診療・経済評価を目的とした病名統合システムの構築(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101187A
報告書区分
総括
研究課題名
診療・経済評価を目的とした病名統合システムの構築(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
楠岡 英雄(国立大阪病院)
研究分担者(所属機関)
  • 是恒之宏(国立大阪病院)
  • 大江洋介(国立大阪病院)
  • 武田裕(大阪大学医学部附属病院)
  • 松村泰志(大阪大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
診療行為の有効性、経済性、効率などを比較するためには、疾病の種類、病因、重症度、進行期などの揃った母集団を構成し、その分布を検討する必要がある。一方、主要因子が均一である疾病を有する患者集団の抽出には、病名による検索が最も効率的と考えられる。しかしながら、現状では、主要因子が明らかに異なるにも関わらず同一病名が用いられたり、逆に、診療評価の観点上からは同一に扱うべき病態が細かく分類されていたりしている。また、現在、全国的に施行が考えられている病名システムも、医療評価の観点からは作成されておらず、上記の欠点を有している。本研究は、診療行為の評価に使用し得る病名システムを設計・構築し、かつ、このような病名システムが診療行為の評価にもたらす意義を明らかにする事を目的としている。
研究方法
本研究は、(1)病名システムの構築、(2)病名検索のためのエンジン作製、(3)医療現場での試用による評価、の3段階を経て、目的を達成させる予定である。第1段階の病名システムの構築では、どのような病名が診療評価に適しているかを見いだすための手法(病名形成法)の開発と、それを用いた病名集の編纂を行う。診療評価に適した病名は、選択した病名における治療成績、入院日数、診療コストなどを指標として分布を分別し、単一分布を形成する病名が見つかるまでこれを繰り返す、などのデルファイ法的手法の応用により収集する。目的とする病名集は、MEDIS-DC標準病名集に基づき国立大阪病院にて作製した当院のICD-10準拠病名集に、上記病名形成法を加え、編纂する。第2段階は、編纂した病名集に収載されている病名を検索し、最適な病名を見いだすための検索エンジンの作製である。第3段階では、本研究により作製した病名システムが、診療行為の評価に役立つかを、病名システム構築後の診療行為に適用し、評価する。同時に、退院時サマリなどを介して、病名毎の診療コストの計算や、対効果比などをもとめ、医療行為の評価を行う手法を確立する。
結果と考察
昨年度に作製した長期診療支援システムの検索ツールを用い、病院情報システム・データベース中に含まれる試行DRG/PPSで対象としている疾患を有する患者の入院記録から、DRGに関連する諸指標の抽出を行い、DRG/PPSの試行データとの比較を行った。データベースから抽出された項目は、入院日、退院日、転帰、手術前日数、手術後日数、手術手技点数、手術手技コード、特定入院期間、手術日、入院日数、特定入院料算定期間(救命救急センター入院日数)、診療報酬請求点数、人工腎臓・輸血・血液照射・麻酔・カウンターショック・リハビリテーション等の有無、手術名、等である。これらのデータを元に、試行DRG/PPSの指標・点数等を算出し、検討した。試行DRG/PPSの対象となっている疾患の中からは、脳梗塞(DRG分類番号01028:27件、01029:17件、01031:9件、以下同様)、急性心筋梗塞(05001:2件、05002:54件)、胃の悪性新生物(06027:14件、06029:12件)、結腸の悪性新生物(06031:3件、06040:16件)、直腸・直腸S状結腸移行部および肛門の悪性新生物(06049:21件)、肝および肝内胆管の悪性新生物(06057:12件、06058:2)、胆石症(06159:17件)、乳房悪性腫瘍(09003:49件)、前立腺肥大症(11011:35件)、前立腺悪性腫瘍(11012:12件、11013:9件)を選び、解析対象症例の合計は311件である。解析対象期間はデータベース編成の関係より平成12年度が主であるが、この期間の全例を対象とはしていない。これは、DRG分類の判断に必要な情報が全て揃わなかった場合は解析対象より除外した
ためである。今回の検討における結果は多岐にわたるので、それを端的に示す方法として、DRG診断分類の各群での対象症例毎に平成13年度点数で試算したDRG/PPS試行点数と、診療報酬請求を行った点数(レセプト点数)とを在院日数との関連でまとめた。平成13年度には診療報酬請求の改訂はなかったので、平成12年度データに対して適用し、解析しても、問題はないと考えられる。その結果、以下のような点が明らかとなった。(1)一般的に、現行の診療報酬請求点数は当然のことながら在院日数に比例して増加するのに対し、試行DRG/PPSに基づく計算では、基準在院日数までは点数がほぼ一定であり、基準日数以上では微増傾向であった。(2)上記(1)の結果を受けて、国立大阪病院の現状では、一般に在院日数の短い範囲においては試行DRG/PPSがレセプト点数を上回り、在院日数が長期化した場合は、逆転した。(3)上記(2)の結果は、対象疾患によっては当てはまらないものも存在することが明らかとなった。一般外科領域の腹部手術等では、疾患の種類によらず上記(2)の結果が著明であり、悪性腫瘍に対しても当てはまっていた。また、脳梗塞や急性心筋梗塞のような内科的疾患においても当てはまっていた。例外的なものは泌尿器領域の疾患に多く認められ、その原因は不明であった。
今年度の検討において得られた、上記(1)、(2)の結果は、現在試行のDRG/PPSの構造がほぼ構想通りの働きをしていることを示唆するものと考えられる。しかし、国立大阪病院のデータによる解析では、DRG/PPSによる点数は多くの症例において実請求点数を僅かではあるが上回る傾向があり、また、在院日数は基準日数より短かった。このことは、DRG/PPSの設定上の問題と考えられ、今後、改善の余地が多分にあることを示すものと考えられる。また、DRG/PPSの試行による影響は、施設毎に極めて大きな差があるものと推測された。また、我々が昨年度の当研究で示した疾患群の分類と試行DRGを比較すると、試行DRGの分類基準は病態の重症度を含んでいないため雑駁であり、より細かい分類基準の必要性を感じさせた。実際、実請求点数との乖離の原因の一つとして、重症度の評価の有無が強く示唆された。逆に、重症例を多く扱う施設においては、DRG/PPSの影響を大きく受け、医療経済上の問題、高度診療機能を有する施設の適正配置の問題などを解決しないと、極めて深刻な事態が生じる恐れのあることを強く示唆した。今年度の検討においても、DRG形成の重要性が明らかとなったが、適正なDRGの形成にはさらに検討を積み重ねることが必要であることも改めて明らかとなった。
結論
今年度における検討により、現在試行中のDRGの特性と問題点が明らかとなった。今後、病名群形成が重要であり、且つ、早急な対応が必要であることも明らかにされた。また、昨年度に作製した病院情報システムより直接データベースを形成するシステムが、このような問題解決に極めて有用であることも同時に示されたと考えられる。

公開日・更新日

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