保健医療情報モデルの構築に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101186A
報告書区分
総括
研究課題名
保健医療情報モデルの構築に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大江 和彦(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 豊田建(朝日アーサーアンダーセン株式会社)
  • 岡田美保子(川崎医療福祉大学)
  • 坂本憲広(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
情報システム分析に用いられるオブジェクト指向モデリング手法、すなわち情報システムや社会システムを構成する構成要素(組織、期間、人、機会、システムなど:主体という)とその関係およびその間の情報の役割を整理し「モデル」として表現する手法を用いて、日本の医療と医療情報システムにおける情報の役割を分析することによって、保健医療において役割を果たす主体(行政機関、医療機関、医療提供者、患者、家族、地域社会、医療情報システムなど)の抽出とそれらの相互関係の分析とそれにもとづく情報モデルの構築を行ない、広汎かつ妥当な日本の保健医療情報モデルを構築し供することを目的とする。
研究方法
1)情報構造モデルとその評価:(1)HL7 RIM(Reference Information Model) Version 1.6c(RIM0106c) でのインスタンスをRDB(Relational Database)へ格納、また、RDB からのRIM インスタンスへの復元ができるテーブル設計を目標として設計を行う。
(2)診療ガイドラインの形式的記述方法:診療ガイドラインの形式的記述方法として、をHL7 RIMを利用する方法を採用し、HL7 RIMとの整合性も考慮し、データベース中への実装方法を採用した。2)情報システムのモデル化:中央診療サービス部門として、ここでは、院内薬剤部門、給食部門、放射線検査部門、検体検査部門の4部門をとりあげ、これらとオーダー系との情報のやりとりを分析表にする。つぎにこれらを総括して表現可能な情報フローモデル図を記述し、抽象化可能な部分と部門に特化している部分とを分離し、特化している部分が何に起因しているのかを考察する。3)保健医療統計モデルのためのデータ辞書:医療保健統計調査資料を中心としたドメイン分析により抽出したデータ要素の候補について、医療制度、健康・病気、生活、個人などといった概念を整理し、相互関係を記述した。これを、形式的な図式で表現したものが保健医療統計データモデルである。統計データ要素辞書の開発は、同データモデルの開発と同時に進めた。同辞書はウェブ上での処理が可能な形で開発することとした。4)医療システムモデル化:保健医療制度をベースとして構築を行うのが妥当であると考えられた。この場合の主要プレイヤーは、「行政機関」「患者」「医療機関」である。保健医療制度については、既に多く整理されているので、「患者」及び「医療機関」の視点を中心に調査・分析を行いモデルの構築を試みた。
結果と考察
1)HL7RIMデータベース設計:PostgreSQLデータベース上で約800のテーブルを実装した。あらゆる医療分野についてHL7RIMの適応性を確認したわけではないが、少なくとも代表的なオーダーや診察等についてはHL7RIMは医療ドメインモデルとしてそれらに対応していると考えることができる。2)診療ガイドラインへの適用による評価結果では、一例として、SDM中のガイドラインである"2型糖尿病におけるαグルコシダーゼ阻害薬開始の目安:空腹時血糖値<=150mg/dL、食後血糖<=200mg/dL"を取り上げ記述した。あいまいな情報もHL7 RIMを用いて表現は可能であるが、本研究で用いた手法では、実際の患者データとの比較や自動処理は困難であると予想される。今後、機械学習等の手法を応用して、HL7 RIMを利用して記述した診療ガイドラインを高度に解釈する手法について研究を進める必要がある。3)院内薬剤(調剤)部門、検体検査部門の情報フローモデルと、放射線部門および給食部門の情報フローモデルも同時に考慮した結果、サービス部門の情報モデルは一般化した情報モデルで記述可能であった。処方オーダーと検査オーダーの本質的な相違の原因があきらかとなった。後者は患者から検体を採取する必要があるために患者の部門への来訪がトリガーになるが、処方調剤は単なる払い出しであり、部門側のアクションのトリガーに患者が関与しない。
一方、処方オーダーと給食オーダーには相違があったが、処方オーダーが、1回処方オーダーすれば定期的に一定間隔ごとに繰り返しオーダーが自動で発生してそれに対して調剤アクションを起こすという仕組みの特殊な形態であると考えれば、実は給食オーダーと全く同じ情報フローになる。したがって処方オーダーにおける情報モデルは、実は給食オーダー情報モデルに吸収可能であると考えられた。4)保健医療統計データ要素は、ウェブ上での処理を可能にするためXMLを用いて構築された。データモデルを開発することにより、データ要素を、その文脈に基づいて定義することが可能となる。保健医療統計データ要素辞書はウェッブ上に公開して共有化をはかることが適切であると考える。現在データ要素は約600個(約5MB)であり、イントラネット上でのみ試験的に公開を行っているが、今後インターネット上での公開をはかりたい。5)医療システムモデル化似過程では、①日本においては、フリーアクセスを保証するための医療機関に関する必要な情報の入手が全く保証されていないことが明確になり、情報モデルとしては、きわめて歪な物となっていることがわかった。また、情報の非対称性モデルの表現が必要である。また、日本の医療費は診療報酬制度のもとで、細部にわたって定められており、近年増えてきたとはいえ、医療機関が自ら価格を設定し請求できる部分は僅かでしかない。すなわち情報モデルとして、内容としては極めて単純化されたモデルが考えられる。
結論
1)情報モデル:本研究の最終目標である保健福祉医療分野の大規模なドメインモデル構築、実装をHL7RIMを用いて行った。これによって、HL7 RIMを用いて、オーダーや診断などの診療現場におけるさまざまな事象が記述可能であることを示し、さらに、その論理モデルがデータベースに実装可能であることを示した。2)診療サービスシステムモデル:病院情報システムにおける中央診療部門の情報システムの情報フローは、ひとつの一般化情報モデルにより表現でき、そのサブクラスとして各部門の情報モデルは表現可能であることが示唆された。また電子カルテにおける診療録情報は、3つの抽象データタイプと、それによって表現された基本情報クラスのみにより表現できることが明らかとなった。実際にリハビリ診療科の診療録情報の格納がこの情報モデルにより可能であることが示された。3)保健医療統計モデル:ドメイン分析の方法に基づいて国内における保健医療統計のデータモデルを開発し、同時に保健医療統計データ要素辞書を構築した。データ要素辞書は保健医療統計の共通的要素を抽出して標準形式で定義したものの集積である。保健医療統計データモデリングは、異なる組織や地域、応用の間で保健医療統計の共通性を高め、比較を可能とし、適正な統計の作成と利用の促進に貢献しうると考える。4)医療システムモデル:従来のような右肩上がりの経済の発展が望めない中で、少子高齢社会に対応していくためには、大幅な保健医療システムの改革が必須となっている。そのためには国民的なコンセンサスを得る必要があり、共通に理解が得られる、保健医療情報モデルの構築が強く望まれることが、今回の研究でも明らかになった。

公開日・更新日

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