住民参加による地域保健活動の実態と促進に関する研究‐歯科保健対策を中心として‐

文献情報

文献番号
200101039A
報告書区分
総括
研究課題名
住民参加による地域保健活動の実態と促進に関する研究‐歯科保健対策を中心として‐
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
石井 拓男(東京歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 米満正美(岩手医科大学歯学部)
  • 池主憲夫((財)8020推進財団)
  • 大久保満男((財)8020推進財団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新世紀に入って提示された「健康日本21」は住民参加による健康づくり運動の推進が基本とされている。歯科保健はその対象とする疾患が日常生活習慣と密接に関係しているところから、住民の歯科保健活動に対する自主的な参加が必要とされているもので、従来から学校歯科保健活動等では種々の試みがなされてきた。近年では地域住民を対象とした歯科保健活動においても住民参加型の活動が散見されるようになってきた。このような背景をもとに、今回、それらの先駆的な住民参加型地域保健を試み、実施している地域から関係者に協力を願い、具体的な取り組みの事例を分析することで、住民参加型地域保健活動の骨組みと構成要素について検討を行うこととした。また、住民参加型歯科保健活動の現状を把握し、さらにその中から典型的な歯科保健活動を探しだし、その成功事例を詳細に検討しモデル事業を実践する目的から個別事例集の作成を行うため全国市町村保健センター、保健所及び全国郡市区歯科医師会に郵送法でアンケート調査を行い住民参加型歯科保健活動の実態把握を行った。さらに、岩手県は歯科保健活動の一環に「8020リンゴ」をとりいれ県民への周知をおこなうというユニークな事業がなされていることから、岩手県における歯科保健活動を「住民参加」の視点から明らかにすることを目的に調査を行った。
研究方法
1.岩手県、山形県、茨城県、東京都、愛知県、滋賀県、広島県、熊本県の9県、12の自治体から事例の提供を得て、それらを解析することで、住民参加型の地域保健活動を構成している諸要素を検討し、住民参加のあり方と住民参加によって得られる成果について検討した。
2.平成13年11月22日から平成13年12月5日にかけて参考資料1に示すアンケート調査用紙を用いて調査を行った。調査対象は全国市町村保健センターと保健所(3375件)および全国郡市区歯科医師会(795件)である。調査は郵送法にて行った。
3.平成13年8月10日から8月23日にかけて、岩手県内59市町村を対象とした郵送による歯科保健事業に関するアンケート調査を実施した。今回は「住民参加」には拘らず、また既存の歯科保健活動以外の各市町村で実施している「特徴的な」歯科保健事業について調査した。
結果と考察
1.岩手県、山形県、茨城県、東京都、愛知県、滋賀県、広島県、熊本県の9県、12の自治体から提示された12の事例はその内容から次の4グループに分けることが出来た、
① ボランティアを保健活動の中心に置くことで、住民参加型をめざしたもの。
② 住民による考える会を組織し、住民参加型の保健活動を実践しているもの。
③ 自発的な住民組織による保健活動で主に都会でみられる活動。
④ 地域のデータ収集、分析をもとに住民参加を試みているもの。
これらの保健活動は従来の健診や講演といった行政が主体的におこなうものではなく、住民が企画・実施・評価の各段階に参画しているものであった。またそれらの事業による成果が確実に得られていることが確認された。住民参加型で現在最も多いタイプは、行政が問題意識を持ち、企画を立てそれを住民代表が参加する会議にかけて承認を得、実行評価は行政が行うものと思われるが。今回報告されたものでは上記のタイプの活動は無く、行政が住民に情報を提供し住民組織を育成し、その住民組織が自ら問題意識を持って企画立案から実行・評価の各段階に参加するというものが多く提示された。さらに、すでに存在する住民組織(自主グループ)が自ら問題意識を持ち、行政と場を共用することで企画・実行・評価にかかわるというタイプも存在することが確認された。これらは都市型と非都市と大きく2分されることが推察された。このことから行政の責任と住民の自主性との兼ね合いと、自主グループによる住民活動における行政と歯科医師会等の専門団体の位置づけと役割が大きな課題として認識された。
