E-PASS scoring systemを用いた外科治療水準の評価と外科入院治療費の予測

文献情報

文献番号
200101173A
報告書区分
総括
研究課題名
E-PASS scoring systemを用いた外科治療水準の評価と外科入院治療費の予測
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
芳賀 克夫(国立熊本病院)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内仁司(国立岩国病院)
  • 木村 修(国立米子病院)
  • 和田康雄(国立姫路病院)
  • 古谷卓三(国立下関病院)
  • 石川正志(国立高知病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
外科手術後に発生する肺炎、縫合不全、腸閉塞などの合併症は、患者に苦痛を与えるだけでなく、多大な医療費の支出をもたらす。我々は過去の外科手術症例を多変量解析し、手術後のリスクを予測するscoring systemを開発した(Estimation of Physiologic Ability and Surgical Stress: E-PASS)。E-PASSは患者の生理機能を表す術前リスクスコア(PRS)、手術の大きさを表す手術侵襲スコア(SSS)および両者から規定される総合リスクスコア(CRS)から成る。E-PASS は特別な検査を要さず、すべての消化器外科手術に適用できる。その後の検討で、CRSが増加すると術後合併症の発生率および在院死亡率が上昇することが判明した。現在、我が国では医療費の包括支払い方式(DRG/PPS)の導入が検討されているが、同支払い方式では合併症が起こりそうなhigh risk患者が医療機関から敬遠され、これらの患者が手術を受ける機会を失う可能性も考えられる。今回我々は、E-PASSを用いて外科患者のリスクを予測し、そのリスクに応じた医療費の包括支払い方式(Risk-Based Payment System: RBPS)が可能であるか検討した。
研究方法
当研究班に所属している6施設で行った予定消化器外科手術症例929例について、E-PASSの各スコア、術後経過、入院治療費、術後在院日数をprospectiveに調査した。E-PASS の各スコアは以下の通である。1. PRS=-0.0686+0.00345X1+0.323X2+0.205X3+0.153X4+0.148X5+0.0666X6, X1:年齢; X2:重症心疾患有り(1)、無し(0); X3:重症肺疾患有り(1)、無し(0); X4:糖尿病有り(1)、無し(0); X5:Performance status(0-4); X6:ASA麻酔リスク(1-5), 2. SSS=-0.342+0.0139X1+0.0392X2+0.352X3, X1:体重当たりの出血量 (g/Kg); X2:手術時間 (hr); X3:手術切開創の範囲(0:胸腔鏡創または腹腔鏡創のみ; 1:開胸あるいは開腹のいずれか一方のみ; 2:開胸および開腹), 3. CRS=-0.328+0.936(PRS)+0.976(SSS)。術後合併症の重症度は我々が提唱した分類に基づき、5段階に分類した(0:合併症なし、1:生命に危険を与えない軽症の合併症、2:適切な治療を行わなければ、生命に危険を及ぼす合併症、3:重篤な臓器不全症、4:在院死例)。CRSと術後合併症の重症度、術後在院日数、入院治療費との相関関係を、Spearmanの順位相関係数で求め、有意差をSpearman's rank sum test で検定した。また、独立3群間の入院治療費の差は、Kruskal-Wallis testで検定した。予測治療費(PME)は、過去の症例の線形回帰式から、以下の如く求めた。PRE=126+167×(CRS)。
結果と考察
CRSと術後合併症の関係を対象の全症例で検討すると、CRSが増加するに従い、術後合併症の発生率はほぼ直線的に増加した。在院死亡率は、CRS<0.3で0.15%、CRS(0.3-<0.5)で2.3%、CRS(0.5-<1.0)で9.5%、CRS1.0以上で29.2%であった。CRSは術後合併症の重症度(Rs=0.537,N=929,P<0.0001)、術後在院日数(Rs=0.664,N=813,P<0.0001)および入院治療費(Rs=0.721,N=813,P<0.0001)と有意な正の相関を示した 。また、予測入院治療費は実入院治療費と有意な正の相関を示した(Rs=0.721,N=813,P<0.0001)。全症例での予測入院治療費の誤差は7%であった。また、予測治療費の2倍以上の入院治療費を要した症例は、全症例の1.8%に過ぎなかった。次に、PRSと入院治療費との関係を検討した。胃癌開腹幽門側胃切除に於いて、PRSが増加するにつれ入院治療費も増加し、その平均値はPRS<0.3で133万円、PRS(0.3-<0.5)で141万円、PRS0.5以上で200万円であった(P=0.0018)。結腸癌の開腹結腸切除に於いても、PRSが増加するほど入院治療費が増加し、
その平均値はPRS<0.3で122万円、PRS(0.3-<0.5)で148万円、PRS0.5以上で169万円であった(P=0.0088)。さらに、全手術症例でPRSは入院治療費と有意な正の相関を示した(Rs=0.319,N=813,P<0.0001)。次に、胃癌開腹幽門側胃切除症例で、患者の重症度に係らず一律に142万円が支払われるDRG/PPSと、PRSが0.5未満では132万円、0.5以上では190万円が支払れるRBPSとが参加6病院(A,B,C,D,E,F)の収支に及ぼす影響を検討した。開腹幽門側胃切除で、平均治療費は病院ごとに99万円から167万円まで病院により大きな格差があることが判明した。最も治療費が低かったC病院は、急性期特定病院で、殆どの外科手術にクリニカルパスを採用している。この病院ではDRG/PPSが施行されたときは、1例当り43万円の黒字が見込まれる。一方、平均治療費が高いA、B病院では、各々一例当り25万円と22万円の赤字になる。次に、患者の重症度を加味したRBPSでは、重症患者を多く扱うA、B病院はDRG/PPSと比べ赤字が縮小し、C病院は黒字が拡大した。一方、軽症患者を多く扱うD病院は黒字が縮小し、E、F病院は赤字が拡大した。開腹結腸切除術でも同様の傾向がみられた。以上より、RBPSはDRG/PPSと比べ、high risk患者を多く扱う施設の収支を改善することが予測された。
結論
患者のリスクに応じた支払額を設定するRBPSは、医療費の削減を計ると同時に医療の平等性を保障する支払い制度と考えられる。

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