病院前救護体制の構築に関する研究

文献情報

文献番号
200101197A
報告書区分
総括
研究課題名
病院前救護体制の構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山村 秀夫((財)日本救急医療財団)
研究分担者(所属機関)
  • 小濱啓次(川崎医科大学)
  • 山中郁男(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院)
  • 杉山貢(横浜市立大学医学部附属浦舟病院)
  • 丸川征四郎(兵庫医科大学)
  • 美濃部嶢((財)日本救急医療財団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病院前救護体制を有効に構築するため、各分担研究課題の目的を以下の通りとした。1)救急活動の指示、指導・助言を行う医師や事後検証等を担う医師の存在は不可欠である。これらのMedical Control(以下MC)に係わる医師の役割を明確にし、研修内容、プログラム日程を検討し、MCに係わる医師の養成を図ることを目的とした。2)MC体制構築は急務であり、各地域の特性を考慮して救急現場により即した現実的・機能的なMC体制を全国各地で構築することを目的とした。3)傷病者の主要症候を「緊急通報トリア-ジ(ECT)のためのフローチャート」の使用が指令管制員の情報標準に寄与し、管制員が確認を覚知から4分間で実施できたことからある程度のECTが可能となることが判明した。今回の目的は、意識障害を対象症候に加えて再編したECTフローチャートを使用して医師現場派遣を行うシステムを試行することとした。4)医師が救急指令室に常駐しない時、傷病診断と重症度判断能力を高めるために言語的な情報分析プログラムの必要性は高いが、この方式だけでは通報者の観察能力や表現能力の差の障害により将来的な発展は望めない。音声言語と心電図に加えて画像情報をTelemedicineに取り入れ、その開発のあり方を検討した。5)外傷セミナー:PTCJ(Prehospital Trauma Care Japan)の実施効果を検証し、その有用性を検討した。AHAのCPR等へのガイドライン2000への普及・発展のために開発した教材の中から救命士の教材として適切なものの検討を行った。
研究方法
1)救急医療・医学に係わる学会などでMCに係わる臨床研究を行っている有識者を集め、MCに係わる医師の役割と履修内容について討議し、救急救命士を含む救急隊員の実施行為に対して適切な指示、指導、検証ができる医師の養成をめざした医師研修プログラムを作成した。2)現在実際に構築・運用され機能している代表的地域のMC体制の分析・検討し評価するため現地調査を行った。地方大都市型として札幌市、広域消防体制として出雲市、県単位での体制構築を目指す広島市と体制構築の初期より参画している横浜市について検討・評価した。3)地域・時期・時間及びランデブー救急隊を限定し、medical regulation systemのもと心血管救急疾患に意識障害を呈する症例を加えたフローチャートに基づいて、指令センターにいる医師と指令管制員が通信医療班を構成しフローチャートに従って交信し、重症度・緊急度を判定した。同時に緊急医療班を現場に派遣し、院外救急診療の後に医療機関に搬送された症例について重症度・緊急度と診断名、転帰について調査し本システムのフローチャートの精度を評価した。4)Medical RegulationとTelemedicineの実態調査は、我が国と病院前救護の環境が類似している英国の言語的情報分析プログラムに注目してホジェッツ教授を、また院外での重症度・緊急度や緊急搬送の要否判断の根拠を決定する理論的裏付けとなる決断学の導入を検討するため米国の青木助教授を招聘し検証した。医療画像情報通信については、ポータブル型画像通信装置の現状調査と携帯型通信装置の画像通信モデルシステムの屋内外、走行中の自動車等でその機能を検討した。5)外傷セミナーの効果の検証は、PTCJプログラムについて実施し、主催側の医師、救命士と受講側の医師、救命士それぞれの立場から有用性を検討した。また教育技法、BTLS、ATECとの比較と整合性について評価、審議した。AHAのガイドライン2000の教育資器材についてBLS、AED及びACLSについて検討を行った。
結果と考察
1)病院前救護
