「健康日本21」における栄養・食生活プログラムの評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
200101046A
報告書区分
総括
研究課題名
「健康日本21」における栄養・食生活プログラムの評価手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
田中 平三(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 佐々木敏(国立がんセンター研究支所)
  • 梅垣敬三(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 伊達ちぐさ(大阪市立大学医学部公衆衛生学)
  • 松村康弘(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 吉池信男(独立行政法人国立健康・栄養研究所)
  • 中村美詠子(浜松医科大学衛生学教室)
  • 石田裕美(女子栄養大学栄養管理研究室)
  • 中村雅一(大阪府立健康科学センター脂質基準分析室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
51,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「健康日本21」における栄養・食生活プログラムを国あるいは地域レベルで推進する際に、個人及び集団での栄養素等摂取状況や栄養状態を適正な手法を用いて評価することは、科学的な根拠に基づく保健政策上きわめて重要である。しかし、わが国においては、公衆衛生的な視点と結びついた実践栄養学的研究は極めて少ない。そして、現場で使用されている各種質問票も科学的検証がなされたものはほとんど無く、保健所や市町村の栄養士等からは、個人及び集団に対する栄養診断のための有用なツールを望む声が大きい。
そこで、このような行政上のニーズに応えることを明確なゴールとして、地域保健現場等で必要とされる各種ツールを科学的な根拠に基づいて開発し、有用性を検証し、提供することを本研究課題の目的とする。
研究方法
(1)食事摂取及び栄養状態を表す各種生体指標の検討:①ビタミンCに関して、その生体内レベルの評価対象試料の選定とその妥当性に関する基礎的検討、実地応用の可能性に関する検討を行った。葉酸に関しては、クロラムフェニコール耐性菌とマイクロプレートを利用したバイオアッセイ法を立ち上げ、生体内葉酸レベルの評価に妥当な生体試料の選定や試料採取後の葉酸の安定性等に関する実験の準備を行った。②新潟県民栄養調査においては、平成13年に3740名を対象として栄養摂取状況調査を実施し、この内879名が血液検査を受診した。本研究では、これらの対象者の血中葉酸と食物摂取状況(葉酸摂取量や野菜等の摂取量)との関連、その他栄養摂取状況と健康状態等との関連について検討を行った。③生活習慣病予防対策を主たる目的とした新しい食事評価法の開発及び検証:生活習慣病との関連が示唆されている栄養素で、その摂取量を反映する生体指標が存在するという報告がある22種類(血中濃度として15種類、24時間尿中排泄量として7種類)の栄養素を選択した。地域性のばらつきを考慮して選定した4地域(大阪、鳥取、長野、沖縄)に在住する20~69歳の50人(10歳階級ごとに男女それぞれ5人:合計200人)の協力を得て、上述の生体指標を測定するとともに、7日間記録法及び4種類の食事質問票を用いて、その直前1か月間における栄養素摂取量及び食行動習慣を調査した。(2)地域集団における栄養関連指標の疫学的評価手法に関する検討:①H県S郡において、約10年間3時点の定点観測データをもとに、人口5000~2.5万人の5つの町での経年的変化の検討及び町-郡―全国(13地区)の比較により、各町、郡における健康課題を検討し、市町村計画策定のための資料とした。特に減塩行動に関しては、24時間思い出し法による食塩摂取量と、減塩に関わる知識・態度(効力予期、結果予期)との関連を、集団間、集団内で解析した。F県の人口約3000名の村において、上記の検討により有用と思われた質問項目を含めた調査(無作為に抽出した約170世帯)を行った。②全都道府県、政令・中核市、特別区を対象に、地域栄養調査の実態調査を行い、課題分析、今後求められる実施体制・方法論等に関する検討を行った。また、国民栄養調査データを解析し、都道府県データ集のフォーマットを作成した。③食塩含有量の多い調味料由来の食塩摂取量や調理油による脂肪摂取量の把握が困難なことに注目し、調味料摂取量の推定方法の考え方について現在の問題点を整理するための基礎実験及び揚げ物料理の吸油率データの文献的検討を行った。さらに平成7年の国民栄養調査に出現した揚げ物料理を分析し、種類や頻度の高い料理の確認を行った。④日本医師会による臨床検査精度管理調査とCDC/CRMLNによる国際的な脂質標準化プログラムを選択し、平成13年国民栄養調査の実施時期に合わせ、実際に運用し、その精度管理状況を検証した。
結果と考察
