少子化時代における小児救急医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200101193A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化時代における小児救急医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
田中 哲郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 西田勝(社会福祉法人枚方療育園)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児救急医療の充実は少子化対策や子育て支援の立場からも不可欠とされ、政府の少子化対策関係閣僚会議、医療法改正の際の参議院での付帯決議などより、政治的な課題の一つにさえなっている。
以上のことより、小児救急医療の抱える問題を広範囲に明らかにし、今後の方策を考えるための資料とすることを目的に研究を行った。
研究方法
研究方法の詳細は各報告書を参考にされたい。
結果と考察
小児救急医療体制の充実を計る方策を検討するために、①救急告示病院における小児救急医療の現状、②日本小児科学会認定施設医長の小児救急医療研修・教育に関する意識調査、③日本小児科学会認定施設における小児患者の季節変動調査(内科との比較)、④日本小児科学会認定医施設における紹介患者加算(紹介)調査、⑤大学小児科医の医療環境に対する意識調査、⑥保護者の小児救急医療に対する意識調査、⑦大阪府小児時間外救急患者と小児科医の動態について、⑧小児救急医療における病院小児科の現状と問題点、⑨小児救急当直医のストレスマーカーについて-尿中ステロイド代謝物測定によるパイロットスタディー-、⑩全国自治体に対するアンケート調査を行った。
①~⑥は主任研究者の田中哲郎が、⑦~⑩は分担研究者の西田 勝がそれぞれ総括して行った。
救急告示病院の調査では、子どもの救急診療を実施しているのは全体の53.7%のみで、24時間365日子どもの救急に対応できる施設は40.6%、常に小児科医による診療は29.7%であった。
日本小児科学会研修病院においても78.6%の施設で小児救急の研修プログラムを有していなかった。
大学の小児科医の意識調査では、関心事として小児救急、高度先進医療、新生児医療をあげ、小児救急に対する関心は高かった。また当直については自身の病院での回数はそれほど多くなかったが、土曜日、日曜日などに複数の施設において当直勤務をしており、収入は高いものの、過酷な勤務を強いられていた。
小児科は内科に比べ、外来受診者、入院患者数などで季節変動が有意に大きいことが明らかになり、これらは病床稼働率に大きく影響し小児科の不採算性の原因となっていた。
診療報酬において、現在の紹介加算は自主来院の救急患者の多い小児科では救急を行えば行うほど紹介率が低くなり、小児救急の充実にとって反する制度となっていた。
保護者への調査では、保護者が夜間・休日に医療機関を受診するにあたり重視する点は、小児科医による診療が受けられることが40.0%、いつでも診療を受け入れてくれることが33.5%であった。また、初期、二次、三次救急の分類があることを知っているものが16.8%、医療機関を使い分けているものが19.8%のみで、これらの分類は小児救急では機能していないことが明らかになった。
大阪府の小児救急の実態について詳細に検討した結果、繁忙期には担当している病院小児科医数で患者数を割ると1カ月で103人の患者を担当することとなり、大きな負担となっていることが明らかになった。また、常勤医だけで時間外対応のできている施設は40施設中3施設しかなく、病院単位で救急を行うことは限界とし、地域で対応することが望ましいとの研究結果であった。
これらの結果より現状の小児救急医療体制は種々な面で機能しておらず、小児救急という観点から体制そのものを見直す必要があると考えられた。
結論
小児救急医療の最大の課題は小児医療の不採算性と小児の救急診療を行う小児科医不足であることが改めて明らかになり、その根源はわが国の医療制度のひずみが小児救急に強くあらわれているものと思われた。
小児救急の問題解決のためには、医療制度の根本改正を待たねばならないかもしれない。
もし、そこに手をつけられないならば、診療報酬及び子どもの医療制度を別枠で考えなければ解決は難しいと思われた。
平成14年4月より実施される診療報酬に関しても、小児部分については種々な対応がされているものの、これにより、小児医療の不採算性の問題が全て解決されるとは考えにくい。また、成人救急と小児救急ではその本質に大きな差がみられることより、現行の制度中では対応が難しい部分も多い。一部は現行システムの弾力的運用で解決が可能な部分もあろうが、小児という視点で抜本的に考えるべきである。
いずれにしろ次世代の子ども達に対し、投資の必要性につき国民的な合意を得て解決することが必要である。

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