新指標「有効歯根表面積」を用いた定量的相対的評価法による歯の将来残存予測評価法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101180A
報告書区分
総括
研究課題名
新指標「有効歯根表面積」を用いた定量的相対的評価法による歯の将来残存予測評価法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 達夫(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 梅村長生(愛知三の丸病院)
  • 滝沢秀彦(愛知県歯科医師会)
  • 山本龍生(岡山大学歯学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「一生自分の歯で食べられる社会」を実現するため、国民に如何にアプローチしていくかはきわめて重要な問題である。対象者一人一人の歯の状態から、現状のままでの将来予測や、処置した場合の将来予測を提示することは、本人の行動変容を起こすために有効な手段である。本研究は、対象者の年齢、残存歯数、DMFT、アタッチメント・レベル値を代入することによって将来の年齢‐歯数相関をグラフで提示し、将来予測を示すとともに、直近の処置の成果を評価する指標を提供するものである。また、8020達成のための努力目標を個人個人で設定できるのも本研究の大きな特長である。
歯科疾患実態調査を元に年齢‐残存歯数関係と、患者調査を元に歯周疾患の罹患状態、Tylman and Maloneの歯種別解剖学的歯根表面積のデータを利用し、年齢と有効歯根表面積の理論関数を考案し,この関数が患者の実測値とよく一致すること(決定係数:0.91)を平成12年度の研究で確認した。平成13年度は、上記関数の定数(α,γ)の決定を行い、さらに精度を上げるために抜去歯を用いてアタッチメント・レベルと残存歯根表面積を測定し、理論関数の補正を行った。
研究方法
①アタッチメント・レベルの実測データを用いた有効歯根表面積が解剖学的歯根表面積と一致する定点(x0, y0)の決定:外来患者657名(男性281名、女性376名)を対象とした。6点法でアタッチメント・レベルを計測し、平成12年度に行った方法で1人ごとに有効歯根表面積を求めた。さらに、10歳ごとの年齢階級別に平均有効歯根表面積を計算し、直線で近似した。近似式から、有効歯根表面積が解剖学的歯根表面積に一致する点を求めた。この定点はGとmを求めるための連立方程式に代入する。
②加齢に伴う有効歯根表面積の推移を表す式の決定:年齢別の歯の喪失曲線を作成した。次に、作成したグラフに最も当てはまる近似式を求めた。近似式の定数について、その値を増減させて近似曲線の形の変化をみることで定数の意味合いを検討し、定数(α,γ)を求めるための式を決定した。なお、定数の決定にはマイクロソフトエクセル98(マイクロソフト株式会社、東京)を用いた。
③抜去歯のアタッチメント・レベルから各歯種の有効歯根表面積を推定する式の決定:岡山大学大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野に保存している抜去歯のうち、以下の二つの条件を満たす右側上下顎の各歯種別に、それぞれ30本を無作為に選んだ。①歯根が完成し、形態異常がない歯であること。②セメント‐エナメル境が明瞭で、歯根面にう蝕、楔状欠損のない歯であること。平成12年度に決定したmembrane techniqueとコンピューターによる画像解析を組み合わせて、セメント‐エナメル境からそれぞれ0、2、4、6、8、10 mmの均一なアタッチメント・ロスがあった場合の有効歯根表面積を測定した。測定はいずれも3回繰り返し、平均値をとった。各歯種30本のデータを平均し、SPSS 10.0 for Windows(SPSS Japan、 東京)で曲線推定を行った。また、Klockらの方法で、デジタルノギス(Digicaliper、 Mitsutoyo Co.)を用い、歯根長を測定した。
結果と考察
657人の臨床データ数から、有効歯根表面積yと年齢xの回帰直線、y=‐63.2x+8057.6を得た。さらに、yが解剖学的総歯根表面積7616平方ミリメートルとなるときのx、6.99を得た。
