文献情報
文献番号
200101010A
報告書区分
総括
研究課題名
介護保険導入による市区町村の保健福祉サービスの変容に関する行政学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 健文(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は平成11年度から3ヶ年計画で、平成12年度の介護保険の実施により、全国の市区町村の保健福祉サービスがどのように変化していくかをプロスペクティブに調査し、行政学的に分析研究することを目的としている。そこで、研究最終年度として、介護保険実施の翌年度にあたる平成13年度における市区町村の保健・福祉サービスの供給体制について質問票による実態調査を行い、介護保険実施の前年にあたる平成11年度および介護保険実施年度にあたる平成12年度の調査結果との比較も含め、市区町村の保健・福祉サービスの時系列的変化について検討する。
研究方法
全国の全市町村(671市、1991町、567村、計3252市町村)および東京都特別区(23区)に対して、保健・福祉サービスに関する質問票を送付し、その回答を分析する。併せて厚生労働省の平成11年度「地域保健・老人保健事業報告」から、機能訓練及び訪問指導について共分散構造分析により老人保健サービスのインプットとアウトプットとの関係を明らかにする。
結果と考察
1)介護保険導入による市区町村の保健福祉サービスの変容に関する実態調査
439市(回答率:65.4%)、800町(回答率:40.2%)、197村(回答率:34.7%)、16区(回答率:69.6%)、計1452市区町村(回答率:44.6%)から回答を得た。回答があった市区町村の方が、回答が無かった市区町村に比べ、多少人口規模および65歳以上人口が大きい傾向が見られた。また、老年人口比率に関しては、回答があった市町村と回答の無かった市区町村で大きな違いはなかった。なお、人口に関するデータは、平成12年国勢調査のデータを使用した。総要介護者数は、要支援状態が高齢者100人当り1.68人、要介護状態区分1が高齢者100人当り3.55人、要介護状態区分5が高齢者100人当り1.72人であり、要支援状態を除き要介護状態区分が重くなるにつれて要介護者数が減る傾向が見られた。また、平成12年度の結果と比べた場合、要介護者数の若干の増加が見られた。平成13年度保健事業予算額に関しては、人口一人当りの保健事業予算額の市区町村単純平均が9400円±1万3800円、高齢者一人当りの老人保健事業予算額の市区町村単純平均が1万4800 円±2万2600円であった。地域保健事業予算額に占める老人保健事業予算額の割合は市区町村単純平均で48.7%±31.9%であり、地域保健事業予算額の約半分が老人保健事業に充てられていた。地域保健事業に関しては、平成12年度の結果と大きな違いは見られず、予算額のみから見た場合、地域保健事業は介護保険の導入によって大きな影響は受けなかったと考えられる。高齢者一人当りの平成12年度介護保険会計事業総額は市区町村単純平均で15万6400円±6万2100円、高齢者一人当りの平成13年度介護保険会計予算額は市区町村単純平均で19万5100円±9万2500円であった。介護保険の平成13年度第一号被保険者保険料基準額(月額)は、2779円±443円であった。施設入所者に関しては、介護老人福祉施設および介護老人保健施設ともに、すべての人口規模で平成11年度末に比べ平成12年度末の方が、平均入所者数が増加していた。本結果から見る限り、介護保険の導入によって介護施設入所者が減少したという傾向は見られなかった。平成13年9月30日現在の平均常勤保健婦数は市区町村単純平均で8.7人±17.2人、介護保険専従の平均常勤保健婦数市区町村単純平均で1.0人±1.8人であり、保健婦(士)の配置状況は、介護保険の導入によって大きな影響を受けなかったことが示唆された。さらに、保健婦(士)の活動時間の配分割合の時系列変化についても、ほとんど変化は見られなかった。以上の点から、介護保険の導入は保健婦活動にあまり大きな影響を与えなかったと考えられる。また、介護保険業務における保健婦(士)の主な役割は、認定作業であることが示唆された。各市区町村における老人福祉事業全体の規模が、介護保険の導入によって、どのように変化したかを見るために、平成12年度介護保険給付以外の老人福祉事業決算額に平成12年度介護保険会計決算額を加えたものおよび平成13年度介護保険給付以外の老人福祉事業予算額に平成13年度介護保険会計予算額を加えたものと平成11年老人福祉事業決算額との比を算出してみると、平成12年度が平均225.5%±247.6、平成13年度が平均258.0%±225.8%であり、介護保険の導入により、各市区町村の老人福祉事業の事業規模は約2.5倍になったことが示唆された。