地域における長期的な循環器疾患予防対策が高齢者のADL、QOLおよび医療費に及ぼす影響

文献情報

文献番号
200101027A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における長期的な循環器疾患予防対策が高齢者のADL、QOLおよび医療費に及ぼす影響
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
磯 博康(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋本喬(大阪府立健康科学センター)
  • 大久保一郎(筑波大学)
  • 今井潤(東北大学大学院)
  • 佐藤眞一(大阪府立健康科学センター)
  • 伊藤善信(秋田県本荘保健所)
  • 藤枝隆(茨城県水戸保健所)
  • 石川善信(高知県中央東保健所)
  • 白井祐二(長野県伊那保健所)
  • 岡田克俊(愛媛大学)
  • 高橋秀人(筑波大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
14,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では、昭和30年代以来、循環器健診による高血圧の把握とその後の高血圧管理、食事改善指導を中心とする循環器疾患の予防対策が全国各地のモデル地域において、保健所、市町村、医師会、健診団体、研究機関の組織的な協力のもとに進められてきた。その結果、集中的な対策を継続したモデル地域においては、未治療高血圧者の減少、血圧レベルの低下、脳卒中の発症率、有病率、死亡率の低下などの成果が挙げられた。また、これらのモデル地域では同一医療圏内の他の地域に比べて脳卒中の低下がより大きいことが示されている。
このような予防対策とわが国の経済発展、国民の生活環境の改善により、昭和40年代後半から全国的に脳卒中死亡率は低下し、国民の65歳以上の平均余命は著しく増加した。これは国民の保健水準の向上を示すものであるが、反面、人口の高齢化によるADLの低下した老人の増加、介護者の身体的・精神的負担の増大やQOLの低下、老人医療費の増大という新たな社会問題が生じつつある。
我々は強力でかつ継続的な循環器疾患の予防効果が、循環器疾患死亡率や全死亡率の減少に加え、人口の高齢化にもかかわらず要介護老人数の低下をもたらし、それが在宅での介護者の負担軽減とQOL低下の抑制、老人医療費増加の抑制、介護保険の負担軽減をもたらすと考え、この仮説を立証するための研究事業を計画した。
すなわち、わが国の地域での長期的な循環器疾患予防対策が、循環器疾患の死亡のみならず、65歳以上の高齢要介護者の有病率、在宅要介護者を介護する人のQOL、および高齢者一人当たりの国民健康保険費の推移に及ぼす影響に関して対照地域を設けて比較し、地域の予防対策の効果を定量的に分析することを目的とする。
脳卒中は、患者本人のADLの障害のみならず、介護者の身体的・精神的負担やQOL低下を及ぼす疾患であることから、要介護者が多い高齢者のADL、QOLおよび医療費への影響に焦点をあてて予防対策の効果を分析する必要性がある。とりわけ、平成12年度より介護保険が開始されるにあたり、予防対策が介護保険の負担軽減に及ぼす影響を検討することは急務である。
本研究はわが国において保健所、市町村、医師会、健診機関、研究機関の組織的な協力のもとに長期間継続してきた予防対策事業を客観的に評価し、効果的な予防対策の方策を体系化するものである。特に、これまで諸外国でもほとんど行われていなかった高齢者のADL、QOL、医療費への影響を9つの対策地域において対照地域と比較分析することは、高齢者の保険・医療・福祉に係わる効果的な地域保健サービスに関する新しいメタアナリシスとして位置づけることができる。また、効果的な予防対策の内容を体系的に整理することにより、わが国での客観的なデータに基づいた提言を行うことが可能になる。その結果、循環器疾患予防対策を今後更に進めていく上での施策に反映でき、地域保健の向上に貢献できる。
研究方法
