高血圧の予防診療法の医療技術評価研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101174A
報告書区分
総括
研究課題名
高血圧の予防診療法の医療技術評価研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 猿田享男(慶應義塾大学医学部長)
  • 斎藤郁夫(慶應義塾大学保健管理センター教授)
  • 今井潤(東北大学医学部教授)
  • 田中繁道(手稲渓仁会病院副院長)
  • 鈴木一夫(秋田県立脳血管研究センター疫学研究部長)
  • 上島弘嗣(滋賀医科大学福祉保健医学講座教授)
  • 馬場俊六(国立循環器病センター集団検診部医長)
  • 坂巻弘之(慶應義塾大学助手)
  • 大野ゆう子(大阪大学教授)
  • 堀 容子(国立医療・病院管理研究所 医療政策研究部協力研究員)
  • 松本邦愛(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部協力研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高血圧の合併症である脳卒中や虚血性心疾患、さらには腎不全等の疾病管理を、それに関連する糖尿病、高脂血症、肥満、ストレスや種々のライフスタイル関連で捉え、最も効果が高く効率の良い予防及び診療の技術を同定するための医療技術評価を行うことを目的とする。今日、循環器疾患は金銭面においても障害面においても最も日本国民の大きい疾患であり、高血圧はその中でもこれら関連疾患の核となる疾患である。高血圧の診療のみでも多量の医療費が費やされている一方、これまでの研究で脳卒中患者の30-50%は高血圧治療中から発生している。この研究により高血圧並びに高血圧関連疾患の最適な予防診療法が判明し、全体としての医療費の削減と診療効果の向上がもたらされることを目指したい。
研究方法
1)数学モデルの確立-システムダイナミクスモデル、マルコフモデル、ゲームモデル、生態学的モデルによる高血圧病態モデルを開発し、その評価を行った。(1)マルコフモデル-次の手順でモデルを作成し、シュミレーションを行った。①インフルエンスダイアグラムを作成して、高血圧管理に関する諸要因を整理②モデルの概念に該当するようにインフルエンスダイアグラムを基に推移図を作成③移項確率行列を使用して、シュミレーションモデルを作成。(2)システムダイナミクスモデル-療需要別患者推計モデルと疾患別患者数推定モデルの2つのモデルを作成し、シュミレーションを行った。前者は脳血管疾患についての医療需要別に患者数を推計することを目的とし、後者は疾患別(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、その他)医療需要量を推計することを目的とした。特に、統計値として報告されていない部分のパラメーターについては、医療需要別に移項確率を変化させる感度分析を行った。(3)ゲームモデル-健康結果には、肺炎、がん、自殺、心疾患、不慮の事故、脳血管疾患、その他の7つの死因を用いた。次のの手順でモデルを作成し、シュミレーションを行った。①平均移行確率の算出②ステップ1(介入前)各疾患ごとの平均リスク係数の算出と状態移行③ステップ2(介入後)各疾患ごとの平均リスク係数の算出と状態移行2)学際的アプローチによる技術評価1)官庁統計のメタ分析-日本高血圧学会は高血圧の診断基準を160/95mmHgから140/90mmHgに引き下げた。これによるインパクトを明らかにすることと、我が国の高血圧治療の現状を推測することを目的としてメタ分析をした。2)ライフコースアプローチ-高校在学中の身体測定のデータと現在の健康状態との関連を検討することを目的として、昭和25~昭和50年度に慶應義塾高校を卒業した約20,800名を対象に、後ろ向きコホートを設定した。3)地域住民を対象とした運動療法プログラムの構築-秋田県河辺町での集団検診受診者を対象に、運動量の増加と血圧低下の関係を観察することを目的として運動療法プログラムを構築した。同時に、家庭血圧計や歩数計がどれだけ普及しているかアンケート調査を行なった。4)非薬物療法の文献レビュー-JNCⅥや日本高血圧治療ガイドラインには「生活習慣の修正」として食塩制限、適正体重の維持、アルコール制限、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取
をの制限、運動療法、禁煙の6項目が記載されている。これらの項目について文献レビューをし、非薬物療法のシステム作成への提案をした。
結果と考察
1.数学モデルの確立1)マルコフモデル-このモデルの意義深い点はモデルを3つに区分したことで、公衆衛生学的な予防による帰結の変化をシュミレーションすることを可能としたことである。政策決定や意思決定において重要な役割を果たすと考えられるが、問題点もあり今後、データの精緻化を測りながら、さらに汎用性の高いモデル作成を行うことが重要と考えられた。2)システムダイナミクスモデル-このモデルは、パラメーターの時代推移、新しいサブシステムのモデル導入をすることで、今後、需要・供給予測、医療費予測、評価へと幅広く活用することができる。疾患別患者数推定モデルは、脳血管疾患を4つに分類したため、移項確率の設定が困難であり、モデルの有効性については検討中である。3)ゲームモデル-シュミレーションの結果、ハイリスクアプローチよりポピュレーションアプローチの方が、同じ費用で発症率や死亡率を若干減少させることが示された。特定の疾患に対する介入は、他の病気による代替が生じるため、全体としての介入効果は半減する。2.疾病及び合併症の把握1)官庁統計のメタ分析-高血圧診断基準の引き下げによるインパクトは、旧分類による高血圧者は約2530万人、新分類では約4700万人であった。これは、30歳以上人口のそれぞれ30%と58%であり、新基準による影響が大きいことが明らかとなった。旧分類による高血圧の治療状況を検討したところ、6280万人が診断されておらず、過去に高血圧と診断された人のうちコントロール不良者は600万人であった。旧基準においての診断や治療方法についての問題点が示唆された。2)ライフコースアプローチ-対象者には、現在の健康状態を把握するための自記式アンケートならびに調査に対する同意書を郵送法で行った。同時に、同窓生の安否を把握するための調査も行った。今後、アンケートの回収、データベース化、解析を行う予定である。3.学際的アプローチによる技術評価1)非薬物療法の文献レビュー-非薬物療法について、短期間の効果は報告されているが、長期間の効果は報告されていない。また、指導を受けても実行をする人は少ない、生活習慣の修正によりQOLが低下したなどの報告もあり、問題点も多い。非薬物療法を継続させるには、患者のライフスタイルを把握する必要があり、集団アプローチに加え、個別的なアプローチも必要であると思われる。2)高血圧患者の血圧コントロール状況-職域:1999年の定期健診受診率は、男性67.8%、女性82.1%であり、男性の方が受診率は低かった。降圧剤服用率は、男性8.6%、女性1.9%であった。血圧値が140/90mmHg以上で降圧剤を服用していないものを未治療と定義すると、未治療率は男性13.7%、女性4.2%であり、男性の未治療率の方が高かった。男性の方が女性に比べて健康に対する意識が低いように思われる。職域での定期健診を利用することで、高血圧、正常高値を発見し、適切な介入を図ることが可能と思われる。外来通院患者:1998年から2000年にかけて、降圧剤の非投薬は減少傾向を示した。
結論
疾病管理は医療システムの質と効率を向上させるに有用な国際的にも注目されている手法であり、数学モデルは疾病管理をするための手段として有用であることが確認された。今回、開発した数学モデルは、医療政策や意思決定等に利用可能であることがわかり、公衆衛生学的意義の大きいことが明らかとなった。今後、数学モデルの妥当性を検討したうえで、応用的な研究を試みる予定である。

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