介護保険事業が実施された結果、「母子保健事業」、「老人保健事業」、「介護保険対象以外の老人福祉事業」がどのような影響を受けたかについては以下の通りである。実施した事業量に関しては、「母子保健事業」では「減少した」と回答した市区町村に比べ「増加した」と回答した市区町村が3倍以上あり、「老人保健事業」においても増加したと回答した市区町村の方が多かった。事業の質に関しては、いずれの事業でも「低下した」と回答した市区町村に比べ、「向上した」と回答した市区町村の方が多かった。担当常勤職員の実人数に関しては、いずれの事業でも「増加した」と回答した市区町村に比べ「減少した」と回答した市区町村の方が多く、常勤職員の時間外勤務あるいは非常勤職員の就業時間に関しては、いずれの事業においても「減少した」と回答した市区町村に比べ「
増加した」と回答した市区町村の方が多かった。常勤職員の担当業務に関しても、「増加した」と回答した市区町村の方が「減少した」と回答した市区町村よりも多かった。これらのことから、介護保険の導入により、職員の負担は増加したことが示唆された。また、介護保険が導入された結果、各保健事業の質および量がどのように変化したかその組合せを見てみると、母子保健事業では、質および量ともに向上(増加)したと回答した市区町村が全体の17.4%で、質および量ともに低下(減少)したと回答した市区町村(全体の6.3%)よりも多かった。老人保健事業においても、質および量ともに向上(増加)したと回答した市区町村 (全体の19.2%)の方が、質および量共に低下(減少)したと回答した市区町村(全体の6.5%)よりも多かった。また、老人保健事業の質に変化はないが、量が減少したと回答した市区町村が10.4%あることは注目される。介護保険が実施された結果、母子保健の事業量と老人保健の事業量がどのように変化したかその組合せを見てみると、母子保健および老人保健の双方において事業量が増加したと回答した市区町村(全体の14%)の方が、母子保健および老人保健の双方において事業量が減少したと回答した市区町村(全体の3.8%)よりも多かった。母子保健事業の質と老人保健事業の質がどのように変化したかその組合せを見てみると、母子保健および老人保健の双方において質が低下したと回答した市区町村(全体の4.5%)に比べ、母子保健および老人保健の双方において質が向上した回答した市区町村(全体の17.8%)の方が多かった。以上の点から、少なくとも本研究の結果からは、介護保険の導入は保健事業に対しても良い影響を与えていることが示唆された。介護保険の導入によって、もっとも影響を受けた事業としては、老人保健事業あるいは介護保険対象外の老人福祉事業を挙げた市区町村が多く、母子保険事業を挙げた市区町村は少なかった。介護保険の導入により、それ以前に市区町村による介護を受けていた高齢者1人当りの介護量がどのように変化したかについては、「やや増加」を挙げた市区町村が全体の半数以上を占めており、「非常に増加」を挙げた市区町村と併せると全体の80%以上となる。この結果のみから判断するならば、介護保険の利用者負担が、高齢者の介護サービスへのアクセスを妨げているとは言えない。介護保険の導入により、それ以前に市区町村による介護を受けていた高齢者に対する介護の質がどのように変化したかについては、「やや向上」を挙げた市区町村が最も多く、全体の約65%を占めている。以上の点から、介護保険の導入は、保健事業のみならす、介護そのものに対しても良い影響を与えていることが示唆された。介護保険の導入により、介護を受ける高齢者の数がどのように変化したかについては、「増加した」と回答した市区町村が圧倒的に多かった。これは、要介護状態が比較的軽い高齢者が、介護保険の導入をきっかけとして介護サービスを受け始めたためであると考えられる。介護保険の導入によって、保健と福祉の有機的連携がどのように変化したかについては、「やや向上」を挙げた市区町村が最も多く、「やや低下」あるいは「非常に低下」を挙げた市区町村の数は全体の10%以下であることから、介護保険の導入が地域保健サービスあるいは地域福祉サービスに悪影響を与えていると考えている市区町村は少ないものと考えられる。
2)共分散構造分析による老人保健サービス事業量と職種別職員数との関係
対象となる市区町村は、機能訓練が2998市区町村、訪問指導が3247市区町村である。機能訓練についてはA型B型の2種類のパス図を構築し、訪問指導については1種類のパス図を構築した。A型機能訓練被指導延人数が仮に100人増加した場合、機能訓練従事者延人数がどの程度増加するかを職種別に算出すると、A型モデルの非標準化解より、医師0.4人、理学療法士2.7人、作業療法士1.4人、看護婦(士) 3.2人、保健婦(士) 1.3人、その他の職種6.6人となる。B型機能訓練被指導延人数が仮に100人増加した場合、機能訓練従事者延人数がどの程度増加するかを職種別に算出すると、B型モデルの非標準化解より、医師 0人、理学療法士0.3人、作業療法士0.4人、看護婦(士) 4.4人、保健婦(士)3.9人、その他の職種21.4人となる。寝たきり者の被訪問指導延人数が仮に100人増加した場合、訪問指導従事者延人数がどの程度増加するかを職種別に算出すると、訪問指導モデルの非標準化解より、医師0.1人、保健婦(士)46.4人、看護婦(士)47.8人、栄養士2.6人、歯科衛生士3.9人、その他の職種0.9人となる。