体制におけるMC体制を構築するためにこれらに係わる医師の養成を図る必要がある。on line及びoff line MCに係わる医師は、救急救命士を含む救急隊員に対し、迅速な指示、指導・助言を行ったり、医学的観点から事後検証、その他救急隊員がうける標準教育プログラムなどにも精通していなければならない。これらをふまえてMCに係わる医師の役割と履修内容を明確にし、これらの医師の養成を図るための医師研修プログラムを作成した。このプログラムを実施することで、MCに精通した医師が養成され、研修受講医師は、厚生労働省等よりMCに係わる医師としての資格を認定されることが望ましい。実際に受講医師が各都道府県での統括医師、あるいは2次医療圏での検証医師として活動するには、今後救急活動記録作成やその評価の基準、指針作成、消防統計の改訂など、都道府県や市町村消防との交渉や連携のために何らかの権限の位置付けが必要と思われる。都道府県単位での設置が求められているMCに係わる協議会は、認定医師のいる医療機関、2次医療圏での地域を把握することができ、MC体制の構築がより推進されていくものと思われる。2)昨年度示したMC体制構築における基本的・具体的指針に基づき、on line MCの中核をなすと位置付けられるEmergency Medical Dispatch(E.M.D)Systemの具体的構築を示すとともに、今後各地域での体制構築のモデルとなる地域特性を加味したMC体制の分析・検討を行った。これらの研究により今後日本全国で展開が期待される体制構築における救急現場に即した具体的な指標となり、早期に実行される原動力となろう。またEMD Systemの具体的構築を示すことにより、救急現場での応急救護・トリアージ、搬送途上における救急隊員の向上、指令員による重症度・緊急度識別及び市民への口頭指導の向上につながり、病院前救護体制の向上につながることが期待される。3)指令センターにおけるECTチャートでは心血管救急疾患と脳血管救急疾患でその有用性を正診率、過小判断率、過大判断率で評価したが、現時点では不十分であることが認識され、今後は全通報の記録と解析を視野に入れて改変し、本システムの実現に向けて検討を継続したい。119番覚知から医療班の傷病者接触までの時間はAMI症例で救急隊員による直接搬送:119番覚知から病院着までの時間より有意に医療班が傷病者に早く接触でき、静脈路確保、12誘導心電図、薬剤投与、諸検査、気管挿管等の診療が実施できた。医師の現場参画により現場における重症度・緊急度判断の精度の高さや早期診療開始による傷病者の改善、搬送先医療機関の選定など、その有用性がデータとして蓄積された。4)病院前救護における情報通信は、加工を加えない生体情報と傷病者に直接接する救助者が下す決断を支援する情報とがあり、後者ではclinical informaticsを理論的基礎に取り入れるべきと考える。通信情報装置のあり方は、①全国的に利用できる統一プロトコールの確立、②救急医療サービスに域差が生じない、③利用者の医療レベルに関わりなく同質のサービスが提供できる。④取り込んだ情報は全て電子的に内部保存できる。⑤動画を含めた画像情報は実用的である。⑥生体情報は実時間で通信できる。の6つの原則が必要である。これらのことは、病院前救護における通信装置開発の経済性、汎用性と継続性を保証することが目的である。最新の携帯型画像通信装置は、損傷局部の分析、重症傷病者の重症度評価をモニター画面の画像で行うにはまだ画質が不十分である。これらが改善されれば音声言語による情報通信は補助的なものとなろう。6)PTCJの外傷セミナーの効果を検証し主催側の医師、救命士と受講側の医師、救命士の夫々の立場から及びBTLS等との比較、整合性について実施しその有用性を確認した。さらにAHAがCPRのガイドライン2000を受けてその教育・普及のために作成したText, Manualの中から救急救命士の教材として適しているものを検討しBLS for Healthcare Providerの教材化を図ることとした。PTCJシステムの導入は現場での初療と医療機関での一環した継続した治療が実施できる利点がある。またAHAの
教材も大変教育効果が高く、救命士等への教育資器材としての導入は有用であると考える。
結論
病院前救護体制を充実させるため1)MCに係わる医師の定義付け及び研修内容を明確にし、それらを基にMCに係わる医師研修プログラムを作成した。2)地域におけるMC体制構築には、救急医療機関と医師及び消防関係者との一体感を如何に築き上げるかが問題であり、救急医療に携わる医師の情熱と積極的な行動が不可欠な要素である。3)医師現場参画の有用性が多くの点においてデータ(数字)として蓋積されつつある。ECTチャートは現時点では不十分であることが認識され今後は本システムを改変しその実現化に向けて検討を継続していく必要がある。4)傷病現場での決断の適正化には、clinical informaticsは決断様式と共にEBMに基づいた情報の新たな構築にも役立つ学問である。病院前救護における通信装置開発の経済性、汎用性、継続性が必要である。画像情報通信は医療資源の節約に加え、傷病現場での決断が現場単独方式から、集団的決断方式への変革が予測される。5)PTCJプログラムの実施効果を検証しその有用性を認めた。病院前外傷初療システムの確立は、院内での治療と継続的な治療・処置が可能となると考えられる。AHAのガイドライン2000の普及のための教育資器材は教育効果が高く、救命士に向けた教材の開発が必要と思われる。

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