医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究

文献情報

文献番号
200101194A
報告書区分
総括
研究課題名
医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
川村 治子(杏林大学保健学部)
研究分担者(所属機関)
  • 原田悦子(法政大学社会学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Ⅰ.ヒヤリ・ハット事例の分析
11年度に全国規模で収集した看護のヒヤリ・ハット1万事例の定性分析を継続し、本年度は残り19領域でエラー内容と発生要因を具体的に整理したエラー発生要因マップを作成した。これらのマップをもとに対策を検討する。
Ⅱ.11,12年度の研究で明らかになった問題への継続研究:
1)転倒・転落の具体的対策の実施に関する研究:昨年の転倒・転落事例の発生状況の分析から明らかになった要因への有効な具体策を明らかにする。
2)新卒看護師の事故防止知識・技術の卒後修得に関する研究:新卒看護師における事故防止関連の卒後習得の状況を明らかにし、求められる卒後教育のあり方について検討する。
3)看護師の準備・与薬時の内服薬エラー防止システムに関する研究:看護師の内服与薬の準備・実施におけるエラーを防止するために、新たな与薬管理システムを構築する。
4)有効な看護事故防止教育ツールの試作:能動的、双方向な教育ツールとしてPC環境を利用した有効な注射事故防止教育ソフトを試作する。
研究方法
Ⅰ.ヒヤリ・ハット事例の分析
19領域を行ったが、主要な7領域について述べる。事例整理の方法は、チューブ類の管理エラーは512例を、エラー5種(はずれ、閉塞・開放忘れ、抜去、切断、その他)とチューブ5種の5×5=25のマトリックスで整理し、輸血エラーは140事例を業務7プロセスとエラー2種(異型輸血とそれ以外)の7×2=14のマトリックスで整理した。また手術看護エラーは415事例を13業務プロセスで整理した。一方、誤嚥は一般、精神の2群と摂食・嚥下の3ステージ(先行期、準備期、嚥下期)の2×3=6で、入浴中の事象では108事例を内容5種と患者疾病4群の5×4=20で、また、自殺・自傷は155事例を手段4群と患者疾病4群の4×4=16で、暴力は96事例を「患者→患者」と「患者→スタッフ」の2群と一般・精神の2種の2×2=4のマトリックスで発生要因・状況を整理した。これら具体的要因を集約し、本質的要因を明らかにし、対策を検討した。
Ⅱ.11,12年度の研究で明らかになった問題への継続研究
1)転倒・転落の具体的対策の実施に関する研究:700施設に転倒・転落事例の発生要因への対策がどのように実施されているかを調査し、回答を得た306施設の対策を分析した。
2)新卒看護師の事故防止知識技術の卒後習得に関する研究:12年度の新人看護師約2千人への事故防止に関する知識・技術習得状況の調査結果を卒後の視点で分析し直した。
3)看護師の準備・与薬時の内服薬エラー防止システムに関する研究:研究者の在職する病院で薬剤師・看護師のチームで与薬管理システムの設計を行い企業と共同試作した。
4)有効な看護事故防止教育ツールの試作:新人注射エラー事例をもとに、業務のプロセスや薬剤関連の知識をタイムプレッシャー下で設問形式で問う教育ソフトを試作した。
結果と考察
Ⅰ.ヒヤリ・ハット事例の分析
1)チューブ類の管理エラーの発生要因と対策:看護技術と用具、患者の3者の要因があった。対策は、①IVHは閉鎖式回路やロック式の三方活栓の採用 ②三方活栓,輸液ポンプ、ドレーン操作、滴下調節の知識・技術の習得 ③チューブ装着患者の看護ケア技術の教育 ④体動による力のかかりを吸収するチューブ開発⑤患者負担の少ない拘束用具の開発 ⑥意識障害・痴呆患者の自己抜去防止に対する観察の人的資源の確保 が必要と思われた。