439市(回答率:65.4%)、800町(回答率:40.2%)、197村(回答率:34.7%)、16区(回答率:69.6%)、計1452市区町村(回答率:44.6%)から回答を得た。回答があった市区町村の方が、回答が無かった市区町村に比べ、多少人口規模および65歳以上人口が大きい傾向が見られた。また、老年人口比率に関しては、回答があった市町村と回答の無かった市区町村で大きな違いはなかった。なお、人口に関するデータは、平成12年国勢調査のデータを使用した。総要介護者数は、要支援状態が高齢者100人当り1.68人、要介護状態区分1が高齢者100人当り3.55人、要介護状態区分5が高齢者100人当り1.72人であり、要支援状態を除き要介護状態区分が重くなるにつれて要介護者数が減る傾向が見られた。また、平成12年度の結果と比べた場合、要介護者数の若干の増加が見られた。平成13年度保健事業予算額に関しては、人口一人当りの保健事業予算額の市区町村単純平均が9400円±1万3800円、高齢者一人当りの老人保健事業予算額の市区町村単純平均が1万4800 円±2万2600円であった。地域保健事業予算額に占める老人保健事業予算額の割合は市区町村単純平均で48.7%±31.9%であり、地域保健事業予算額の約半分が老人保健事業に充てられていた。地域保健事業に関しては、平成12年度の結果と大きな違いは見られず、予算額のみから見た場合、地域保健事業は介護保険の導入によって大きな影響は受けなかったと考えられる。高齢者一人当りの平成12年度介護保険会計事業総額は市区町村単純平均で15万6400円±6万2100円、高齢者一人当りの平成13年度介護保険会計予算額は市区町村単純平均で19万5100円±9万2500円であった。介護保険の平成13年度第一号被保険者保険料基準額(月額)は、2779円±443円であった。施設入所者に関しては、介護老人福祉施設および介護老人保健施設ともに、すべての人口規模で平成11年度末に比べ平成12年度末の方が、平均入所者数が増加していた。本結果から見る限り、介護保険の導入によって介護施設入所者が減少したという傾向は見られなかった。平成13年9月30日現在の平均常勤保健婦数は市区町村単純平均で8.7人±17.2人、介護保険専従の平均常勤保健婦数市区町村単純平均で1.0人±1.8人であり、保健婦(士)の配置状況は、介護保険の導入によって大きな影響を受けなかったことが示唆された。さらに、保健婦(士)の活動時間の配分割合の時系列変化についても、ほとんど変化は見られなかった。以上の点から、介護保険の導入は保健婦活動にあまり大きな影響を与えなかったと考えられる。また、介護保険業務における保健婦(士)の主な役割は、認定作業であることが示唆された。各市区町村における老人福祉事業全体の規模が、介護保険の導入によって、どのように変化したかを見るために、平成12年度介護保険給付以外の老人福祉事業決算額に平成12年度介護保険会計決算額を加えたものおよび平成13年度介護保険給付以外の老人福祉事業予算額に平成13年度介護保険会計予算額を加えたものと平成11年老人福祉事業決算額との比を算出してみると、平成12年度が平均225.5%±247.6、平成13年度が平均258.0%±225.8%であり、介護保険の導入により、各市区町村の老人福祉事業の事業規模は約2.5倍になったことが示唆された。介護保険事業が実施された結果、「母子保健事業」、「老人保健事業」、「介護保険対象以外の老人福祉事業」がどのような影響を受けたかについては以下の通りである。実施した事業量に関しては、「母子保健事業」では「減少した」と回答した市区町村に比べ「増加した」と回答した市区町村が3倍以上あり、「老人保健事業」においても増加したと回答した市区町村の方が多かった。事業の質に関しては、いずれの事業でも「低下した」と回答した市区町村に比べ、「向上した」と回答した市区町村の方が多かった。担当常勤職員の実人数に関しては、いずれの事業でも「増加した」と回答した市区町村に比べ「減少した」と回答した市区町村の方が多く、常勤職員の時間外勤務あるいは非常勤職員の就業時間に関しては、いずれの事業においても「減少した」と回答した市区町村に比べ「
