文献情報
文献番号
200101177A
報告書区分
総括
研究課題名
低・非・抗う蝕性食品の検定評価法の確立とその応用・普及に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
星野 悦郎(新潟大学)
研究分担者(所属機関)
- 石井拓男(東京歯科大学)
- 西沢俊樹(感染症研究所)
- 今井奨(感染症研究所)
- 福島和雄(日本大学松戸)
- 飯島洋一(長崎大学)
- 松久保隆(東京歯科大学)
- 高橋信博(東北大学)
- 兼平孝(北海道大学)
- 渡部茂(明海大学)
- 佐藤(松山)順子(新潟大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、食品のう蝕誘発性の評価法と低・非・抗う蝕性食品の実際の応用のための普及を図る政策的検討を目的としている。その背景として、代用甘味料含有食品をはじめとする多くの種類の「虫歯にならない」を売り物にした食品の市場へ登場と、う蝕と食品との関連に対する消費者の関心の高まりがあり、食品のう蝕誘発能の有無・程度の科学的な評価方法を確立させ、この様な食品による「う蝕予防」の応用とその普及・拡大をはかる。このため、極めて多面的からの検討を必要としている。また、経済活動の国際化により、この様な表示や基準は国際化される必要性をもっており、海外のその分野の専門家との連携も視野に入れる必要が生じている。本研究の成果を実用化することによって、う蝕の軽減を考慮した食品の消費者による適切な選択に必要な基準と科学的な情報の提供が可能とすることができる。
研究方法
本研究では、各研究者の研究成果を持ち寄り相互に多方面から検討し、課題を持ち帰ってさらに研究を進め、研究組織として協議した内容に沿ってさらに研究した結果を再度持ち寄り、さらに検討を重ねる方式をとっている。したがって、研究実施の方法として、各研究機関での実際の研究と、会議による検討が中心となっている。1)食品のう蝕誘発性の評価法の検討:従来のヒト口腔内での測定法と共に、より簡便な、しかし精度の高い in vitro の評価法を検討する目的で、歯垢細菌を被検食品の水溶液存在下で培養し、pH、増殖、代謝産物の変化を評価するシステム人工口腔装置による評価、また、口腔内脱灰再石灰化法による検定を行った。また、これらの評価法には唾液の作用を加味する必要があり、内臓電極法による口腔内唾液の中和作用に与える影響を調べた。2)低・非・抗う蝕性食品に対する消費者の動向調査:低・非・抗う蝕性食品の評価や表示などを検討するためには、食品にラベルされる齲蝕に関する表示に対する意識や表示の理解度などについて調査する必要があるとの昨年度の纏めに対応して、東京、札幌の保育園の父母を対象に、アンケート調査を行ったが、高い関心と正確な情報提供の重要性が示唆された。3)低・非・抗う蝕性食品の評価や表示の一般化・国際化:その評価方法は、適切であると多方面から認められる必要がある。分担研究者のみならず、多彩な研究協力者、食品会社関係者、行政官等との検討、海外での研究者、専門家との議論を行った。4)う蝕病原性に関連する基礎的研究:う蝕病原性の評価法は、上記のように幅広い理解と了解を必要とし、その結果、普及がはかれる。う蝕病原性に関連する基礎的研究は、その説得力として必須のものであり、上記1-3の実際的な検討と平行して実施した。特に、近年、その機能が重要視されるキシリト-ルの酸産生阻害、再石灰化に関わる機構、う蝕リスクに関する研究、唾液作用の口腔内部位差、等について検討した。
結果と考察
1)食品のう蝕誘発性の評価法の検討:従来のう蝕原性の基礎研究結果を踏まえ、食品のう蝕原性評価方法を検討した。う蝕の発生の機構を考慮すると、歯垢の中で細菌が作る酸が極めて重要な要素であることから、また、その酸も直接エナメル質を脱灰している歯垢最深部のエナメル質と接する部分の酸量が重要であると認識されてきた。したがって、内臓電極法による、この部の pH 測定が極めて有効であると考えられてきた。一方、この方法は、測定に適した自発的に参加
