介護予防における効果的な住民参加を促進する介入方法の検討

文献情報

文献番号
200101038A
報告書区分
総括
研究課題名
介護予防における効果的な住民参加を促進する介入方法の検討
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
井伊 久美子(兵庫県立看護大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護予防における、住民主体のすでに実施されている活動を通して、効果的な介入方法を検討し、他地域でも応用可能な介入プログラムの開発と活用のための条件を明らかにする。
研究方法
参加型アクションリサーチとする。データ収集は、・既存資料の整理と読みとり・看護ボランティアや、住民ボランティアへの聞き取り調査・アンケートによる、参画者の実態調査・データを資料化し、看護ボランティアと住民ボランティアによるフォーカスグループディスカッション を実施する。
結果と考察
1,介護予防の効果について:アンケートの結果は先に示したが、つどい活動に参加したボランティアおよび利用者の両者に共通していることは、「活動に参加しての変化」があった人がボランティア86.0%、利用者98.4%と多かったことであり、活動に参加することが個人の生活に何らかの影響を与えていると考えられた。さらに参加して良かったと思うことのうち「知り合いが増えた」がボランティア81.1%、利用者59.0%で多く、他者との交流が「良さ」として認識されていた。またその前提としての主観的健康観を尋ねた近頃の健康状態では、当然両者とも高血圧、腰痛関節痛または脳血管疾患等を診断されている人は多いわけであるが、「健康」と「まあ健康」を合わせるとボランティアは90.7%で、利用者では69.3%であり、主観的健康観はきわめて高かった。さらに利用者では93.5%が外出の機会があり、「ほとんど毎日外出する」者が59.6%であった。そして、楽しみの有無では楽しみが有るものが80%であり、これは災害復興住宅等の高齢者と比較して高率である。月に1~数回のつどいの場であるが、ここへの参加が利用者であれ、ボランティアであれ、高齢者の主観的健康観に影響しており、場につどうことで看護専門職から的確なアドバイス等を得ることができるということ以上に、知り合いが増えたり、情報交換するなどの相互作用が健康観に貢献していると考える。とりわけボランティアとして参加している人々は、60才代後半から70才代前半の人が多く、こうした活動に参画することは、今後機能低下を予防することにつながるであろうし、現在250人以上のボランティアが活動しているので、地域住民の介護予防としても効果がある活動といえる。2,活動への住民参加について:各つどいの主要なボランティアの発言から、①自分たちの活動の実績を見えるように資料化したり、参加者の変化を確認しあうなどの「活動の学びや喜び」、②つどいの記録や役割分担、または1軒1軒への声かけやお便りづくりなど「活動の継続を支えるきめ細かな雑用」、③皆でやる、自分のためにやるといった「ボランティア活動についての思い」、④上下関係はないけど役割分担はあるという「活動の関係」、⑤お互いの人との出会いと同時に「本音で話し合えること」があげられたが、このような参画者の意識がまさに活動の実体であると言える。現在は11カ所のつどいと年数回の学習会や交流会等が活動の場である。そして、「送迎ボランティア」と「高齢社会を考える会」が各つどいをつなぐ役割を果たしている。これに関わっている地域住民も看護ボランティアも今後へ向けておのおのが夢を持っている。それは「外出支援」であったり、「各町内のつどいができること」であったり、「コミュニティプラザの活用」や「行政との共同」である。どれも現在は困難であるが近い将来実現可能な目標でもあると言える。活動に関わる人々は、活動の中で現実の問題を実感し、お互いに本音で話し合う中で具体的な将来像を見出すことになるのである。その場限りの参加だけではなく、企画をともにする中でさらに様々なことが検討され問題意識を共有していくことになり
、前述した①~⑤は、能動的な住民参加のための要件であると言える。3,住民参加を支えるしくみについて:一般的に、地域住民による地域の活動においては強制的なルールは成り立ちにくい。「しくみ」といっても義務的にやらなくてはいけないものではなく、成文化したものでもない。まして地域住民はそれで生計を立てているわけではない。従って、地域活動の成立要件のもっとも重要なことは、それをやろうとする人々1人1人がどのような意識でどう動くかということである。そして様々な運営の進行に関しても、決まれば後は自動的に誰かがどうにかしてくれることを期待はできない。つまりそれはいかにも不安定であり、いつでも崩れるしくみでもある。その前提で、参画している住民が前項の①~⑤を意識し、語り合えることがこの11カ所のつどいの実体であると同時に活動の成立要件でもあると考える。活動のプロセスと現在の活動の全体構造から、各つどいが独立性を保ちつつも、お互いに交流する関係があり、送迎ボランティアうんぱんまんやC高齢社会をよくする会などと緩くつながり、そのつながりは学習会や交流会などの相互学習を進める場によるものであることが明らかになった。このような小グループ同士の相互扶助を作り出すしくみがこの11カ所のつどいの地域への広がりを支えていたと考えられる。この活動の参画者は個々に実施している活動の内容を独自につくることが出来、しかも全体が見えることで自分たちのやっていることの意味を知り、同時に現状での問題点にも気づくことが出来るのである。4,看護専門職の役割:活動している地域住民に認識されている看護職者の働きは、①様々な人に直接声かけをし「人との出会いをつくり」、②できることからやろうと「活動に向かうよう気持ちの後押し」をし、③車両の獲得や休校の利用など「公的な手段の活用と活用するための手続き」を知らせ、④精神障害者をつどいのボランティアに誘うなど「まだ気づいていない地域の他の問題を次の地域課題」として知らせ、⑤市内24カ所あるコミュニティプラザでのつどい実施の提案など「活動の広がりと方向性を提案する」というものであった。また何よりも地域住民との共同活動のセンスを求められていたと考える。アンケートの結果でも約3割が関わる看護職者に対して「活動全体の運営」を期待していた。ここでいう共同活動のセンスとは、地域での場づくりにおいて、そこに来ることにより住民同士の相互作用が生じ、それが活動の継続性につながるように、住民の歩幅に沿った支援をすることであると考えられた。
結論
1.本研究で対象にしたつどいは、その利用者だけではなく参画するボランティアにも健康観を上げる影響をもたらし、介護予防の効果は高いと考えられた。2.つどいの場が参加者にもたらす健康観の向上に対しては、住民同士の相互作用が影響することが示唆された。3.活動に参画している地域住民は、現状認識から「外出支援」「既存の資源の活用」「行政との共同」等、今後の活動の発展のイメージを持っており、このような能動的な参加の条件としては、①活動の学びや喜び、②活動の継続を支えるきめ細かな雑用、③自分のためにやるといった「ボランティア活動についての思い」、④上下関係はないけど役割分担はあるという「活動の関係」⑤本音で話し合えること があげられた。4.つどいの活動が、参加者の健康保持増進に貢献する継続性を保つためには、各つどいの場の独立性と各つどいが緩やかにつながり、交流できるしくみが必要であると考えられた。同時にこのしくみは住民の主体的な活動を促進する不可欠な要件であった。5.つどい活動には看護師が必要であるとほぼ100%の参加者が認識していた。しかも、継続性のある、また自分のことをわかってもらえていると考えられる“同じ看護師"が期待されていた。
同時に、地域で活動する看護職者には住民と共同し、活動の条件をつくり、地域の問題を知らせる働きがあると認識されていた。ここであげられた看護専門職者の役割は、介入プログラムの基盤となると考えられた。

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