医療機関と市町村保健センターの連携による喫煙対策の有効性に関する研究

文献情報

文献番号
200101030A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関と市町村保健センターの連携による喫煙対策の有効性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
井上 洋西(岩手医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 山内 広平(岩手医科大学)
  • 岡山 明(岩手医科大学)
  • 千田 勝一(岩手医科大学)
  • 利部 輝雄(岩手医科大学)
  • 佐藤 徹(岩手医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
17,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喫煙対策は健康日本21でも重点課題の一つとしてあげられており、喫煙対策の充実の方策を研究することはきわめて重要である。平成12年度より市町村で個別健康教育の一環として禁煙教育が実施されているが、喫煙者の多くは基本健康診査の対象になっておらず、多くの禁煙希望者を募集することはきわめて困難である。一方医療機関では禁煙を希望する患者がいても時間的な余裕がなく、十分な指導が出来ないのが現状である。
そこで、市町村と医療機関が連携した禁煙教育の方法が効果的と考えられた。研究班員の依頼により市町村内の医療機関の協力を得て輪番制にして重点募集期間を設定する。募集期間中、医療機関は全ての喫煙する患者に禁煙をすすめ、禁煙を決意した患者を市町村保健センターに設置された「禁煙支援センター」に紹介する仕組みを導入すれば効果的に禁煙を推進できる。一方病棟内の禁煙教育も地域の喫煙率を低下させるのに有用と考えられる。
研究方法
岩手県宮古保健所、久慈保健所、岩手県医師会の協力を得て介入地域として岩手県宮古地区の三町村(岩泉町、田老町、新里村、人口23000名)での実施について各町村と同意し契約書を締結した。同地区内基幹医療機関である県立宮古病院、国保田老町病院、新里村診療所と研究協力の同意を得た。また対照地区として岩手県久慈地区五市町村(久慈市、野田村、普代村、山形村、大野村、種市町、人口53000名)での喫煙状況実態調査実施の同意を得て覚え書きを交換した。
医療機関に対しては喫煙習慣を持つものを喫煙状況調査を用いて明らかにし、主治医から簡単な呼びかけを行う。医療機関では禁煙教育を実施する日には、患者すべてに対し喫煙状況調査を行うものとする。主治医は喫煙に関して十分な情報提供が必要な患者を区別し自分で禁煙教育を実施する。又は研究班が医療機関の協力を得て設置する「禁煙アシスト」に禁煙教育を依頼する。「禁煙アシスト」ではスモーカライザー、禁煙教育用拡大図版および禁煙準備手帳などを用いて禁煙指導を行う。その後禁煙予定日が決まった患者のフォローは、市町村保健センターに引き継がれる。
住民意識調査の配布回収には郵送法を用いること、回収率を上げるために調査項目に制限を加えるとともに、回答しやすく処理しやすい調査票の作成を行うこととした。回答の手間を考慮して配布する調査票は表紙を含む8ページとした。調査項目は介入地域で調査する喫煙意識に関する設問、一般健康意識に関する設問および対照地域で調査希望のあった心の健康に関する調査項目について作成することとした。喫煙については喫煙習慣、他人の喫煙に対する意識、喫煙対策に対する意識、喫煙者に対する禁煙の意志、喫煙の健康影響に対する知識を問う問題を作成した。回答は基本的に4者択一方式を採用した。各地区での調査対象者は最終的な回収数が6,000人となるよう7,500名を調査対象者として調査することとした。
入院患者に対する禁煙教区は入院時に患者に対して看護婦が喫煙習慣を聞き取り、喫煙習慣のある者に対して本研究の趣旨を説明して禁煙教育参加の募集を行う。禁煙指導担当看護師に対して禁煙指導者の養成教育を実施する。また、本研究を行うためのサポート体制を構築する。7月~3月 禁煙指導開始入院患者を対象に禁煙希望者を募集する。禁煙希望者に対して研究目的と無作為割付の必要性について説明した文書でインフォームドコンセントをする。指導群に対しては禁煙教育担当看護師が「禁煙の個別健康教育」を実施する。非指導群については従来病棟で行われていた禁煙指導を行う。中央事務局は使用教材の提供や指導のサポートを行う。
結果と考察
