地域保健における健康づくりと疾病予防のための関連要因に関する研究

文献情報

文献番号
200101037A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健における健康づくりと疾病予防のための関連要因に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 元伸(福岡大学医学部助教授)
研究分担者(所属機関)
  • 畝 博(福岡大学医学部教授)
  • 門脇 謙(秋田県成人病医療センタ副センタ長)
  • 上芝 元(東邦大学医学部講師)
  • 加藤真澄(福岡大学医学部教育技術職員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、生活習慣病のうち虚血性心疾患における外部環境要因および生活習慣要因に関して、それぞれの要因毎に各要因間の関係を疫学的に明らかにすることで日本人独自の特徴を解明し、虚血性心疾患の一次予防対策の効果を上げることを目的とする。
研究方法
循環器疾患の治療を専門分野のひとつとしている秋田県内の一医療機関を対象としてCase-control studyを行なった。虚血性心疾患(急性冠症候群、安定狭心症、冠連攣症候群など)の診断を得た者、あるいは胸痛を主訴として外来を訪れた者の中から男性のみを母集団とした。症例数は291例であり、全例に冠動脈造影を実施している。冠動脈造影の結果によりグループを2群に分け、狭窄が認められた者を患者群、狭窄が認められなかった者(WNL)をコントロール群とした。
測定した血清脂質の種類は、総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白A-I (Apo A-I)、アポリポ蛋白A-II (Apo A-II)、アポリポ蛋白B (Apo B)、およびリポプロテイン(a) (Lp(a))である。ヘリコバクター.ピロリIgG抗体の測定は、Enzyme immunoassay (EIA)にて行なった。ヘリコバクター・ピロリ抗体陽性者に対しては、CagA抗体の測定をEnzyme-linked immuno- sorbent assay (ELISA)により行なった。統計解析には、Statistical Analysis System (SAS Institute, Cary, NC, USA)を用いた。オッズ比(OR)および95%信頼区間(95%CI)を求め、p<0.05を有意差ありと判断した。
(倫理面への配慮)
本研究に関しては、福岡大学医学部倫理委員会の承諾を得ている。研究対象者に対しては、研究目的について説明し、書面にて同意を得ている。
結果と考察
C.研究結果
1.コントロール群と狭窄群の比較
狭窄群(224例)とコントロール群(67例)についてロジスティック回帰分析を用いて検討した結果を表1に示した。有意差が認められた要因は、HDL-C 40mg/dl未満 (p<0.05)および糖尿病(p<0.001)であった。
2.コントロール群と70%<狭窄群の比較
冠動脈造影において、75%以上の狭窄が認められた群(以下、70%<狭窄群、213例)とコントロール群(67例)とをロジスティック回帰分析した結果を表2に示した。有意差が認められた要因は、HDL-C未満 (p<0.05)および糖尿病(p<0.001)であった。
3.HDL-Cにおけるコントロール群と狭窄群の比較
HDL-C40mg/dl未満について、狭窄群(215例)、70%<狭窄群(204例)および≦70%狭窄群(11例)とコントロール群(58例)との関係を、年齢による補正を行ないロジスティック回帰分析した結果を表3に示した。狭窄群および70%<狭窄群では、有意差(共にp<0.05)が認められたが、≦70%狭窄群では有意差は認められなかった(p=0.12)。
D.考察
狭窄群とコントロール群とにおいて、低HDL-C血症(HDL-C40mg/dl未満)と糖尿病が有意差を呈した。この結果は、70%<狭窄群においても同様であった。すなわち、冠動脈に狭窄を起こす要因としては、低HDL-C血症と糖尿病が働いていることが示唆されるなかで、高TC血症や高LDL-C血症は、現時点までの研究からは直接の要因としては考え難い。低HDL-C血症の影響を70%<狭窄群と70%≧狭窄群について検討すると、冠動脈に少なくとも1個所70%を超える狭窄の存在する70%<狭窄群は、明らかに低HDL-C血症の影響を受けている。しかしながら、70%以下の狭窄しか認められない70%≧狭窄群においては、低HDL-C血症の影響は存在しなかった。70%≧狭窄群においては別の要因が関与している可能性も否定できない。さらに、外部環境因子として検討したヘリコバクター・ピロリ感染については、現時点において明確な結果を得られなかった。
ここまでの我々の研究において、いくつかの問題点があることは否定できない。従って、さらなる症例数の増加、コントロール群の検討など本研究の課題は多い。これらの点を踏まえ本研究のさらなる疫学的追究を行なう予定である。
結論
冠動脈に狭窄を起こす要因としては、低HDL-C血症と糖尿病が働いていることが示唆された。また、ヘリコバクター・ピロリ感染についても明確な結果を得られなかった。

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