する被験者が必要で、試験機関も限られることから、これに代わる有効な評価方法の検討が必要となっていた。近年の実験技術の進歩・進展により、人工口腔による in vitro での評価、口腔内脱灰再石灰化法等の方法の精度が上昇していることが示された。近年は、「抗う蝕性:う蝕を防ぐ」側面を売り物にした食品の出現もあり、その摂取でう蝕誘発性の食品を摂取してもう蝕発生が防止される、と誤解される可能性もあり、その定義を含め、評価方法について検討した。特に、口腔内脱灰再石灰化法では、人工脱灰歯質の食品による再石灰化能を測定することによりう蝕修復作用を評価できる可能性が示され、「抗う蝕性」の表現ではなく、「再石灰化促進」等の表現にすることなどを含め、次年度にさらに検討を続けることとした。2。低・非・抗う蝕性食品に対する消費者の動向調査:低・非・抗う蝕性食品に対する消費者の認識度、理解度が重要であろうという観点から、また、この様な食品を選択し購入する中心的な階層として若い母親層を選択し、その関心を調査・検討するためアンケート調査を実施した。含有甘味料に関する表示(「シュガーレス」「砂糖不使用」など)のある食品に対する関心は、子どもに齲蝕がある父母・ない父母ともに、70%以上が「とても関心がある」「関心がある」、すると回答した。また、齲蝕に関する食品表示で、「マーク」や「ことば」を必要だと思うかという設問に対しては、「両方必要」「マークのみ」「ことばのみ」といういずれかは必要であると回答した父母は、子どもの齲蝕の有無にかかわらず90%以上であった。この「マーク」や「ことば」を「信用している」「少し信用している」父母は80%に近い。本研究における食品のラベルの重要性、特に、情報の正確さと理解しやすい表示の重要性が示された。3)低・非・抗う蝕性食品の評価や表示の一般化・国際化:食品の特定の機能の表示に関しては、その評価方法が適切であると多方面から認められる必要がある。本研究の代表・分担研究者は、う蝕病原性研究、う蝕予防の専門家であり、それぞれ多彩な研究協力者、食品会社関係者、行政官等との検討、海外での研究者、専門家との議論を行った。ごく最近、特に英国を中心として、食品自身が持つ脱灰能(Erosionと表現)、また、低pHの食品が歯にまとわりつくTooth wearの作用の意義を、子供等に食品を与える際の留意点として重要視する動きがある。これらは従来、酸蝕症としてう蝕とは別の観点で考えられてきた事項であるが、食品の歯質脱灰という観点では、低・非・抗う蝕性食品の評価に加味する必要があると思われる。4)う蝕病原性に関連する基礎的研究:近年のう蝕は、従来のような歯冠部平滑面や咬合面ばかりでなく、歯根部の根面う蝕も増えている。この場合、エナメル質の破壊という歯垢細菌の作用ばかりでなく、最初から象牙質う蝕として進行うるため、象牙質う蝕内の細菌作用についても考慮する必要がある。象牙細管内に侵入する細菌群は付着性を必ずしも必要としないが、その細菌種は基本的に歯垢構成細菌と同様であることが示され、歯垢細菌を試験菌とする事の適切さが示された。近年、その機能が重要視されるキシリト-ルに関しては、従来から知られていたグルコース代謝阻害に加え、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトースの代謝を阻害する事が明らかになった。しかし、フルクトースの代謝は阻害されなかった。キシリトールによって糖代謝阻害が起こる場合、キシリトール5-リン酸が菌体内に蓄積している事が示された。また、キシリトールの再石灰化促進作用が、リカルデントと共に評価しうることが示された。個人的な要素が多い唾液の機能については、食品摂取に伴って分泌され、食品による口腔内pHの中和に重要であり、この作用によって、食品のう蝕病原性の実際の口腔内での閾値は下がるとおもわれる。これに関連して、食品による酸性pHの唾液によるクリアランスを検討し、部位特異性による影響を認めた。なお、口腔内のう蝕原因菌レベルを従来法より的確に評価可能な培養技法及びサンドイッチELISA技法を確立することに成功
している。
する被験者が必要で、試験機関も限られることから、これに代わる有効な評価方法の検討が必要となっていた。近年の実験技術の進歩・進展により、人工口腔による in vitro での評価、口腔内脱灰再石灰化法等の方法の精度が上昇していることが示された。近年は、「抗う蝕性:う蝕を防ぐ」側面を売り物にした食品の出現もあり、その摂取でう蝕誘発性の食品を摂取してもう蝕発生が防止される、と誤解される可能性もあり、その定義を含め、評価方法について検討した。特に、口腔内脱灰再石灰化法では、人工脱灰歯質の食品による再石灰化能を測定することによりう蝕修復作用を評価できる可能性が示され、「抗う蝕性」の表現ではなく、「再石灰化促進」等の表現にすることなどを含め、次年度にさらに検討を続けることとした。2。