2.保健センターおよび保健所に対する調査では回収率は43.9%であった。歯科に関連のある住民参加型歯科保健活動の記載がみられたものは8.1%であり156 件の歯科保健活動を把握することができた。全国郡市区歯科医師会の回答率は52.8 %であった。歯科保健事業がありその実態が把握されていたものは204件で回収率を100%とした場合の48.6%であった。住民参加型歯科保健活動の内容は、自治体を対象とした調査では、講演が最も多く28.2%であった。次いでブラッシング指導 (23.7%)、健診 (23.7%)であった。歯科医師会を対象とした調査では、健診(検診)が最も多く37.7%で、次に講演が28.7%、歯科相談が22%であった。住民参加型歯科保健活動の対象となったものは地域住民、市民と記載されたものが最も多く自治体向けの調査で全体の39.1%、歯科医師会を対象とした調査で55.7%であった。保健活動の実施主体となった団体は歯科医師会を対象とした調査では歯科医師会が最も多く278件55.2% ついで行政が386件77.2%であり、住民が主体となったものは135件で全体の27.0%であった。企画段階で住民が参加したとされたものが自治体調査で63.7%、歯科医師会調査で79.7%、実施段階で住民が参加したものが自治体調査で49.4%、歯科医師会調査で66.3%であった。企画段階のみで住民住民が参加したものが自治体調査で50件、歯科医師会調査で148件、実施段階のみ22件、108件、その他の形式で住民参加がみられたものが27件、98件、企画、実施の段階で住民参加のみられたものが50件、75件、企画、実施実施、その他で5件、2件、住民参加形態の記載のないものが2件、65件みられた。また、住民の参加形態によって内容には大きな差を認めることはできなかった。市町村保健センター、保健所と郡市区歯科医師会を対象に実施した調査で、企画・立案、実施運営の両段階で住民参加により行われた歯科保健活動は、自治体調査で156件のうち50件、歯科医師会調査で499件の歯科保健活動のうち77件であった。厳密な意味での住民参加の歯科保健活動はまだ少なく、また正確な住民参加の概念を普及させる必要があることが明らかとなった。
3.岩手県で実施したアンケート調査の結果では、母子歯科保健から在宅高齢者歯科保健対策まで各市町村で多岐にわたっていたがその大多数は、集団検診やフッ化物局所応用による予防処置といった事業であっり、住民の主体的な参加がうかがわれる歯科保健活動は田老町の「歯磨きボランティア活動支援事業」などに限られていた県単位では行政や歯科医師会が他の組織との連携を取ってユニークな保健事業が実施されているので、このことと市町村事業との関係について、田老町の事例を追跡しつつ検討して行く必要性が確認された。
結論
1.ここでは保健活動の企画・実行・評価の段階に住民が参加する事業を住民参加型地域保健とする観点から12の事例を検討した結果、住民ボランティアを組織し実践活動に参加してもらう方法、住民主体の考える会を組織し企画・実行・評価に参加してもらう方法、行政が自主グループと場を共有して地域保健の企画・実行・評価を行う方法等が提示され、各々成果を上げていることが確認された。各々の方法には都市型、非都市型という様に地域特性の存在が推察された。同時に各々の活動に置いて、住民を質的に量的にどう捉えるのか、また、行政と専門団体の住民参加型の事業における位置づけと役割をどのように捉えるのか、という点に今後の課題のあることが確認された。市町村保健センター、保健所と郡市区歯科医師会を対象に実施した調査で、企画・立案、実施運営の両段階で住民参加により行われた歯科保健活動は、自治体調査で55件、歯科医師会調査で77件であった。厳密な意味での住民参加の歯科保健活動はまだ少なく、また正確な住民参加の概念を普及させる必要があることが明らかとなった。岩手県の市町村に対し「住民参加」には拘らず、また既存の歯科保健活動以外の各市町村で実施している「特徴的な」歯科保健事業について調査した。その結果、田老町以外では従来型の健診やう蝕予防事業が殆どで、住民参加型をうかがわせる事業は見られなかった。県単位では行政や歯科医師会が他の組織との連携を取ってユニークな保健事業が実施されているので、このことと市町村事業との関係について、田老町の事例を追跡しつつ検討して行く必要性が確認された。

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