高齢者の転倒予防活動事業の実態と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101006A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の転倒予防活動事業の実態と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
新野 直明(国立長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 安村誠司(福島県立医科大学)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の転倒予防のための保健活動事業実施状況とその内容、さらには有効性について検討することを目的として、初年度に予備調査をおこない開発した調査票を用い、転倒予防活動事業の実態に関する全国調査を実施した。本年度は、市町村の規模をも考慮しながら、その調査結果をまとめた。
研究方法
「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業に関する実態調査」のための調査票を用いて、日本全国の1574市町村を対象に、郵送法による転倒予防事業の実態調査をおこない、その最終的な結果をまとめた。対象自治体は、全国市町村要覧(平成12年度版)に基づき、特別区と市については全て、その他の町村については全体の1/3を無作為に抽出したものである。調査票は初年度予備調査をおこない開発した「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業に関する実態調査」のための調査票で、その内容は、市町村の特性(65歳以上人口、スタッフ数、など)、転倒予防に対する担当者の認識(転倒予防への興味・関心の程度、など)、転倒予防事業の実施状況(実施の有無、携わる者の資格と人数、事業の内容、実施期間、実施頻度、実施効果の評価の有無、など)、高齢者を対象とする健診・調査活動に含まれる項目、「閉じこもり予防」および「生活機能低下予防」に関する保健事業実施の有無、などについて尋ねるものであった。
また、対象を、中核市以上の大都市部、市部、町村部の3群に分けて結果の分析をおこなった。さらに各群に属する市町村の一つを対象に、転倒予防事業の実際について事例検討を実施した。
結果と考察
全国調査に回答が得られたのは1051市町村であった(回答率67.9%)。90%以上の市町村が、「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業」が重要と考え、また関心もあると回答した。しかし、この1年間に該当する事業を実施していた市町村は全体の50.6%あった。転倒予防事業の内容では、「転倒予防に関する講話(82%)」と「体操(66%)」が目立って多かった。なお、市町村が高齢者に対し実施している健診・調査の項目では、転倒の危険要因として重要な、視力、聴力、握力、歩行機能、転倒既往などに関する調査、検査を実施している市町村は10%前後だった。各種転倒予防事業の評価については、「評価している」と回答した市町村の割合が高かった事業は「健診・調査」、「筋力トレーニング」、「転ばないための歩き方教室」などで、低かったものは「広報などの資料配付」であった。事業の効果については、回答が得られた自治体は139市町村と少なかったが、そのうちの120市町村(86.3%)は何らかの「効果があった」と答えていた。転倒予防事業を「実施していない」理由としては「運営指導プログラムがわからない」「スタッフがいない」などが多かった。
大都市部についての検討は、8政令指定都市、18特別区、23中核市の計49都市を対象におこなった。全ての都市が「転倒予防を目的とした保健事業」の重要性を認識し、関心も有していた。また、この事業を実施していると回答したのは34都市(69%)であった。政令指定都市N市の転倒予防事業である転倒予防教室の具体的な内容も示した。
市部の調査では、全国の438市から回答が得られた。転倒予防事業を実施している市は238(54.3%)であった。人口規模と転倒予防事業の実施の有無に有意な関連はなかった。転倒予防事業の重要度が高いと考える市ほど転倒予防事業実施割合が有意に高くなっていた(p< .01)。福島市の転倒予防事業の実態について事例報告もおこなった。
町村部の検討は、516町村を対象におこなった。92.2%が転倒予防が重要と回答した。人口規模が小さく高齢化率の進んだ町村は、転倒予防が重要であると回答する傾向が強かった。また、9割強の町村が高齢者の転倒予防に関心をもっていた。ただし、町村の人口規模による差は見られなかった。ただし、転倒予防事業実施率は47.5%であった。宮城県A町における転倒予防事業についての事例報告もおこなった。
全国1051市区町村における「転倒予防を目的とした保健事業」の実態調査結果をみると、市町村担当者の同種事業に対する重要性の認識や関心の程度は極めて高いものであることがわかる。これは、大都市、市部、町村部と分けて分析しても同様であった。しかし、実際にこの1年間に「転倒予防を目的とした保健事業」を実施した市町村は全体の約半数であった。町村などに比べ実施率が高い大都市部でもその割合は69%であり、転倒予防事業は地域への普及は決して完全ではないと言えるだろう。
転倒予防事業が不十分であることは、市町村が行っている高齢者を対象とした健診・健康調査活動に取り入れられている内容からも推測できる。たとえば、「転倒経験」であるが、これは高齢者の転倒を予測する要因として有用なことが知られている。しかし、今回の調査結果をみると転倒経験そのものを調査している市町村は全体で10%程度であった。大都市部でも30%程度であり、比較的簡単に転倒のハイリスク群を同定しうる項目が健診、調査にふくまれてないことは、やはり、市町村の転倒予防への取り組みに改善する余地があることを示すであろう。
転倒予防事業の評価については、実施している市町村は多くはなかった。また、事後評価がほとんどであり、その科学的根拠は希薄であった。地域の実態に即した転倒予防事業の推進と「評価」の導入に加えて、自治体の健康づくり担当者に対する「評価法」に関する知識、技術の普及も急務であろう。また、事業は効果があったとする回答が多かったが、回答の得られた自治体の数が極めて少なく、今回の結果のみから事業の効果があったと判断することは難しいと考えられる。
転倒予防を実施していない理由としては、「運営指導プログラムがわからない」が多く、今後のプログラムの開発と提供が多いに期待されるところである。また、大都市部を除き、「スタッフの不足」を理由とする市町村も多く見られた。プログラム開発をする際に、どのような職種がどの程度の数必要かをも十分に検討し、適切な人材を可能な限り必要な規模で配置していくことも重要な今後の課題となるであろう。
結論
全国の自治体を対象におこなった転倒予防活動事業の実態調査の最終結果をまとめた。調査は「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業に関する実態調査」のための調査票を全国から抽出した1574自治体に郵送する形式で実施された。最終的に1051の市町村から回答が得られ、自治体における転倒予防事業の重要性に対する認識、関心は高いが、実際の事業実施状況には改善の余地があることが示された。対象を、中核市以上の大都市部、市部、町村部の3つに分けて結果を分析したが、若干の差異はあったものの、ほぼ同様の傾向が認められた。

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