栄養活動から見た地域保健福祉活動の企画・評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101015A
報告書区分
総括
研究課題名
栄養活動から見た地域保健福祉活動の企画・評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
薄金 孝子(神奈川県厚木保健福祉事務所)
研究分担者(所属機関)
  • 高松まり子(東京都板橋区保健所)
  • 押野榮司(石川県立中央病院)
  • 酒元誠治(宮崎県小林保健所)
  • 藤内修二(大分県日田玖珠保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
栄養活動から見た地域保健福祉に関する行政サービスも、他のサービス同様、行政内外の様々な関係者との連携を踏まえた体制づくり、住民参加の活動、科学的評価への取り組み等が強く求められている。本研究で、企画・実施・評価のプロセスと、関係機関や関係団体等の関わりが評価できる評価票やワークシートを作成し、これらの精選及び妥当性を検証してきた。さらに、本年は「健康日本21」の地方計画や「保健医療計画」の中に位置づけた活動としての展開や所内、関係機関・団体と連携した活動を展開するときの有効性を検証する。
研究方法
産業保健との連携の活動評価;神奈川県内の417事業所において、平成8年と平成12年に実施した給食内容の状況を「産業保健における栄養活動の評価票(施設を支援する項目)」を活用した38事業所を自己チェク「あり群」とし、「なし群」と比較する。民間との連携の活動評価;外食栄養成分表示事業及び健康づくり協力店事業を実施している5保健所の自己評価。高齢者の食生活を支援するための健康づくり協力店事業の条件、仕組みの検討をする。保健・医療・福祉との連携による活動の企画・実施・評価-在宅療養者食生活支援事業;炎症性腸疾患(IBD)の病態に応じた在宅療養者の支援活動を組織的に展開するための保健所内外での合意形成をケースメソッドにより検討する。市町村栄養活動連携事業;「地域計画策定を支援するワークシート」を、①ヘルスプロモーションによる計画づくり、②保健所と市町村との協働作業により行えるプロセスを重視、③計画書としての形が整えられる。に注目して作成する。「健康日本21」栄養・食生活分野の企画・評価;市町村及び保健所栄養士を対象に、集合法によりワークシート活用にあたっての課題整理をする。事業のニーズ、実施の意向については、これからの保健所における栄養活動とおもわれる32項目の取り組みについて、全国の保健所の所長及び管理栄養士に事業のニーズ、実施の意向、実施状況について郵送調査をする。
結果と考察
産業保健との連携の活動評価;平成12年の給食内容は、平成8年に実施したときより「良好」や「要改善」が減少し、「普通」の評価となる項目が多かった。自己チェック「あり群」と「なし群」の給食状況は、「献立の内容において料理の組み合わせや材料の分量が良好」、「健康や食生活についての学習ができるようになっている」、「献立に基づく調理、盛り付けをしている」、「嗜好調査や残職調査・研究をしている」、「適温給食を実施している」の項目に有意の差が見られた。また、平成8年と平成12年の給食状況では「普通」の評価が多かったのに比べ、自己チェック「あり群」は、「良好」の評価が多くなっていた。事業のニーズ、実施の意向についての全国調査の結果では、集団給食施設指導の実施率は高いが、事業所を通しての健康づくり等産業保健との連携活動は低い結果であった。事業所の施設数や規模に関わらず自己チェック票は活用でき、施設の到達段階に応じた支援ができる。民間との連携の活動評価;全国調査において、健康づくりモデル店事業は、管理栄養士や保健所長のニーズが高く、実施の意向が強いが実施率は低い栄養活動であった。ニーズが高いこともあり、民間との連携及びコンセンサスづくりのポイントを踏まえ、高齢者の食のQOLを目的とした健康づくり協力店事業の展開についての企画を試案した。個々人の健康づくりの支援と同時に、地域の個性を生かした健康で活力ある街づくりの地域活動として発展していく可能性が高まった。
保健・医療・福祉との連携による活動の企画・実施・評価-在宅療養者食生活支援事業;難病患者(炎症炎腸疾患)の食生活支援事業は、人口15万人以上の県型保健所及び政令市保健所で有意に高い割合で実施していた。この事業をさらに組織的に展開するためにもコンセンサスづくりは重要なポイントとなる。所内では、所長、課長、医師、薬剤師、保健師、作業療法士、理学療法士、歯科衛生士、管理栄養士、事務職などの関係者の合意形成が必要である。所外との合意を必要とする機関は、対象者が通院している医療機関(医師と管理栄養士)と地元医師会や対象者を診断した専門医療機関(医師と管理栄養士)患者会、看護協会や栄養栄養士会、調理師会市町村等であった。地域保健・栄養体制の整備の企画・実施・評価;保健所栄養活動の全国調査において、「健康日本21」関連事業、事業の評価に相当する事業等は栄養士と所長のニーズが高く、実施の意向が強いが、実施率は低かった。また、市町村栄養士配置率50%以上の保健所で地域栄養診断に取り組む率が高かった。市町村栄養活動連携事業;①「地域計画策定を支援するワークシート」は、ビジョン部分と行動計画部分に分けたため、市町村が行う地域計画策定の考え方が整理できる。②両部分について手順とチェック項目の概要を示すことで、計画策定の負担軽減が図れた。③MIDORIモデルを活用することで、住民のQOLを重視する視点や評価の視点が持てる。④保健所と市町村の連携により策定することで、保健所の栄養活動の必要性が評価された。⑤市町村管理栄養士・栄養士というマンパワーの有無が、策定された地域計画(行動計画)を通じて評価された。「健康日本21」栄養・食生活分野の企画・評価;活用に当たっての課題①策定済み又は策定中が11市町村(9%)と少なく、また、市町村栄養士が関わっている範囲が30%以上のところは、13ヶ所(23%)と狭い。②他職種や関係団体等と合意形成を行う大変さを述べる栄養士が多く、合意形成の方法について議論を行うまでには至らなかった。③地域の実態・住民ニーズの把握は、大規模調査でないと現状が的確に把握できないと認識している栄養士が多かった。保健所栄養活動の全国調査において、保健所長と管理栄養士に取り組みのニーズや実施可能性の意識に差があったことからも、所内のコンセンサスづくりは活動を始める一歩となる。どの事業においても、日ごろから相談できる体制を作っておく、スタッフ同士から上司、上司から所内へとコンセンサスを着々と広げていく必要もある。そのためには、栄養・食の専門家としての視点で、データーを整理し、企画書を示す必要がある。所外とのコンセンサスづくりも同様の事が出発点となる。
結論
作成してきた評価票やワークシートは、事業の目的や所内や所外の関わった人のチェックもできるようになっており、これらの確認としても幅広く活用できる。さらに、「健康日本21」地方計画の策定や他分野へ展開、高齢者の食のQOLを目標とした健康づくり協力店事業への展開などへの応用も可能である。地域保健や栄養体制を整備する大きな活動を計画的に展開する必要に迫られているが、日常的に繰り返されている在宅療養者への食生活支援や事業所給食への支援活動も、自分達の言葉で表現した企画書を整え評価する必要がある。

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