喫煙意識調査の発送総数は介入地区3572通、対照地区3998通となった。このうち宛先人不明で返送されたものが39通であり有効配布枚数は7531通であった。平成14年3月30日現在回収率は介入地区で平均75.7%、対照地区で60.2%であり、対照地区の回収率のほうが低い傾向が見られた。介入地区、対照地区別の性別回収数および回収率を示した。介入地区、対照地区ともに男女の回収率に大きな差がみられた。介入地区男性の回収率は73.8%、対照地区男性では57.1%と女性より5%低い回収率にとどまった。喫煙に関する医療機関の医師、看護師の意識調査は介入地区である宮古地区の医療機関を対象に実施した。今後これらのデータを入力し医療従事者の現状を把握分析する予定である。更に対照地区である久慈地区は平成14年度早々に調査を実施し2地区を比較検討する予定である。協力病院の募集状況として、地域の喫煙対策の推進地区である宮古地区の基幹病院である岩手県立宮古病院(500床)、および岩手医科大学病院(870床)で研究の趣旨を説明し、平成14年3月までに両病院の病院長および看護部長の了解を既に得ているとともに各担当部長の了解を得た。
本研究では記名式として2年後に同様の調査を実施することで対応のある検定が可能な方法を採用した。このことにより検出可能な喫煙率の差を低く保ちながら、調査対象者を大きく減らすことが可能と考えられた。一方記名式の調査では回答率が低くとどまる可能性が考えられ、調査が失敗する可能性がある。そこで調査票を記入しやすいものとするとともに対象者へのインセンティブとして謝品を提供するものとした。また、適切な間隔で催促する方法も採用することにより調査が円滑に実施できるか検討した。 
この結果これらの方法を採用することで十分な回収率が得られることが明かとなり、大規模な調査に望むことが可能となった。介入効果を評価するには対策前の現状評価と、介入後の評価が重要となる。本研究では介入効果を検出する方法として、無作為抽出標本に対する記名式アンケート調査を採用した。対象者は調査協力を同意したもののみが署名した上で調査票を送付することから、個人の了解を得る点について十分な倫理性が確保されると考えられる。地域住民はこうした調査がどのように利用されるか不安を持つことも事実であり今後良好な関係を保ち再度調査を実施するには、十分な情報提供を今後実施していく必要があると考えら得る。特に対照市町村は活動を行わないので調査への協力率が2回目の調査では十分でない可能性が考えられることから、喫煙対策以外での地域との密接な関わりをもつことにより住民の意識を維持していく必要があると考えられる。
予備調査に基づき住民の無作為抽出標本による喫煙状況調査を実施した。配布回収期間は1月下旬より3月中旬であった。この時期の調査の実施は高齢者では回答を郵送できる場所に移動させることが困難なことが考えられ、こうしたことが回答率を引き下げた可能性がある。また、予備調査では電話帳を用いた抽出を行ったが、今回は住民台帳を用いており対象者の特性に差があった可能性がある。
今回の回答を得た標本数は当初計画した6,000名に比較して20%少ない。このことから現在のままで介入効果を検出するには、当初計画した3%以上の喫煙率の変化を目指す必要があると考えられる。しかし、当初の計画より介入効果を大きく見積もることは適切でないと考える。対象者となって協力する意志があっても一時的な都合から調査票を紛失し、回答できない対象者の割合も相当数いると考えられるので、引き続き調査を実施することも重要であると考えられる。幸い本研究で喫煙対策を実施するのは6月以降であり、今後1ヶ月間を調査票の配布回収に活用することが可能であろう。このことにより当初計画した6000名の介入効果評価のための集団を設定する予定である。
医療機関に於ける禁煙教育は外来での禁煙外来が主に実施されているが、住民の意識調査では入院をきっかけに禁煙を決意した場合も多い。看護業務としても、入院をきっかけとして患者の生活の見直しや、退院後の生活の方向性を支援することが重要と考えられる。しかし、病棟の看護活動の一環としての禁煙教育とその長期有効性について無作為割付の手法を用いた研究は我が国では行われていない。看護業務の一環として禁煙教育が十分実施されていないのが現状である。しかし入院中の患者にとって病棟看護師は主治医とともにもっとも信頼関係をもって活動しているので、禁煙教育に必要な人間関係は既に成立している。喫煙習慣が患者の退院後の健康に大きく影響することを考えると看護業務として最も重要な業務の一つといえる。本研究ではこの点に着目し健康教育を行ったのち退院後もフォローして、従来の指導法による禁煙効果と比較検討して長期の有効性を明らかにすることを目的としており、結果が示されれば公衆衛生的な意義はきわめて大きいと考えられた。
結論
医療機関との連携による禁煙教育のプロトコールの詳細を検討し、市町村保健センターの理解が得られた。また喫煙対策のための集団設定が進み最終的に介入・対照各3,000名の集団の設定ができると考えられた。今後介入を実施する予定である。

公開日・更新日

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