2)輸血エラーの発生要因と対策:血液型、血液、患者の間違いの3エラーに集約された。対策は、①血液型判定用採血~血液払い出しまでの一元的な管理 ②習熟した技師による24時間血液型検査・交差適合試験体制 ③病棟で保管する場合は1患者単位に明確に区別した保管 ④患者と血液、血液型の照合・認識システムの確立が重要と思われた。
3)手術看護エラーと対策
13種(①術前・術後との情報・業務連携エラー②移送中・手術台からの転倒・転落③体位や固定のトラブル④熱傷⑤注射エラー⑥輸液ライン管理エラー⑦消毒薬 のエラー⑧チューブ抜去⑨検体取り扱いエラー⑩器械準備・取り扱いエラー⑪ガーゼ・器械のミスカウント⑫輸血エラー⑬麻薬管理エラー)のエラーが複数の業務プロセスにまたがって発生する。業務プロセスとエラーの内容からなるマトリックスでエラーの発生要因を理解し、チェックリスト等での確認ポイントを明らかにし、教育・訓練することは有用と思われた。
4)誤嚥の発生要因と対策:嚥下期に由来する誤嚥は食事介助のスピード、体位などの看護技術要因や食材要因などがからんで発生していた。誤嚥のリスク評価と介助技術・知識の向上、摂食前の誤嚥防止のトレーニングが重要と思われた。
5)入浴中のヒヤリ・ハット事象の発生要因と対策:要介助者対介助人員との不均衡による目の離しや浴室内の不安定な椅子、浴室・脱衣場の滑りや段差、浴槽内座位を支える固定用具のなさ、急変に備えた酸素吸入など必要物品の未整備などが要因となっていた。入浴業務の適正なマネジメントと環境・ハードウエアの改善が必要と思われた。
6)自殺自傷の発生状況と対策:うつ病では7割が縊首、がん等一般疾患は投身と縊首で7割を、うつ病以外の精神疾患では他疾患よりも様々な手段事例がみられた。自殺リスクを予見させる状況・情報としては、不安定な病態、悲観的言動や別れの挨拶、いつもと違う印象、家庭や個人問題の存在などが挙げられていた。情報の共有でリスクを適切に把握し、精神科的介入と環境から危険な手段になりうるモノを排除することが重要と思われた。
7)院内暴力発生状況と対策:一般病棟ではアルコール関連の暴力が多く、精神病棟では、不安定な精神症状に由来した暴力とスタッフの対応への不満等が引き金になった暴力の2群があった。特に準夜帯の単独での保護室対応はリスキーであり、精神科的介入と同時に、準夜の業務労働体制などのシステム改善が必要と思われた。
Ⅱ.11,12年度の研究で明らかになった問題への継続研究
1)具体的な転倒・転落対策に関する研究:老人病院、リハビリテーショ病院では対策率が高かった。転倒防止看護ケアシステム,患者教育、トレーニング、環境・ハードウエアに関する36項目の回答の中には極めて貴重な対策があり、共有して活用すべきと思われた。
2)新卒看護師の事故防止知識技術の卒後修得に関する研究:知識・技術の習得内容には養成機関、新卒者の教育歴、卒後教育によって差があった。そこで、採用までに必要な知識技術の自己学習を課すこと、新卒者の指導担当看護師の育成、必要な知識・技術評価を就職時と就職後一定期間ごとに行い、本人、指導者、管理者が共有する必要がある。
3)看護師の準備・与薬時の内服薬エラー防止システムに関する研究:薬剤科から内服薬を配薬単位でカートにて払い出し、看護師はハンデイな端末(PDA)で与薬内容を確認し、自動認識機器でカートと患者を認識し与薬するという与薬管理システムをメーカーの協力で試作した。
4)有効な看護事故防止教育ツールの試作:タイムプレッシャーの模擬(解答制限時間を設け解答時間の進行を表示する形を採用)を軸とて、音声情報等も組み合わせ双方向的な学習を可能にする質問・解答方式のソフトを考案した。
結論
エラー発生要因マップを利用することで整理の省力化と要因の俯瞰が可能になり、システム改善の優先順位が決めやすい。また、卒前―卒後の事故防止教育にも活用できる。メーカーに対してはデザイン上改善や事故防止用の器具開発のヒントとなると思われた。

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