(1)食事摂取及び栄養状態を表す各種生体指標の検討:食事摂取及び栄養状態を表す各種生体指標について、「健康日本21」関連地域栄養改善プログラムへの応用方法を検討し、以下の結果を得た。①生体内ビタミンレベルの評価手法に関する基礎実験の結果、ビタミンCについては、(i)細胞中の含量、試料調製の問題から口腔粘膜細胞と血小板は用いることが出来ない、(ii)試料保存温度を4℃程度にすれば採取2時間後までは血球・血漿のビタミンCは安定であることを明らかにするとともに、血漿採取後の残りの血球画分からビタミンC測定用リンパ球を調製する手法を開発し、この方法が50人程度を対象とした調査研究に適用可能であることを確認した。②血清葉酸値は、女性の方が男性より有意に血清葉酸濃度が高い傾向であった。また、年齢階級別には、年齢が高くなるにつれ、血清葉酸値が高くなる傾向であった。血清葉酸値と摂取量との関連の内、一次結合の傾向が認められたのは、栄養素
では、葉酸、ビタミンC、総食物繊維であり、食品群では、緑黄色野菜、果実(生)類、肉類であった。③全国4地区(大阪、鳥取、長野、沖縄)において20~69歳男女200名を対象として、4種類の食事調査票(食事歴質問票、食物摂取頻度調査法等)及び7日間の食事記録調査と同時に採血・24時間蓄尿を行い、生活習慣病対策にとって重要であると考えられる栄養素について合計22種類の生体指標を測定し、実地応用面からみた各調査法の特性及び利用条件について検討を行った。(2)地域集団における栄養関連指標の疫学的評価手法に関する検討:都道府県栄養調査等「健康日本21」地方計画策定・評価のために行われる集団レベルでの栄養関連指標の評価手法の検討を行い、以下の結果を得た。①栄養調査の実施に関する状況は都道府県、政令市、特別区でそれぞれ異なっていたが、特に都道府県レベルで行われる栄養調査は、国民栄養調査と同じ調査方法を用いて、同じ調査時期に、国民栄養調査の対象者に対象者を追加して実施されることが多く、地域栄養調査で活用できるマニュアルを作成する際には、国民栄養調査との連携を考慮することが重要と考えられた。また、栄養調査実施上の技術的支援等に関するニーズが具体的に示された。②性・年齢階級別の栄養素摂取量と栄養素密度(/摂取エネルギー1000kcal)の平均値、標準偏差、パーセンタイル値について、統計量を記述した。その結果、ビタミンC、カルシウム等の栄養素摂取量は男女とも50歳代、60歳代等で最も高く、70歳代、80歳代で低い傾向を示した。また脂質摂取量は20歳代で最も高く、高齢になるほど低い傾向を示した。一方、栄養素密度をみると脂質については、20歳代で最も高く、年齢の増加に伴い低くなる傾向を認めたが、他の栄養素では明らかな加齢による低下傾向は見られず、ビタミンC、カルシウム等は20~40歳代に比べ、50歳代以降で高い傾向を示した。③H県農村部における約10年間3時点の定点観測データからは、肥満者の増加傾向が観察されたが、車への依存傾向、運動不足感等、質問紙で簡便に調査できる事項を経年的に記載することは重要であると考えられた。喫煙・飲酒については、実際の行動変化として現れるまでのタイムラグを考慮し、知識・態度等の中間的な指標が有用であると思われた。さらに、地域間では、食塩摂取量と減塩にかかわる知識・態度との間に関連が認められたが、集団内においては相互の関連性は低かった。④多くの食事調査に用いられている調味料摂取量の推定方法を検討するために、みそ汁・和え物を対象とした基礎実験を行い、調理後重量に対して一定比率を掛けることがより妥当であることがわかった。また、揚げ物料理の吸油率に関する文献的検討では、吸油率そのものの考え方が研究により異なり、そのことがデータのバラツキの一因となっていることが明らかとなった。⑤日本医師会の臨床検査精度管理調査及びCDC/CRMLNによる国際的な脂質標準化プログラムを選択し、13年国民栄養調査(検査委託機関: 株式会社SRL)をモデルとして検討し、総コレステロールの場合、正確度が+0.4%、精密度はCVで0.6%、HDLコレステロールの場合、正確度が+2.0%、精密度はCVで1.3%を記録し、脂質の測定精度は国際的な評価基準を満たしていることが確認された。
結論
「健康日本21」地方計画の策定及び推進のためには、国民栄養調査方式をベースとした都道府県や市町村における栄養調査により“地域診断"を行い、科学的に妥当かつ現実的に実施可能な方法で、集団およびそれを構成する個人に対して栄養教育・指導を行うことが必要である。今年度の研究成果からは、地域保健現場における栄養評価及び指導において、ビタミン等の生体指標が活用可能であることが明らかとなった。さらに、数種類の食事調査方法の妥当性に関する基礎データを収集するとともに、葉酸摂取量及び血清葉酸に関する基準データを得た。地域集団を対象とした栄養状態の評価手法に関しては、都道府県等における栄養調査の技術的基盤に関する現状とニーズを把握することができた。また、食にかかわる知識・態度・行動等の指標の相互関連に関するデー
タ、栄養調査を高い精度で実施するために不可欠である調味料等の取扱い方に関する基礎データを得るとともに、血液検査における精度管理が地域における栄養調査等でも適用されるための検討を行った。

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