健康要因としての睡眠と休養の役割と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101050A
報告書区分
総括
研究課題名
健康要因としての睡眠と休養の役割と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
前原 直樹(財団法人労働科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木司((財)労働科学研究所)
  • 関由起子((財)労働科学研究所)
  • 小泉智恵(協力研究者;(財)長寿科学振興財団リサーチレジデント)
  • 小松英海(協力研究者;(財)長寿科学振興財団リサーチレジデント)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、生活習慣の中では従来あまり重視されてこなかった睡眠と休養に焦点をあて、疲労やストレスの発現と回復・解消、さらには循環器疾患やうつ病などの疾患の発症や増悪に果たす睡眠と休養の役割を健康の阻害要因と生成要因の両側面から検討し、睡眠環境などの諸条件の改善と余暇生活の支援策によりそれらの効果を評価することを目的とした。本研究は、長時間労働や過密労働が問題視され、国民の多くが疲労やストレスを訴える現状にあって、現代のわが国の典型的労働態様である長時間労働や裁量労働を行っているホワイトカラーと夜勤・交代制をとっている看護職員や製造業労働者を対象者として、睡眠と休養の役割と評価法について検討する3カ年計画の初年度である。このため、1年目の今年度は、職場を含めた生活の諸条件と睡眠感、休養感や健康状態などの個人要因との関係で睡眠と休養の実態把握を企図した。
研究方法
本研究の全体プランと今年度の個別調査に関しての詳細については労働科学研究所内に設置されている「調査研究に関する倫理委員会」の審査を受けた。また、生活時間調査では、対象者には調査目的とプライバシーの配慮を文書などで説明・理解を求め、特に生理指標を測定する対象者には目的と測定項目及び結果の表示の仕方を十分に説明した上で同意を得て、調査が実施された。
1. 健康アンケート調査
出版関連業種の約1300事業所の全被保険者約70,000人の中から無作為に抽出を行った約20,000人に対し、60項目からなるアンケート用紙を配布し、無記名で記入してもらい、郵送あるいは事業所経由で回収した。調査内容は、最近の職場の変化、働き方とその健康影響、健康管理のための生活習慣、生活意識、睡眠と休養などから構成された。約8000人から回答が得られ、回収率は約40%であった。
2. 生活時間調査
1)情報通信関連労働者
対象者は情報通信関連企業に勤める33~54歳の6名(システムエンジニアとプロジェクトマネージャーの各3名)であった。睡眠、食事、飲酒、移動、仕事(職場内でIT労働、職場外でIT労働、職場内でマニュアル労働、職場外でマニュアル労働)、趣味・娯楽(屋内でPCを用いた娯楽、屋内でPCを用いない娯楽、屋外の娯楽)など15項目からなる調査票にて、これらの項目の有無を1マス15分の精度でチェックを求めると共に就寝前の「疲れの様子」を4段階で評定を求めた。調査日数は延べ212日(6名の平均35.3日)であり、1ヶ月を越えた。そのうち、労働日は延べ142日(平均23.7日)、休日は延べ70日(平均12.0日)であった。今回の解析は延べ116日(6名の平均19.3日)の労働日を対象とした。
2) 夜勤・交代制勤務の看護職員
中・大規模の4病院を対象として選定した。対象者は、20歳代~30歳代前半までの、初心クラスと主任クラスを除く看護職員で、未就学児を有している看護職員も含め、37名の看護職員である。主に12時間勤務制の病棟を調査対象としたが、比較として8時間3交代勤務制の病棟も対象とした。共に一般病棟であった。勤務パターンは「日勤-日勤-夜勤(12時間)-休日」を基本とし、夜勤前の勤務間隔時間を約24時間とするように日程を作り出した。8時間勤務制の病院の場合も深夜勤務開始までの勤務間隔時間が約24時間となるように「深夜勤」を前日に配置し、さらに8時間勤務制で多く見られる正循環としたために、「日勤-深夜勤-深夜勤-休日」のパターンとした。また、調査開始前日は休日とし、調査6日目は各病院の通常のパターンを基本とする1勤務サイクル6日としてデザインされた。生体影響の測定項目は、尿中17-Ketosteroid Sulfates (17-KS-S)と17-Hydroxycortico steroids(17-OHCS)を主とし、この両者の動的平衡17-KS-S /17-OHCSにより健康水準の評価を行った。身体活動量も生活時間記録とともに全期間にわたり測定記録した。解析は、夜勤に入る前の生活調整の様子とその判定を「前効果」として行うとともに、夜勤明け日から翌日の休日にかけての生活調整の様相を「後効果」として評価した。
