構造・過程・結果のアプローチからの保健所機能の総合評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101022A
報告書区分
総括
研究課題名
構造・過程・結果のアプローチからの保健所機能の総合評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
大井田 隆(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域保健法施行後、保健所は専門的・技術的業務、情報・調査研究、企画調整、健康危機管理等の機能強化が求められているが、機能強化を推進するためにはその評価手法を開発する必要がある。しかしこれまでの研究では、市町村の保健サービスの充実や地域住民の健康水準の向上などの保健所機能の結果が全く明らかにされていないなど、保健所機能の質の側面である構造、過程、結果が総合的・包括的に把握されていない。本研究では、地域保健法において明示された保健所機能を、構造・過程・結果のアプローチから把握し、それらの関係性を包括的に分析し、保健所機能を総合的に評価するための方法論を開発することを目的とする。今年度は、保健所機能の中でも特に強化が求められている健康危機管理機能に関する評価体系を構築し、保健所と市町村における健康危機管理機能の現状と問題点を把握した。
研究方法
全国の592保健所と、指定都市、中核市、政令市を除く3,173市町村を対象に、平成14年2~3月、郵送により調査票を配布・回収した。回収率は保健所73.3%、市町村61.4%であった。保健所と市町村に共通する調査項目は、過去5年間に発生した健康危機の内容、健康危機発生の可能性のある施設・自然環境の有無、健康危機発生時の保健活動マニュアルの作成状況(感染症の集団発生、食中毒の集団発生、飲料水汚染など)、訓練・研修の状況(実地訓練の実施状況、他機関が主催する実地訓練への参加状況、健康危機管理に関する研修への職員の派遣の有無)、関係機関との連携(保健所と市町村との連携状況、健康危機に関する会議の開催状況、他機関が主催する健康危機に関する会議への参加状況)、地域住民への啓発活動の状況、健康危機発生時の連絡手段の状況、職員の役割分担の状況、業務体制の状況(24時間勤務体制、各職員への連絡体制)、被災住民への支援体制の状況(救護所の設置、避難住民への対人保健活動、避難所における衛生活動、被災住民への情報提供、住民からの問い合わせへの対応など)、マスコミ対応の状況、情報収集・分析体制の状況(病院へ搬送された患者に関する情報収集、情報の集約体制、被災住民の実態調査)などであった。またそれ以外に保健所のみに設問した調査項目は、健康危機管理機能の担当部門の有無、健康被害の発生動向を把握する体制の状況、医薬品などの確保・供給体制の状況(物資の備蓄・搬送、救援物資の管理・搬送、病床確保)、PTSDなどの被災者の精神保健対策の整備状況であった。
結果と考察
71%の保健所、28%の市町村で過去5年間に健康危機が発生しており、その内容の多くは食中毒や感染症の集団発生であった。61%の保健所、28%の市町村は管内に健康危機発生の可能性のある施設を有していた。59%の保健所、44%の市町村は管内に健康危機発生の可能性のある自然環境を有していた。健康危機発生時の保健活動マニュアルに関しては、ほとんどの保健所が感染症・食中毒の集団発生、約6割の保健所が飲料水汚染、約5割の保健所が飲食物や大気中への意図的な毒物など(砒素・サリンなど)の混入・散布事件、自然災害に伴う健康被害、約4割の保健所が爆発・火災・原子力・化学物質などによる事故、廃棄物・処理場・工場などからの有害物質による汚染に関するマニュアルを作成していた。しかし全ての内容で、保健所独自のマニュアルを作成している保健所よりも都道府県に準じたマニュアルを作成している保健所の方が多かった。一方、保健活動マニュアルを作成している市町村は30%と少数であった。67%の保健所は市町村との連携体制が整っていると回答したが、保健所との連携体制が整っていると回答した市町村は33%で、保健所と市町村との間で
認識の違いがみられた。33%の保健所、10%の市町村は健康危機に関する会議を主催していた。17%の保健所、15%の市町村は健康危機に対する実地訓練を行っていた。41%の保健所、25%の市町村は地域住民に対する健康危機に関する啓発活動を実施していた。健康危機発生時の連絡手段に関しては、8~9割の保健所が通常の電話回線、携帯電話、ファクシミリを、約6割の保健所が無線を、約4割の保健所が非常時専用回線を、約2割の保健所が衛生電話を確保していた。一方市町村では、約8割が通常の電話回線を、約6割が携帯電話を、約7割がファクシミリを、約7割が無線を確保していたが、保健所と比較すると整備されていなかった。約9割の保健所で健康危機発生時の職員の役割分担、責任者などが明確に決まっていたが、市町村では約半数に過ぎなかった。58%の保健所、32%の市町村で健康危機発生の被害状況に応じた24時間勤務体制が整備されており、ほとんどの保健所、市町村で業務時間外の職員への連絡体制が整っていた。42%の保健所、47%の市町村で健康危機発生時の救護所の設置体制が整っていた。56%の保健所、33%の市町村で避難住民に対する対人保健活動の体制が整っていた。45%の保健所、38%の市町村で避難所における衛生活動の体制が整っていた。42%の保健所、48%の市町村で被災住民への情報提供の体制が整っていた。61%の保健所、40%の市町村で健康危機発生時の住民からの問い合わせへの対応体制が整っていた。85%の保健所、44%の市町村で健康危機発生時にマスコミ対応を一本化する体制が整っていた。29%の保健所、10%の市町村で健康危機発生時に病院に搬送された患者に関する情報を収集するシステムが整備されていた。61%の保健所、30%の市町村で健康危機発生時に情報を一元化する体制が整っていた。52%の保健所、27%の市町村で被災者の実態調査を実施する体制が整っていた。79%の保健所は健康危機管理機能の担当部門を有しており、2年前の56%と比較して増加していた。49%の保健所は健康危機管理に関する研修に職員を派遣していた。30%の保健所で国の統計調査(感染症発生動向調査など)以外で健康被害の発生動向を把握する体制が整っていた。医薬品・資材などの備蓄体制が整っている保健所は57%、搬送体制が整っている保健所は49%、救援物資の管理・搬送方法が決まっている保健所は31%であった。56%の保健所は健康危機発生時に本庁からの職員の応援を受ける体制が整っていた。42%の保健所で健康危機発生時に病床を確保する体制が整っていた。30%の保健所でPTSDなどの被災者の精神保健対策が整っていた。
結論
保健所の健康危機管理機能に関しては、担当部門や職員の役割分担などの組織体制は整備されていたが、実際に健康危機が発生した場合の、避難住民に対する対人保健活動、避難所における衛生活動、情報システム、医薬品・資材・病床などは十分に整備されていなかった。また健康危機に関する会議や実地訓練を実施している保健所は少なく、関係機関との連携が十分に整備されていなかった。健康危機発生時の保健活動マニュアルは、感染症・食中毒以外は十分に整備されておらず、また都道府県に準じて作成されているため、地域特性に応じた健康危機管理機能を十分に発揮できない可能性がある。市町村は保健所と比較して健康危機管理機能の整備が進んでおらず、また保健所との連携が十分にとれていないと認識しているため、保健所は健康危機管理に関する市町村への支援に積極的に取り組む必要がある。

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