大都市マイノリティーに対する保健医療サービスの国際比較研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101012A
報告書区分
総括
研究課題名
大都市マイノリティーに対する保健医療サービスの国際比較研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
川口 雄次(WHO健康開発総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場茂明(国際糖尿病教育学習研究所)
  • 多田羅浩三(大阪大学医学部)
  • 前平由紀(WHO健康開発総合研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
都市化のひずみは、都市部における社会経済的弱者(あるいは社会的に脆弱な立場の人々;以下大都市マイノリティーと称する)により重く圧し掛かり、経済面のみならず、社会福祉、公衆衛生対策上からも取り残された状況にあるにも拘らず、研究面からも実際的なデータとして把握されにくいまま、社会の辺縁に追いやられ、社会構造が高度になるにつれてよりその負の影響を潜在化する集団となっている。しかし、そのような大都市マイノリティーに対する保健福祉サービスの供給は、必ずしも当該集団を対象とした特定の支援対策が確立されていると言い得ない状況にある。本研究は、21世紀の健康問題が人口増加を吸収する都市の公衆衛生対策にあると考え、大都市が内包する健康増悪因子の明示と定量化、それを解消するための方策について、上述の大都市マイノリティーを基準とした適正な保健政策を考察するものである。
研究方法
大都市マイノリティーの定義・分類を試み、その健康指標として比較検討する疾病領域を設定し、その保健医療サービスの受給状況を比較検討することとした。
1)国内調査対象区域(大阪・神戸)における大都市マイノリティーの病態調査
大阪地区および神戸地区において、社会経済困窮者が大きく影響を受けるとされる特定の疾病を判断指標にとり、大阪、神戸の大都市マイノリティーの健康問題について、当該都市圏の既存の統計調査資料、有識者への調査、インタビュー調査などによる現状把握を試みた。
2)大都市災害に伴う社会構造の変化と人口動態の推計疫学的研究および復興策の考察 
特定の大都市マイノリティー集団として、神戸については、特に阪神大震災後5年を経過し、未だ震災後の仮設住宅棟に居住する住民について、これらの年復興過程を客観的に数量化し、その人口動態により検討を加え、復興施策に対するリスクとその改善策について考察を試みた。
3)大都市マイノリティーの定義/分類
大都市マイノリティーとして分類される特定社会集団と現行保健衛生対策の対象とされる特定集団を、対策支援上の対象として差別化される所以を明確にするための類別を試みた。
また、国際的な視座からマイノリティーとして分類される特定社会集団との類別を検討した。
4)国内で実施・計画される大都市マイノリティーへの行政施策の検索・総覧
当該大都市マイノリティーに対する公衆・保健衛生対策上の現行政策を検索・網羅することにより、今後拡充されるべき領域への認識を容易なものとするための情報整理を試みた。
結果と考察
結果と考案=1)国内調査対象区域(大阪・神戸)における大都市マイノリティーの病態調査
<大阪地区>
高齢化による救急搬送母集団の総数増大から、当該マイノリティーの全体に占める割合はやや減少傾向にある。しかしながら実数に大きな変動は見られないと思われ、あいりん地区以外の野宿生活者の搬送件数が若干伸びている傾向が示された。患者個々の保健意識については、その自己健康管理が不充分ではあるものの、社会関係性を予想以上にもとめる意識も強く(患者の半数以上が積極的)、年齢にも依存するが将来生活設計については、生活保護を求めたり、関係保健施設への保護を求める傾向が高い反面、就労意欲を持つ者も多かった。保健サービス利用状況については、その検診(レントゲン、血圧・血液検査等いずれでも)に際しては、最近1年間に受診経験のある者が2割程度に留まり、その理由として、必要性を感じないことに加え、受診方法がわからない、機会が得られないなど、医療保険の有無に加えて、その関係支援サービスアクセスの不充分さを指摘する環境が示唆された。
<神戸地区>
(1)社会変遷に伴うライフスタイルの変化と生活習慣病対策の開発と評価法の研究および神戸市住民検診成績を中心とした未治療糖尿病患者の把握
生活習慣に関連する検査項目別統計結果により、1984年から2000年までは健康度の悪化が明らかである。すなわち、女性においては加齢とともに健康度の悪化が問題とされ、閉経の影響が関与することが示唆された。一方、男性においては若年層から肝機能異常、高コレステロール、高中性脂肪、肥満傾向が高く、40歳代で顕著であったことから、加齢現象よりも生活習慣の健康面への影響の大きさが強く反映されていた。
(2)「行旅病人」の実態調査(在神戸医療施設における医療サービス利用状況調査)
行旅病人の殆どは男性患者であり、年齢は50歳台が多く、60歳代、40歳未満、70歳以上がそれに次いだ。経年的に患者数を観察すると、阪神淡路大震災の翌平成8年には減少が見られ、地域においてこの分類に該当する対象者に対しても行き渡る視点で、支援サービス活動が行われた状況が反映されている。患者総数で見ると、年間のうち1,3,9月に外来患者の増加とともに増える傾向にあった。
その病態としては、栄養障害、挫傷打撲、気管支肺炎、肺疾患、アルコール中毒、急性胃腸炎、その他の消化器疾患が多く見られた。
2)大都市災害に伴う社会構造の変化と人口動態の推計易学的研究および復興策の考察
特に高齢者の保健医療サービスの問題点として特徴的であったのは、震災後、復興住宅が被災地に新設された際に、元の居住地への復帰割合が高かったのは、65歳以上の高齢者層であることが示され、また特に被害の大きかった地域(長田、灘区)での復帰割合が高かった。
また、労働能力をもつ若年家族の住居移動(復帰)が高齢者よりも低い点は特徴的である。
3)大都市マイノリティーの定義/分類
近年では、急速な都市化、情報・資源のグローバリゼーションなどに起因して、そういった帰属性を越えて、都市機能を担う混合社会構成員全てが都市経済機能に対して脆弱であると認識せざるを得ない。
4)国内で実施・計画された大都市マイノリティーへの行政施策の検索・総覧
老人(高齢者)、母子保健、精神・身体障害者医療においては、充分とはいえないまでも医療扶助、公的扶助等制度的支援体制の開発が講じられているにもかかわらず、一般社会層から経済的事由や国籍条項によって疎外された社会構造上の健康マイノリティーに関しては、その保健医療政策上の社会支援をもたらす施策が、非常に限られたものであることが改めて認識された。
結論
社会問題となっているホームレス等の社会経済的弱者に対する現状把握や対応は行政機関だけでは不十分である。また、医療におけるマイノリティーは、その名のとおり現状では把握されにくい高リスク集団であるといえる。しかしながら、公的扶助実践のバロメーターとして如実にその関係施策の有用性を測りうるものであるがゆえに、その医療サービス受給状況調査において、重要且つ普遍的な問題を顕在化するに至った。
本研究を通じて、その要保護対象者の生活保護制度が、日本国国民においては、そのナショナルミニマムを補完するセーフティネットとして社会保障制度の土台をなしていると考えられるが、実際の医療の場での機能は、およそ充分な整備状況にあるとはいい難い。
また、いかなる要保護対象においても、その情報格差とその理解度を補うための視点が、全ての関連支援政策において重要となってくる。

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