歯と咬合の長期的維持管理に関する予防・治療技術の評価についての総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101182A
報告書区分
総括
研究課題名
歯と咬合の長期的維持管理に関する予防・治療技術の評価についての総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
石橋 寛二(岩手医科大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 坂東永一(徳島大学歯学部)
  • 相馬邦道(東京医科歯科大学大学院医歯学研究科)
  • 宮武光吉(鶴見大学歯学部)
  • 廣瀬康行(琉球大学医学部)
  • 寺岡加代(東京医科歯科大学大学院医療経済分野)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,357,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢に至るまで歯と咬合を適正に維持する方策を総合的に検討し、歯列崩壊の予防および健全な咬合の維持管理方法を確立することが、現在のわが国の歯科保健に強く望まれている課題の一つである。本研究においては、人のライフサイクルを軸に、科学的根拠による歯と咬合の長期的維持管理を達成するための指針を打ち出すことを目的とする。得られた結果は、補綴物の維持管理期間をより長期に設定すること、および長期的維持管理を行うために必要な診査項目の見直しを行う上で寄与しうる貴重なデータになるものと考えられる。
研究方法
平成13年度は、平成12年度に作成したプロトコールに従い、各分担研究で収集したデータ分析を行った。その概要としては、
①補綴処置後の長期的な維持管理方法
補綴処置により機能回復を行った後、患者自らが口腔の健康管理を行うための基礎データを得るために、5年以上経過したブリッジ装着者を対象に、口腔内清掃状態とブリッジの機能状態を調べた。同時に口腔清掃に関して清掃方法や時間、回数、指導の有無、さらに定期検診の有無に関するアンケート調査を歯科医師と患者に行った。
②補綴診断における電子情報の臨床応用
40歳以上60歳未満の235人(男性94人、女性141人、平均年齢49.3±5.5歳)を対象に、残存歯数、歯周組織を含めた口腔内の状態と摂取食品ならびに咀嚼機能に関するアンケート調査を行い、各パラメータとの重回帰分析を行った。
③咬合治療に対するEBMに基づく評価
顎関節症患者に対する咬合治療をEBMに基づき評価するため、咬合治療を行う群と行わない群に無作為に分けて、その効果を調べる実験計画を立案した。2種類のスプリントの効果を比較して顎関節症と咬合異常との関連を調査することを主たる目的とした研究である。慢性の顎関節症状を主症状とする顎関節症患者に対して、一般に用いられている咬合状態を改善するスタビライゼーションスプリントと、咬合面をくりぬいて患者の持つ咬合状態を変化させないスプリントを、一定期間ずつ装着して治療効果の比較を行う。顎関節症状の発症因子として咬合の関与について検討するとともに、スプリント治療に引き続いて不可逆的咬合治療を行うべきか否かの診断手段としての意義についても検討を加える。また、咬合の客観的評価を目的として、デジタルカメラと複写台を応用した規格撮影装置を新たに作製した。これを用いて、ブラックシリコーンによる咬合記録と歯列模型の規格撮影を行い、画像ソフトによってアド画像を作成して、選択した解析パラメータによって正常被験者群および顎関節症患者群について咬合評価を行う。さらに、解析パラメータの有効性についても検討を行う。
④歯列不正と咀嚼機能障害の関連評価
歯列不正と咀嚼機能障害の関連を調べる目的で正常咬合を有する者40名を対象に歯列模型を中心とする形態データと下顎運動、咬合力測定を中心とした機能データの収集を行い、平成12年度に歯列不正を有する者106名を対象として採得した上記資料との比較検討を行った。
⑤学童期の口腔内状態が成人の口腔内環境に及ぼす影響
高校生および短期大学生を対象に、顎関節異常に関するアンケート調査と口腔診査を行った。対象者は、622人(男:337人、女:285人)であった。今回の集計結果に昨年度に収集したアンケート結果を加味し分析した。
⑥診療情報の適切な共有と提供の方策
各種の歯科診療情報、特に歯と歯との関係や歯と補綴物との関係を電子的に記述するための汎用的な電文形式を、考案・開発した。開発手法としては、一方でobject modelingを行いつつ概念を整理し、電文形式自体はXMLでのdocument modelingを行うこととした。
⑦歯科医療におけるクリニカルインディケ―タの開発に関する研究
歯科医療のクリニカルインディケ―タ(以下CIと略す)の開発を目的として、418歯科診療所(1都1道23県)に調査票を郵送し、上顎臼歯部麻酔抜髄に関する実態調査を行った。
結果と考察
①補綴処置後の長期的な維持管理方法