結果と考察
1. 健康アンケート調査
一日の平均睡眠時間帯は6時間未満が最も多く、男女とも半数近くを占めていた。約半数の人は日頃から睡眠不足を感じていた。月平均残業時間が長くなるほど睡眠時間は減少し、5時間未満や5-6時間に分布が集中していた。同様な傾向は休日出勤や持ち帰り仕事が多い場合にも認められた。月平均休日出勤日数、持ち帰り仕事の頻度は多くない一方で年次有給休暇の消化率も高くはなかった。男女とも約半数の人は翌日以降に疲労が回復せずに残っている状態であった。睡眠時間と健康水準の関係は逆J字型を示しており、残業時間が長い場合、睡眠時間を多く取っても健康水準は低下する傾向が見られた。また、多忙感を呈して人は睡眠時間が短く、睡眠不足や休養不足の傾向が見られた。
2. 生活時間調査
1)情報通信関連労働者
職場内労働の内訳は約9割がIT労働であり、マニュアル労働は1割のみであった。労働日で「全く疲れていない」日は4%、「あまり疲れていない」日は45%、「比較的疲れた」日は44%、「非常に疲れた」日は7%であった。疲労感の訴え強い程1日の労働時間は長く、また、どの疲労水準においても職場内のIT労働時間が最も長かった。各疲労感ともに「職場外マニュアル労働」の相対頻度が最も高い時刻帯は正午-夕方の時刻であった。
情報技術労働者の疲れの程度は、労働時間の長さに依存していたこと、「全く疲れていない」日はマニュアル労働がなかった日であったこと、「非常に疲れた」日の職場外で行うIT労働が長かったこと、が特徴として挙げられた。したがって、職場内での約9割がIT労働である当該労働者にとって、日常のIT業務に加えて職場内の会議、顧客対応などのマニュアル労働が疲労の増強因子となっていることが考えられた。職場外のマニュアル労働は、疲労の程度にかかわらず日中に行われる傾向があった。一方、職場外のIT労働が日中に行われる場合疲労の程度は小さいが、夕方から深夜にかけて行われている場合、疲労の程度は大きいことが特徴的であった。「非常に疲れた」日には労働者は早い時刻帯から就寝して疲労を回復させようとすること、そのため「非常に疲れた」日の睡眠時間が長くなること、さらに「非常に疲れた」日の当日の起床時刻が早いこと、も特徴であった。
2) 夜勤・交代制勤務の看護職員
8時間3交代制の場合には、日勤に引き続く深夜勤および連続深夜勤の心身影響は大きかった。また、長時間夜勤制を採用する場合には、十分な仮眠時間の挿入が必要となることも判明した。12時間夜勤の場合には、夜勤中に仮眠をとらずに勤務し、その後の「夜勤明け日から休日」にかけての睡眠時間が不十分な場合には、疲労回復がされないまま次の勤務サイクルに入ることが推定される成績が得られた。12時間夜勤の場合、1勤務サイクル内での疲労を残さずに次の勤務に入るためには、夜勤中の仮眠時間としては60分以上が必要となるという結果であったが、この場合でも慢性的疲労を生じさせないためには、夜勤明け日の翌日は休日の配置とする必要があった。その際、夜勤明け日から休日にかけての睡眠時間は、夜勤終了から休日の翌朝起床時までの40~45%程度を確保することが望ましいという成績であった。未就学児をもった看護職員で夜勤明け日に引き続き連続休日が必要となり、家庭での睡眠時間の確保にも留意が必要という結果であった。
結論
アンケート結果では、睡眠時間と健康水準の関係は逆J字型を示しており、残業時間が長い場合、眠時間を多く取っても健康水準は低下する傾向が見られた。また、多忙感を呈している人は睡眠時間が短く、睡眠不足や休養不足の傾向が見られた。生活時間記録によると、職場内労働が約9割を占める情報通信関連労働者の疲労は、労働時間の延長によって増強され、とりわけ生活場面でのIT労働が強く影響していることが示唆された。疲労感の増大が生じると、労働者はいつもよりも早く就寝し、かつ長時間の睡眠がとられることも明らかになった。また起床時刻が早い場合も疲労の増強因子となることがうかがえた。一方、夜勤交代制の看護職員の調査からは、夜勤途中の休憩時間の確保、とりわけ仮眠の挿入が慢性的な疲労を生じさせないためには必要となる結果が示された。特に長時間夜勤制においては十分な仮眠時間の挿入が必要となることが判明した。未就学児をもつ看護婦では、夜勤明け日に引き続き連続休日が必要となり、家庭での睡眠時間の確保にも留意が必要であった。

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