小児の栄養・運動・休養から見た健康度指標とQOLに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101043A
報告書区分
総括
研究課題名
小児の栄養・運動・休養から見た健康度指標とQOLに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
村田 光範(和洋女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 鏡森定信(富山医科薬科大学)
  • 二見大介(女子栄養大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
15,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の小児は自由で、平和な社会・経済的状況の中で育成されている。しかし、現状をみると夜型生活習慣による睡眠不足、朝食の欠食に代表される食生活リズムの乱れ、日常的な運動不足などのために生活習慣病としての健康障害が大きな問題になっている。そこで、生活習慣の基本である栄養、運動、休養の観点から小児の健康度指標を具体的に検討し、QOLの向上に資することを目的にしている。
研究方法
小児の身体活動を中心に、①小児肥満と健康障害(健康度)の関係、②主観的観察法と各種の器具を用いた客観的な小児の身体活動の量的、質的評価、③幼児のトレッドミル運動負荷による運動能評価、④聞き取り調査による栄養摂取量評価と健康度関係、④アンケートによ高校生の自己健康バランス評価を検討した。休養・睡眠の質・生活の質(QOL)については従来報告されている睡眠の質・QOL評価法について日本人小児に対する妥当性の検証を行なった。また、1989年富山県出生の小児を対象にしたコホート研究の一環として小児のQOL質問のデータを用いて、その関連要因を評価した。小児期は食生活の基礎ができる時期であることから、有効な食教育の方法、また食教育からとらえた食生活の健全さに関する指標の設定を検討するために幼稚園、小学校、中学校において実践的活動を行った。
結果と考察
運動(身体活動)について:①文部省(現文部科学省)学齢期肥満を視点とした小児期の健康度を検討した結果、ここ1980年以降の20年間に学齢期肥満は2から3倍に増加し、さらに小児期の肥満の度合いが増悪傾向を示していた。②超小型コンピュータを内蔵した身体活動評価装置「アクティグラフ」は軽量であり、身体各部位の動きを分離して捉えることができ、小児の身体活動の分析に有効であった。③トレッドミル運動負荷試験による推定ATレベルは、体脂肪率SDスコアや肥満度と負の相関を示し、過剰な体脂肪蓄積が運動耐用能に悪影響を与えていることが確認できた。トレッドミル負荷試験におけるSlope150を利用したATの推定は、単純性肥満小児の運動指導に有用であることが分かった。④こどもの城で行っている肥満児を対象にした「健康スポーツ教室」に通っている肥満児を対象に平成13年4月から9月にかけて敏捷性の測定であるシャトルランの練習効果を検討した。年齢別平均値を上回るものはいなかったが、この6ヶ月間に3秒以上の短縮が見られるものを含めて成績の大きな伸びを示した。また、1日10,000歩の目標に対して平均16,000歩に達していて、努力の成果がみられた。⑤日常生活で活動が活発である児とそうでない児について実際の身体活動量を計測した結果、両者とも活動量が平均化されて保育所、あるいは幼稚園のカリキュラムの影響が多きことが分かった。保育所に通う児の1日活動量を増やすには、外遊びを多く取り入れ、また室内での活動量を増やす工夫が必要である。⑥多周波数方式インピーダンス法(多周波数BIA)を用いて肥満児の上肢と下肢の体組成を検討した結果、肥満児では上肢にくらべ、体幹および下肢の筋肉量の相対的低下がみられた。これは肥満児の運動不足が原因と思われ、肥満小児への指導には、運動指導が不可欠であると考えられた。⑦肥満に影響する食品には年齢による違いが見られ、幼児・学童期では特に飯類(糖質)の摂取量が肥満度を増加させるのに影響が強く認められた。⑧福岡市内の幼稚園に通う6歳男児について教諭が身体活動について活発だと評価するもの18名とおとなしいと評価するもの11名を対象とし、定量的運動負荷時の諸指標を検討した。その結果、日常的運動量の多さは、6歳男児ですでに心筋の収縮・拡張能と
心筋の収縮速度を高め、より強い運動により長く耐要できる能力として健康度を高めることが分かった。⑨高校生の健康バランス自己評価は概ね客観的評価と近いものであった。肥満群では運動項の自己評点が低いことが分かった。健康バランス自己評価を数値化することにより各自に健康問題を認識させる効果があった。今後、体脂肪率(肥満度)、血圧、血清脂質、運動耐容能などとの関連を調査する予定である。