疾患別歯牙喪失曲線が上に凸の曲線となることから、関係式1:y =‐(G×αの(x‐m)乗×lnα) / (αの(x‐m)乗 +1)の2乗 (G、m、αは定数)を作成した。関係式1を積分して、Gから引くことで関係式2:y = (G×αの(x‐m)乗) / (1 +αの(x‐m)乗)を得た。関係式2に年齢あたりの歯周組織吸収率γを加味して関係式3:f(x) = {(G×αの(x‐m)乗)(1‐γx)} / (1 +αの(x‐m)乗)を求めた。関係式3に以下の方法で求めた定数α、γを代入し、さらに定点(6.99,7616)と被検者の(年齢,有効歯根表面積)を代入して連立方程式を解くことでGとmを求めることで被検者の有効歯根表面積予測曲線が完成する。
定数αの決定:平成5年歯科疾患実態調査報告のデータと文献から得られた歯種別の解剖学的歯根表面積のデータからαの最低値、中央値、最大値を検討し、それぞれ0.55、0.91、1.00となることがわかった。さらにαを求めるための関係式4:y = 844 / (1 + 0.795の(0.62x‐45.58)乗)の0.48乗、と関係式5:α = 0.364×10の(‐Z / 8.375)乗 + 0.636を求めた。
関係式4のxには歯科健診時の被検者の年齢を代入する。代入して求めたyに対する被検者のM歯数に32.13を乗じたものにDF歯数を加えた数字の比率を関係式5のZに代入する。
γの決定:被検者の残存歯の歯種から得られた解剖学的歯根表面積に対するアタッチメント・レベルのデータから得られた有効歯根表面積の比率を関係式8:β={(0.7-ym)/(0.55ym+0.7)}の(1/xm-x0)乗、のyに代入する。βを式:λ = 0.7×(1×βのx乗) / (1+0.55×βのx乗)、に入れ、得られたγを関係式3に代入する。この結果、有効歯根表面積の予測曲線が完成した。
抜去歯を用いたアタッチメント・レベルから各歯種の有効歯根表面積を推定する式の決定:右側上下顎の各14歯種、各30本の抜去歯を対象とした。平成12年度に決定したmembrane techniqueとコンピューターによる画像解析を組み合わせて、セメント‐エナメル境からそれぞれ0、2、4、6、8、10 mmの均一なアタッチメント・ロスがあった場合の有効歯根表面積を測定した。アタッチメント・ロスから歯単位の有効歯根表面積を求める近似式を統計ソフト(SPSS for Windows)を用いて検討したところ、いずれの歯種も三次式で近似した場合が最も適合することがわかった。実際にこれらの近似式を用いる場合は、個人の健診時に、1歯6点法のアタッチメント・ロス値を歯種ごとに平均し、それを三次式に代入する。各歯種の有効歯根表面積を合計して個人の有効歯根表面積を算出する。
ここ3年間歯周治療のメインテナンスをしてきた症例について理論関数を適用したところ、この患者の有効歯根表面積は8020達成曲線(80歳で上下顎中切歯から第二小臼歯までが残っている者)に近づいていることが判明した。我々の歯周治療の結果、6年間での抜歯数は半減し、治療開始2ヶ月後の動揺歯改善率は85パーセントであり、ブラッシング時の歯肉出血は1ヶ月でほとんど無くなることが明らかになっている。この治療法を受けている患者のデータを理論関数に代入した結果、3年間で8020曲線に漸近していた。このことは、「有効歯根表面積」を用いた歯の将来残存予測評価法の妥当性を証明し、本理論関数が治療効果の評価に応用できることを示唆するものである。
結論
個人の歯の健全度と将来の歯の喪失を予測する「有効歯根表面積」という指標を開発した。平成5年歯科疾患実態調査のデータから有効歯根表面積が加齢とともに直線的に減少するという仮説を設定した。そして、その仮説を実測値により検証し、有効歯根表面積yと年齢xの回帰直線y=-63.2x+8057.6を作った。さらに、yが解剖学的総歯根表面積7616ミリメートルとなるときのx(6.99)を得た。このことから、有効歯根表面積と解剖学的歯根表面積の一致する基準点は(6.99,7616)であることが明らかになった。
次に、年齢ごとの喪失歯数が上に凸の曲線になることより、加齢に伴う解剖学的歯根表面積の推移を表す関数を求めた。その関数に歯周組織喪失量を加味した、加齢に伴う有効歯根表面積の推移を表す式を求めた。この式は歯周組織の状態が改善した症例において、8020曲線に漸近することが確認され、本新指標の有用性が示唆された。

公開日・更新日

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