調査対象は291人(男性131人、女性160人)で平均年齢は55.1歳(男性56.7歳、女性53.6歳)であった。また調査したのは397ブリッジ、そのうち機能しているブリッジは340個、機能していないブリッジは57個で機能率は85.6%であった。ブリッジ装着時期は、平均10.02年前で10年以上前に装着したブリッジが183個でその内、15年以上前のものは79個であった。定期検診を受けていると答えた患者は32%で、リコールを行っているという歯科医師は52%であった。平成14年度は、ブリッジの機能の有無に関係する要因を、調査したデータを基に統計学的に分析する予定である。
②補綴診断における電子情報の臨床応用
歯および咬合所見では、残存歯数24.5±3.9本(平均±SD)、咬合支持域3.3±1.0か所、また、206名に前歯部咬合支持が存在した。プレスケールの分析結果では、咬合力が1376.4±830.1N、咬合接触面積が39.18±29.4mm2であった。咀嚼スコアは100点満点の92.4±12.4点、咀嚼満足度は10点満点の7.0±2.7点であった。重回帰分析結果では、咀嚼スコアを目的変数とした場合、残存歯数と咬合力の関与が大きく、咀嚼満足度を目的変数とした場合では、残存歯数、臼歯部の歯周疾患程度、咬合支持域、咬合力が関与している結果となった。
③咬合治療に対するEBMに基づく評価
平成13年度は患者を対象とした実験を行い、8名のデータを採取した。最終的に30名のデータを分析し、咬合治療の効果に関する評価を行う予定である。
④歯列不正と咀嚼機能障害の関連評価
歯列模型計測より形態的指標としてY値(医療経済研究機構「小児不正咬合の医療体系に関する研究報告書」(平成12年3月発刊)記載の判別法Eに準拠)を算出した。また機能的指標のうち咬合力項目についてデンタルプレスケールにより測定した全咬合力、右咬合力、左咬合力、咬合面積、平均圧力の各項目を、顎運動項目について顎運動計測装置であるMKGにより測定したtapping左右幅、最大開口量、限界運動左右差を採用した。機能的指標における各項目とY値との間で線形判別分析関数を用いた判別分析法による評価を行った。その結果、Y値と咬合力項目について全咬合力・右咬合力・左咬合力との間では89.7%、咬合接触面積では89.0%、平均咬合圧では71.2%の判別的中率が得られた。Y値と顎運動項目についてはtapping左右幅、最大開口量、限界運動左右差でそれぞれ65.1%、77.4%、69.2%の判別的中率が得られた。形態的指標と機能的指標という2次元の項目を用いて正常咬合者群と不正咬合者群における比較的高い判別的中率を得られた今回の結果から、不正咬合者においては形態面からだけでは伺い知ることの出来ない、正常咬合者とは異なった機能的な問題点を潜在的に有するという特徴が明らかになった。
⑤学童期の口腔内状態が成人の口腔内環境に及ぼす影響
対象者622人の約30%に何らかの顎関節症状がみられた。また、アンケートと検診結果をクロス集計したところ、開口度、疼痛および雑音などの項目に有意な相関が認められた。
⑥診療情報の適切な共有と提供の方策
設計戦略としては、super classによる meta modelを機軸とし、最終的な電文instanceの内容の限定についてはclassの属性値に特定の限定されたcodeを用いて行う、すなわちcoding schemaによって行うこととした。特長としては、関係objectを含んでいることである。これらの方法と諸機能によって、多様な粒度による多様な診療情報交換にも充分に堪えうる、汎用的な歯科診療情報交換電文の原型を構築するに至った。
⑦歯科医療におけるクリニカルインディケ―タの開発に関する研究
アンケートの回収率は55.4%(配布数755枚、回収数418枚)、症例数が2600件であった。歯科医師属性の分布としては歯科医師の年齢は40歳代がほぼ半数(45.93%)を占め、臨床経験も11年~20年と21年~30年が中心で両者を合計すると約75%を占めた。患者年齢の分布では50歳代が最も多く(21.42%)、20歳代~60歳代の範囲ではほぼ均等な割合であった。歯牙属性の分布をみると4歯種はほぼ均等な割合であった。根管数は3根管が約90%を占めたが、狭窄または彎曲のあり(55.46%)がなし(44.54%)に比べやや多かった。抜髄原因のほとんどがう蝕(80.77%)で、急性症状は「あり」、歯冠崩壊度は「中程度」が約60~65%を占めた。EMRによる根管長測定は大多数の者(94.27%)が実施しているが、X-Pによる根管長測定実施の有無はほぼ同数であり、ラバ―ダムの毎回使用は約17%に過ぎなかった。再麻酔と歯科医師属性、患者属性、重症度、治療内容との関連性を分析した結果、再麻酔は歯牙属性にも関係するが、歯科医師の臨床経験年数との関連性が最も強いことが示された。
結論
平成13年度においては概ねデータ収集ならびに分析を終えた。次年度のデータを加え、解析して得られる結果を基に、咬合の長期的な維持管理に寄与する方策を策定できるものと思われる。かかるデータを国民に提示し、データの共有を行うことは今後の歯科医療の質の向上と情報交換の益となる面をのばし、歯科治療を処置中心から予防・管理に主体をおく「健康マネージメント」へと切り替えしむる道しるべの一端を担うものと確信する。

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