休養について:①両親の申告による小児の睡眠時間は過大評価の傾向にあるものの相関は高かった。② 自記式QOL評価法の開発では、中学生のQOL質問票の因子分析で9因子(①支援、②意欲、③家庭生活、④学校生活、⑤不満・心配事、⑥住環境、⑦自尊心、⑧趣味・娯楽、⑨ストレス)が抽出された。③ CHQ-PF28の日本語の試作版では日本においても妥当性・信頼性があることが示唆された。④QOLの要素である自尊感情は肥満の児童、朝食の欠食がある児童、身体活動の低い児童において低値であった。⑤ 児童の肥満と心理状況との関連では、肥満と「学校にいきたくない」、「得意なところがない」などが関連していた。以上から、睡眠評価や今回開発したQOL質問票は妥当性があること、また児童の睡眠・生活の質からみた健康度の向上のためには生活習慣の確立と肥満の予防が重要である事が示唆された。
食事について:食知識は非介入群に比べて介入群の方が有意に高く、基礎的食教育2の1ヶ月の面接自己記入式調査では、介入群で6割正解する幼児がいたのに対し、非介入群では正解する幼児はいなかった。食態度は、保護者に対する質問紙調査の「給食の感想をいう」で介入群は有意に高くなった。また「食教育内容に関する自発的発言が多い傾向にあった。給食の観察調査では、介入群で食教育内容に関する自発的発言が多い傾向にあった。食行動は、基礎的食教育中に給食を残さず食べた幼児の増加は介入群ではみられなかったが、1ヶ月後にはやや増加した。非介入群では食教育毎に残さず食べる幼児が増加したが、1が月後には減少した。【幼稚園調査】①食教育を行った結果、ほとんどの幼児が食教育の内容を理解し、保護者へその内容を伝えていた。また、伝達行動の強い群と弱い群に分け、結果をみてみると強い群は自ら積極的に話す傾向があり、保護者の理解度も弱い群に比べ、有意に高かった。一方、両群において、幼児から伝わった食教育内容を受けて、主食・主菜・副菜のそろったお弁当へ変えようとする態度は高まったものの、行動変容をおこすほどの影響力はなかった。②食教育内容の理解度について:幼児の主食・主菜・副菜の知識の理解度は全体的に高く、中でも「主食を構成する食品」がもっとも高かった。一方、「主菜を構成する食品」、「副菜を構成する食品」においては、主食よりも正解率が低かった。③食教育の有効性について:幼児の嫌いな食品において副菜を構成する食品が多かったにも関わらず、食教育の内容を受けて、副菜について保護者に話していた幼児が多く、副菜について興味を示していた。また、主食・主菜・副菜がそろうために、副菜が左右してくることから、副菜に注目することが有効であると考えられる。④お弁当調査において:お弁当箱の容量が小さく、副菜が少ない。一方で果物が多いことが分かった。【小学校調査】①総合的な学習の前後で児童の日常的な生活行動に変化は見られなかった。②課題追究目的が明確であったグループはその目的に沿って学習活動が展開されていた。③全ての児童がそれぞれ自分の取り組んだ課題についての知識を習得し、93.3%の児童が態度に結びついていた。行動まで結びついた児童は27.1%であった。④全ての教諭等が食教育の必要性を感じており、総合的な学習で食を取り上げることで食に関する学びの成果が期待できると考えている教諭等が多かった。
結論
運動の領域については、小型コンピュータを組み込んだアクティグラフ、アクティブトレーサーといった各種の機器が開発されてきていて、これら機器の価格が高いことを除けば、従来、困難とされていた小児の身体活動を質的、量的に評価することが可能になってきた。
小児の日常活動が活発であると評価された群では運動能力が高く、ことに心肺機能という点で健康度が高かった。幼児の日常的な身体活動度を増加させるには、保育所や幼稚園のカリキュラムを考慮することが重要である。肥満児は文部科学省の資料に基づくと、その頻度がまだ増加と悪化(肥満の程度が強くなる)の傾向を示していることは明白である。肥満児は食事や運動の面で多くの問題を抱えているので、小児期全体の健康度を向上させるためにも、食事、運動、休養の各面から小児肥満対策を講じる必要がある。休養の領域については、睡眠評価今回開発したQOL質問票は妥当性があること、また児童の睡眠・生活の質からみた健康度の向上のためは生活習慣の確立と肥満の予防が重要である事が示唆された。食事の領域については、小児期の食教育を効果的に行うには、保護者はもとより、幼稚園、保育所、小学校、中学校といった保育や教育の場を活用しなくてはならない。これには幼児期からの食教育の効果的な方策に加えて、食教育と健康度の向上の関係を検討する必要がある。
次年度は、今年度の検討結果を踏まえて、食事、運動、休養に各領域に共通した小児期の健康度評価とQOL評価方法についても検討を加えたいと考えている。

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