低・非・抗う蝕性食品に対する消費者の動向調査:低・非・抗う蝕性食品に対する消費者の認識度、理解度が重要であろうという観点から、また、この様な食品を選択し購入する中心的な階層として若い母親層を選択し、その関心を調査・検討するためアンケート調査を実施した。含有甘味料に関する表示(「シュガーレス」「砂糖不使用」など)のある食品に対する関心は、子どもに齲蝕がある父母・ない父母ともに、70%以上が「とても関心がある」「関心がある」、すると回答した。また、齲蝕に関する食品表示で、「マーク」や「ことば」を必要だと思うかという設問に対しては、「両方必要」「マークのみ」「ことばのみ」といういずれかは必要であると回答した父母は、子どもの齲蝕の有無にかかわらず90%以上であった。この「マーク」や「ことば」を「信用している」「少し信用している」父母は80%に近い。本研究における食品のラベルの重要性、特に、情報の正確さと理解しやすい表示の重要性が示された。3)低・非・抗う蝕性食品の評価や表示の一般化・国際化:食品の特定の機能の表示に関しては、その評価方法が適切であると多方面から認められる必要がある。本研究の代表・分担研究者は、う蝕病原性研究、う蝕予防の専門家であり、それぞれ多彩な研究協力者、食品会社関係者、行政官等との検討、海外での研究者、専門家との議論を行った。ごく最近、特に英国を中心として、食品自身が持つ脱灰能(Erosionと表現)、また、低pHの食品が歯にまとわりつくTooth wearの作用の意義を、子供等に食品を与える際の留意点として重要視する動きがある。これらは従来、酸蝕症としてう蝕とは別の観点で考えられてきた事項であるが、食品の歯質脱灰という観点では、低・非・抗う蝕性食品の評価に加味する必要があると思われる。4)う蝕病原性に関連する基礎的研究:近年のう蝕は、従来のような歯冠部平滑面や咬合面ばかりでなく、歯根部の根面う蝕も増えている。この場合、エナメル質の破壊という歯垢細菌の作用ばかりでなく、最初から象牙質う蝕として進行うるため、象牙質う蝕内の細菌作用についても考慮する必要がある。象牙細管内に侵入する細菌群は付着性を必ずしも必要としないが、その細菌種は基本的に歯垢構成細菌と同様であることが示され、歯垢細菌を試験菌とする事の適切さが示された。近年、その機能が重要視されるキシリト-ルに関しては、従来から知られていたグルコース代謝阻害に加え、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトースの代謝を阻害する事が明らかになった。しかし、フルクトースの代謝は阻害されなかった。キシリトールによって糖代謝阻害が起こる場合、キシリトール5-リン酸が菌体内に蓄積している事が示された。また、キシリトールの再石灰化促進作用が、リカルデントと共に評価しうることが示された。個人的な要素が多い唾液の機能については、食品摂取に伴って分泌され、食品による口腔内pHの中和に重要であり、この作用によって、食品のう蝕病原性の実際の口腔内での閾値は下がるとおもわれる。これに関連して、食品による酸性pHの唾液によるクリアランスを検討し、部位特異性による影響を認めた。なお、口腔内のう蝕原因菌レベルを従来法より的確に評価可能な培養技法及びサンドイッチELISA技法を確立することに成功
している。
結論
う蝕誘発性の評価法として、内臓電極法は、従来、きわめて有用であるとされてきたが、分担研究の結果、これに加えて、人工口腔装置によるin vitroの系、また、口腔内脱灰再石灰化法が有効な評価法として認定しうる基礎データが得られた。次年度以後もどの様な評価にその様な方法を用いるか、その表示の表現等を含め、さらに検討する必要がある。特に、抗う蝕性食品(う蝕を防ぐ、という表現)については「その食品を摂取していれば(その他のう蝕誘発性の高い食品を摂取しても)う蝕に罹らない」という風に誤解されない表現が必要であり、「再石灰化促進作用」とか「う蝕修復作用」、「酸産生抑制」など、具体的な機能の表現にする、等の議論がなされ、また、低・非・抗う蝕性食品の評価方法は、関連する分野の関係者に広く適切であると認められる必要があり、そのため多彩な研究協力者、食品会社関係者、行政官等との検討、海外での研究者、専門家との議論が必要であること、また、これらの事項は国際化が必要であること、等が議論され、認識された。
公開日・更新日
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