本研究は地域における循環器疾患予防を中心とした保健サービスの評価のため、対策地域における三次予防を含む保健サービス体制を把握、整理し、下記のテーマを3年計画で総合的に進める。対象とする予防対策地域は12年以上(12~37年)対策を継続している地域で、秋田県I町(人口7千人)、秋田県H市I地区(3千人)、岩手県O町(8千人)、茨城県K町(1.8万人)、茨城県I町(2.3万人)、長野県T町(7千人)、高知県N町(1.2万人)、大阪府Y市M地区(人口2.3万人)、愛媛県O市(3.9万人)の9地域である。対照地域は対策地域の同一医療圏の地域とする。磯は研究の立案、調整、総括を、大久保は経済評価を、高橋は統計解析を、その他の研究者は担当する地域での対策の実施、評価にあたる。
1) 循環器疾患、全死亡率の推移 
対策地域と対照地域における1970年代以降の循環器疾患(脳卒中、虚血性心疾患、高血圧性疾患)並びに全死因の死亡率の動向を比較するため、予防対策地域と対照地域の人口動態統計(死亡)データの目的外使用を申請する。死亡率推移の背景把握のため、循環器疾患予防を中心とした、一次・二次予防対策や三次予防である要介護者に対する地域ケア対策の強度を比較するためのスコア化を行う。
2) 高齢要介護者の有病率
対策地域とそれぞれの対照地域において、平成12年度以降の介護保険認定者等の要介護者におけるADL、痴呆等の情報を収集し、高齢要介護者の有病率を求める。
3)在宅高齢要介護者の介護者の負担、QOLの調査
対策地域において、在宅の介護保険認定者の主介護者に対して、介護による身体的、精神的な負担、QOLに関する調査を行う。
4)高齢者医療費の長期的な推移  
対策地域とそれぞれの対照地域において、対策開始年から現在までの国民健康保険による医療費(外来・入院別)データ収集する。
5)予防対策の費用-効果分析 
対策地域の中で特に集中的に対策を行った地域とそうでない地域での高血圧対策(健診による高血圧者の把握と高血圧者への治療、生活指導)に要した費用の差と、脳卒中の発症数もしくは脳卒中による寝たきり数(人口、性、年齢を調整)の差を分析する。これにより脳卒中の発症あるいは脳卒中による要介護を一人抑えるためにかかる費用を算出することができる。
倫理面への配慮
人口動態統計の活用に際しては地域の各種疾病の死亡率の算出が目的であり、個人同定情報(個人ID)は用いない。高齢者のADL、痴呆、介護者の身体的、精神的負担、QOLに関する調査成績は各市町村において、外部からは特定できないID番号に基づいて入力を行い、解析事務局では名前、住所等を削除したデータファイルを用いて集計・解析を行う。高齢者の医療費のデータは各県が公表しているデータを用い、地域単位での集計を行う。予防対策の費用・効果分析においても地域単位のデータを用いる。
結果と考察
本研究班の第一年度として、研究班会議を開催し、研究遂行のための綿密な打ち合わせを行った。研究方法に示した、人口動態統計(死亡)、12年度以降の介護保険認定者のADL、痴呆等のデータ、国民健康保険による医療費のデータ収集を開始した。国民健康保健のデータは1970年にさかのぼってデータ収集を行った。また、対策地域において、介護による身体的、精神的な負担、QOLに関する調査を行うため、妥当性の確立しているZBI(Zarit Caregiver Burden Interview)の質問表(日本語改訂版)の採用を合議した。現在までに、強力かつ長期間に渡って高血圧管理を行った対策地域は対照地域に比べて、脳卒中による寝たきり者数の減少が大きいこと、国民健康保険による入院医療費の上昇が抑制されていることが認められている。次年度は、研究方法で示したデーマ1の死亡率の推移の分析を開始する。また、テーマ2の介護者の有病率のデータ収集・集計の継続と、テーマ3の介護者の負担、QOLの調査を実施する。また、テーマ4の国民健康保健の1970年代からのデータ入力と集計を行う。さらにテーマ4の費用・効果分析を開始する。
結論
強力かつ長期間に渡って高血圧管理を行った対策地域では最近のデータで寝たきり者数の低下、国民健康保健の入院医療費の上昇抑制が認められている。来年度は1970年代以降の長期的な効果に関して計画に沿った集計・分析を行う予定である。

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