傷、相川直樹分担研究者が急性心筋梗塞、益子邦洋分担研究者が脳血管障害について、それぞれのクリニカルパスを作成した。山本修三、石原哲、佐古伊康分担研究者はそれぞれクリニカルパスの救急医療における有用性を実際に各施設が用いているクリニカルパスについて調査・検討を行った。信川益明分担研究者は、救急医療連携システム構築のための資料を得るために必要な保健・医療・福祉関連施設における情報の調査検討を行うこととした。
結果と考察
各分担研究者により、それぞれのクリニカルパスを作成した。救急医療におけるクリニカルパスは、病態が個々に大きく異なるため、普遍的なものを作成するのは非常に困難である。従って、今回の研究で示したように、既に各分担研究者の施設で応用しているものを、交互に実際の臨床の場で検証する必要がある。そして、その検証結果から問題点についてさらに検討を行い、どこまでが救急医療現場で普遍的(一般的)あるいは必要最小限の処置なのかを明らかにしたい。施設特有の処置を全国の二次医療に求めることは出来ないが、逆に、「何故その処置が二次救急医療機関で行えないか」についての答えが出てくる可能性がある。つまり、二次救急医療機関としての不可欠な要素、すなわち人的問題なのか、量的(物的)問題なのかが明らかに出来る。そして、ひいては、その問題を解決する努力により、すべての二
次救急医療機関のレベルアップにつながるものと期待される。
本来クリニカルパスは、期待される結果に直結するものでなければならないが、救急疾患に関しては、重症度や疾患の種類だけでなく、プレホスピタルケアの差によってもその結果が過大な影響を受けるため、一律なクリニカルパスに基づく評価が可能か否かが問題となる。また、各施設に存在するクリニカルガイドラインの多くは、それぞれの救急疾患に対する初期治療に限定されているものが多く、期待される結果を救急外来搬入時から、例えば何か一つの指標となる処置までの時間をoutcomeとすれば、救急医療におけるクリニカルパスの作成が可能となると思われる。今後は各救急疾患のクリニカルインディケータの開発も必要であることが示唆された。また救急疾患のクリニカルパス作成の前に、EBMに基づいたクリニカルガイドラインやクリニカルアルゴリズムも、米国などのそれを基準として我が国独自のものを作成することも必要である。そのためには、各救急疾患の全国レベルでの登録によりデータベース化は必須であり、また各疾患の重症度を比較検討するためのクリニカルスコアも必要である。
米国においては、転帰(outcome)だけでなく、リスクやコスト面からの有用性、さらには倫理的、経済的、社会的、法的な考慮も含めたガイドラインの作成を目指している。我が国でも、治療に関してはclass Iの臨床試験、臨床論文などによる外傷患者管理の標準化が望まれる。心循環器系救急疾患に関しても、我が国独自のものを作成することが必要であり、それを基盤として、二次救急医療施設の質の向上、質の平均化が期待される。
本研究のように、厚生労働科学研究として地域医療における救急医療評価を行うことで、救急医療体制のための救急・災害医療行政へのフィードバックや展開となり、より質の高い厚生行政施策の実施が可能となる。それは、直接国民に対する保健医療という面での還元と言う側面を持つと言える。
結論
救急医療領域におけるクリニカルパス作成を試み、それをもとに全国の二次救急医療医療機関の人的、物的充足度やレベルアップにつながる統一したクリニカルパスの開発を行った。

公開日・更新日

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