歯周疾患の予防、治療技術の評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101176A
報告書区分
総括
研究課題名
歯周疾患の予防、治療技術の評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
鴨井 久一(日本歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 桐村和子(日本歯科大学)
  • 米満正美(岩手医科大学)
  • 石井拓男(東京歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歯科保健医療のなかで歯周疾患の予防、治療技術の開発は、8020運動と連動して歯周組織の保全・維持に重要である。本研究は、昨年度の継続研究として唾液に注目し、唾液および血液中の酵素活性、口腔内パラメーター、アンケート調査、歯周疾患関連細菌の測定などを行うものである。ついで、これらの結果と歯周組織との関連性を調査し、歯周疾患の診断・治療および予防、並びに歯周組織の維持管理を効率的に行う方法を検討することを目的としている。
研究方法
インフォームドコンセントの得られた学生、定期企業健診受診者および病院の来院患者を対象に、口腔診査、唾液の生化学・細菌検査、血液生化学検査(一部対象者)およびアンケート調査を実施した。唾液と血液の採取は食後1~2時間後に行った。唾液については、パラフィンブロック(1 g)を5分間噛ませ、流出した刺激唾液を試料とした。生化学検査は、GOT(AST)、GPT(ALT)、LDH、ALP、遊離ヘモグロビンおよびN-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)について行った。一部対象者については Epidermal Growth Factor(EGF)を定量した。来院患者については、血液検査として上記生化学検査のほか、遺伝子多型の検索も行った。細菌検査は、定量PCR法にてActinobacillus actinomycetemcomitans(A.a)、Porphyromonas gingivalis(P.g)、Prevotella intermedia(P.i)および Bacteroides forsythus(B.f)の検出を試みた。口腔内パラメーターはPlI、GI、Probing Depth(PD)、BOPおよびCAL(一部対象者)を計測した。アンケート調査は、主に口腔衛生習慣を中心に行った。以上の調査については前年度と同様に、3つの研究グループ(基準値設定グループ、歯肉炎グループ、歯周疾患グループ)が分担した。さらに、歯周疾患の経済的評価に関する研究を経済評価グループが実施した。
結果と考察
本年度、各研究グループにおいて得られた結果と考察は以下の通りである。
1.基準値設定グループ:企業健診受診者男女395名(平均年齢39.4歳)に対して口腔診査を実施した結果、歯周ポケットを有さない者(正常群)は206名、4mm以上のポケット部位が全診査部位の10%未満の者(軽度群)は142名、10%以上の者(重度群)は47名であった。
各群における唾液生化学検査の結果を比較したところ、有意差が認められたのはLDHで、重度群で最も高値であった。また重度群のALP、GOTおよび遊離ヘモグロビンの平均値は他群に比べ高かったが、重度群における測定値のばらつきが極めて大きかったことから、有意差はなかった。今後さらに症例数を増やして検討する予定であるが、成人における唾液基準値としてLDH活性は300~400U/l、遊離ヘモグロビン値は0.4mg/dl付近に設定できる可能性が示唆された。さらに、1年間の追跡調査の結果から、LDH、NAG、GOT、GPT活性は歯周組織の炎症の広がりと重症度を評価するGIと関連することが示された。したがって、LDHのほかにこれらの酵素も歯周疾患診断のための検査項目として応用できる可能性が示唆された。歯周疾患関連細菌の検出率は、次の通りであった。A.a の検出率は中学生が最も高く(90.83%)、高校生(63.81%)と成人(66.06%)は同程度であった。P.g の検出率は成人が最も高く(66.97%)、中学生(22.94%)と高校生(11.43%)は低かった。成人におけるP.i とB.f の検出率はそれぞれ79.82%と100%であった。成人対象者のうち、口腔診査結果が得られた61名についてこれらの細菌の検出状況と歯周組織の状態との関連を検討した。その結果、P.g、P.i およびB.f は正常群と軽度群に比べ重度群において、平均菌数および総菌数に占める割合ともに多かった。これに対して、A.a 数は重度群で最も少なかった。以上の結果から、A.a を除く3菌種は歯周疾患診断における細菌検査の対象として重要であると考えられた。本年度新たに測定した唾液EGF濃度については、LDH活性と相関していることが示されたことから、EGFは歯周組織の状態と関連しているものと推測された。
2.歯肉炎グループ:歯肉炎患者男女77名(平均年齢23.5歳)について、治療後(治療4週間、メインテナンス4週間後)における口腔診査の結果と唾液検査結果を比較した。口腔診査の結果、PlI、GI、BOP値は治療後に有意に低下した。唾液検査値はGPT、LDH4、NAGにおいては治療後に有意に低下し、尿酸、LDH1は治療後に有意に上昇した。また、A.a 数は治療後に有意に減少し、P.i 数は治療後に有意に増加した。さらに、口腔診査結果と口腔の自覚症状との関連については、治療前の「BOPと口臭の自覚」、治療後の「GIと歯の動揺の自覚」および「GIと口臭の自覚」の間に認められた。以上のことから、上記酵素は歯肉炎マーカーとなりうることが示された。また、A.a も歯肉炎と関連するものと考えられた。
3.歯周疾患グループ:現在まで、協力の得られた患者数は108名であり、このうち初期基本治療を終了した者は12名、歯周外科手術終了者は5名である。他の者については治療が進行中である。中等度・重度成人性歯周炎患者に対して歯周基本治療を行い、以下の結果が得られた。①終了時では口腔内パラメーターが有意に低下した。②同様に、唾液中のLDHおよびALP活性が有意に低下した。③細菌検査では、P.g 数、B.f 数は減少傾向に、P.i 数は治療後一過性に上昇後、減少に転じた。A.a 数は治療前後でほぼ同値であった。④遺伝子多型(末梢血)については、現時点では一定の結論が得られておらず、さらに検 討を行っているところである。以上のことから、唾液の生化学および細菌検査は、歯周疾患の治療効果のモニタリングに有用であることが示唆された。
4.医療経済評価グループ:全国市町村の年齢階級別国民健康保険歯科医療費と老人保健事業における歯の健康教育・健康相談事業の関係を調べたところ、「健康教育・相談率」は1日あたりの診療費にはほとんど影響を与えず、歯科医療費の構造を変える原因とはならないことが示唆された。
結論
LDH等の唾液中生化学成分は、炎症マーカーとして歯周疾患発症の診断に有用と考えられた。また歯周疾患の継続管理(SRT)を行う際には健常群値との比較を行うことで管理方法を選択することが可能となることが示された。そして、基準値としてはLDH活性 300~400 U/l、遊離ヘモグロビン値0.4 mg/dl付近を設定できる可能性が見いだされた。
また、歯周疾患関連細菌ではP.g、Pi、B.f などに焦点があてられ、A.aは慢性歯周炎というより特異的な侵襲性歯周炎の病原性細菌と考えるのが妥当と推察された。

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