高齢期等居住移動者の保健等ニーズと地域保健医療福祉の供給に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101014A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢期等居住移動者の保健等ニーズと地域保健医療福祉の供給に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
豊川 裕之(社団法人 エイジング総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、増大している高齢人口移動は当事者の生活環境志向に因るところが大きいという社会学的分析視点に立ち、居住移動という大きな生活行動時に表明される当事者ニーズをアンケート調査で捉え、地域環境と保健福祉サービスの在り方を究明したものである。本研究では、江戸川区・横浜市で実施した高齢者の居住移動行動の実態調査データを合わせて整理分析し、高齢社会における①居住行動の数・形態・要因、②この要因を形成する保健・医療・福祉のニーズの実態、③地域保健・医療・福祉の供給実態などを明らかにする。
研究方法
平成10年4月1日~平成11年3月31日の期間に江戸川区に転入、転出または区内移動した65歳以上の高齢者(2,823名)を対象とした居住移動実態調査結果と平成12年3月1日~平成12年5月31日に横浜市へ転入、市内移動(転居)した高齢者(2,500名)を対象とした居住移動実態調査結果のデータ整理を実施すると共に、過去に同様の調査を行った市川市(千葉県)及び札幌市(北海道)等が公表している調査結果との比較研究等も行った。調査項目は主に以下に示す20項目:①性別、②年齢、③転居前後の住所、④出生地、⑤配偶関係、⑥職業状況、⑦生活費の源、⑧転居前後の世帯主、⑨転居前後の家族構成、⑩随伴移動者、⑪転居前後の住居、⑫日常生活能力、⑬健康状態、⑭社会的活動、⑮転居前後の介護の有無、⑯介護者の有無、⑰転居前後の孤独感・不安感・満足感、⑱移動理由、⑲定住希望、⑳転居前後の状況比較及び移動後の生活環境変化等の各項目である。
研究分析の内容をまとめると次のとおりである。
1) 地域レベルにおける保健・医療・福祉等環境との関連
2) 地域レベルにおける保健・医療・福祉の比較
3) 地区レベルにおける保健・医療・福祉の関連
・江戸川区内の地区間格差:①旧市街部、②中間部、③新市街部の3地区
・横浜市内の地区間格差:①旧市街部、②中間部、③新市街部の3地区
・江戸川区と横浜市とを一括した3地区間格差
4) 「健康状態」との関連分析
5) 「満足感」(充足感)に関する分析
6) 地域・地区間分析の総合的アプローチ
結果と考察
今年度研究は、横浜市と江戸川区における高齢者の居住移動行動の実態調査結果を基に、高齢者の移動前・後における、①満足感、孤独感、居住状況、介護者の有無、収入及び就業の有無、等に着目し、②横浜市と江戸川区と両地域を旧市街部、中間部、新市街部に区分、それらの間の格差を分析して、③保健医療福祉のインフラストラクチュアとの関連を明らかにした。その結果の概要は以下のとおりである。 1.江戸川区と横浜市の各地域間比較において、(1) 医療・介護のベット数においては、江戸川区より横浜市が多く、(2) 移動時における「同居者の有無」については、江戸川区は移動前に「同居者がいた」が多く、横浜市は移動後に「同居者がいる」が多い。(3) 健康状態及び不安感については、江戸川区は「病気のある人」と「不安感がある人」が多く、横浜市では「健康な人」と「満足感がある人」が多く対照的である。2.江戸川区と横浜市の各地区間比較において、(1) 高齢化率は旧市街部が高く、医療・介護のベット数では新市街部が多い。(2) 新市街部では「同居者のいる人」、「配偶者のいる人」、「介護者のいる人」が多く、(3) 旧市街部では「市区内移動した人」、「住宅事情で移動した人」が多い。3.江戸川区と横浜市の各地区における「健康状態」については、(1)「健康が移動理由ではない」、「通院はしていない」等が各地区に共通しており、(2) 「年齢が低い方が健康である」については、新市街部ではその傾向が認められるものの、旧市街部では関連は認められない。4.江戸川区と横浜市の各地区における「満足感」については、(1) 全地区において「満足感」に対して非常に強い相関を持つものは、「孤独感を感じない」、「不安感を感じない」、「健康状態が良好」等である。特に「満足感」・「孤独感」と「健康状態」の間には強い関連があり、「満足度」の度合いを「孤独感」と「健康状態」の度合いから半定量的に求めることことができることを示した。以上述べたように、本研究では高齢者の居住行動について、江戸川区及び横浜市の実態調査結果と過去に同様の調査を実施した市川市及び札幌市の結果等を参考にしながら、高齢社会における①高齢者の居住行動の数・形態・要因、②この要因を形成する保健・医療・福祉のニーズの実態、③地域における保健・医療・福祉の供給実態などを明らかにした。
結論
住民の健康の維持向上、満足度の向上、安定の促進などの施策を考える時に、①固有の相関度、②地域間格差、③地区間格差、④特定地区の特異現象、等を考慮しつつ、それぞれの内容に応じて適切な手を打つことが効果的である。何故なら、現実の現象が主としてこの4つの要素のどれによっているかによって、展開すべき施策が異なるからである。例えば、定住促進のためには、満足度を高める施策が有効であり、その満足感を高めるためには健康の維持向上、孤独感・不安感の解消、利便性向上等の施策が有効なことなどは、これまでの分析で普遍的に成り立つと考えられ、「固有の相関度」による施策と考えることが出来る。 「地域間格差」が大きく、そのレベルアップを図りたい時は、市や自治体の課題として全体の底上げを図るべきであり、住民全体にとって有効な施策を策定し住民に十分PRすることが重要である。また、「地区間格差」があって、底位の地区のレベルアップを図りたい時は、当該市区内の他の地区との関係において、その地区の特性を十分認識し、各項目間の相関度を検討して有効な施策を策定し、実行に移すことが必要である。従って、高齢社会における保健・医療・福祉対策には、当該研究成果にある分析や施策アプローチが有効であると思われるので、研究結果を広く自治体等の施策の基礎資料として公表(報告書の配布)する。

公開日・更新日

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