増加した」と回答した市区町村の方が多かった。常勤職員の担当業務に関しても、「増加した」と回答した市区町村の方が「減少した」と回答した市区町村よりも多かった。これらのことから、介護保険の導入により、職員の負担は増加したことが示唆された。また、介護保険が導入された結果、各保健事業の質および量がどのように変化したかその組合せを見てみると、母子保健事業では、質および量ともに向上(増加)したと回答した市区町村が全体の17.4%で、質および量ともに低下(減少)したと回答した市区町村(全体の6.3%)よりも多かった。老人保健事業においても、質および量ともに向上(増加)したと回答した市区町村 (全体の19.2%)の方が、質および量共に低下(減少)したと回答した市区町村(全体の6.5%)よりも多かった。また、老人保健事業の質に変化はないが、量が減少したと回答した市区町村が10.4%あることは注目される。介護保険が実施された結果、母子保健の事業量と老人保健の事業量がどのように変化したかその組合せを見てみると、母子保健および老人保健の双方において事業量が増加したと回答した市区町村(全体の14%)の方が、母子保健および老人保健の双方において事業量が減少したと回答した市区町村(全体の3.8%)よりも多かった。母子保健事業の質と老人保健事業の質がどのように変化したかその組合せを見てみると、母子保健および老人保健の双方において質が低下したと回答した市区町村(全体の4.5%)に比べ、母子保健および老人保健の双方において質が向上した回答した市区町村(全体の17.8%)の方が多かった。以上の点から、少なくとも本研究の結果からは、介護保険の導入は保健事業に対しても良い影響を与えていることが示唆された。介護保険の導入によって、もっとも影響を受けた事業としては、老人保健事業あるいは介護保険対象外の老人福祉事業を挙げた市区町村が多く、母子保険事業を挙げた市区町村は少なかった。介護保険の導入により、それ以前に市区町村による介護を受けていた高齢者1人当りの介護量がどのように変化したかについては、「やや増加」を挙げた市区町村が全体の半数以上を占めており、「非常に増加」を挙げた市区町村と併せると全体の80%以上となる。この結果のみから判断するならば、介護保険の利用者負担が、高齢者の介護サービスへのアクセスを妨げているとは言えない。介護保険の導入により、それ以前に市区町村による介護を受けていた高齢者に対する介護の質がどのように変化したかについては、「やや向上」を挙げた市区町村が最も多く、全体の約65%を占めている。以上の点から、介護保険の導入は、保健事業のみならす、介護そのものに対しても良い影響を与えていることが示唆された。介護保険の導入により、介護を受ける高齢者の数がどのように変化したかについては、「増加した」と回答した市区町村が圧倒的に多かった。これは、要介護状態が比較的軽い高齢者が、介護保険の導入をきっかけとして介護サービスを受け始めたためであると考えられる。介護保険の導入によって、保健と福祉の有機的連携がどのように変化したかについては、「やや向上」を挙げた市区町村が最も多く、「やや低下」あるいは「非常に低下」を挙げた市区町村の数は全体の10%以下であることから、介護保険の導入が地域保健サービスあるいは地域福祉サービスに悪影響を与えていると考えている市区町村は少ないものと考えられる。
2)共分散構造分析による老人保健サービス事業量と職種別職員数との関係
対象となる市区町村は、機能訓練が2998市区町村、訪問指導が3247市区町村である。機能訓練についてはA型B型の2種類のパス図を構築し、訪問指導については1種類のパス図を構築した。A型機能訓練被指導延人数が仮に100人増加した場合、機能訓練従事者延人数がどの程度増加するかを職種別に算出すると、A型モデルの非標準化解より、医師0.4人、理学療法士2.7人、作業療法士1.4人、看護婦(士) 3.2人、保健婦(士) 1.3人、その他の職種6.6人となる。B型機能訓練被指導延人数が仮に100人増加した場合、機能訓練従事者延人数がどの程度増加するかを職種別に算出すると、B型モデルの非標準化解より、医師 0人、理学療法士0.3人、作業療法士0.4人、看護婦(士) 4.4人、保健婦(士)3.9人、その他の職種21.4人となる。寝たきり者の被訪問指導延人数が仮に100人増加した場合、訪問指導従事者延人数がどの程度増加するかを職種別に算出すると、訪問指導モデルの非標準化解より、医師0.1人、保健婦(士)46.4人、看護婦(士)47.8人、栄養士2.6人、歯科衛生士3.9人、その他の職種0.9人となる。
結論
本研究の調査結果から見る限り、介護保険の導入は、市区町村の保健・福祉サービスに対しては良い影響を与えていることが示唆された。また、共分散構造分析により老人保健サービスのインプットとアウトプットとの関係を明らかにすることができた。
公開日・更新日
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