がん患者の痛みに対するモルヒネ適正使用の推進に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101004A
報告書区分
総括
研究課題名
がん患者の痛みに対するモルヒネ適正使用の推進に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
平賀 一陽(国立がんセンター中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 大橋京一(浜松医科大学)
  • 村国 均(東邦大学医学部)
  • 篠 道弘(国立がんセンター中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
モルヒネによるがん疼痛治療成績の向上のためには、痛みの評価・治療効果の評価、モルヒネの薬物体内動態や薬物代謝に関する情報、適正な rescue doseの投与量、適切な副作用対策が科学的に実施されることが必要であり、以下のことを研究目的にした。
①治療効果の評価
患者が伝達した VAS値の変化を医療者が判定する鎮痛薬の鎮痛効果の評価に反映させる妥当性の検討を行う。
②モルヒネ代謝率測定
がん疼痛患者でのモルヒネ代謝率(酵素活性)を算出する。
③M6Gの消化管運動に及ぼす影響
モルヒネの代謝産物であるmorphine-6-glucuronide(M6G)の消化管運動に及ぼす作用をモルヒネを対照に検討する。
④モルヒネの鎮痛効果と嘔気・嘔吐作用
フェレット (白いたち) を用いてモルヒネにより誘発される嘔気・嘔吐作用を詳細に検討する。
⑤適正なrescue doseの検討
徐放性モルヒネ製剤を服用中のがん患者を対象として、主に突発痛への対処を目的に使用されているrescue doseの、徐放性モルヒネ製剤の1日服用量に対する割合や服用量ならびに服用間隔などについて調査する。
研究方法
①治療効果の評価
何らかの理由で鎮痛薬を変更または増量した場合、それに伴う VAS値(以下鎮痛薬投与後値)の変化をもとに、変更または増量した鎮痛薬の治療効果を「著効」、「有効」、「やや有効」、「無効」の4カテゴリーでこの鎮痛薬投与の効果を評価する状況を設定した。
縦方向に鎮痛薬投与前の VAS値を、横方向に鎮痛薬投与後の VAS値をとった、121セルのマトリックス表の各セルに、記載者の評価による鎮痛薬投与効果に該当する記号(◎:著効、○:有効、△:やや有効、×:無効)の記入を依頼することによりデータを得た。
調査の集計に際しては、各回答の最頻値(最多数を占めた回答)を求めるとともに、「著効」、「有効」、「やや有効」、「無効」の四つのカテゴリーそれぞれ1、2、3、4のスコアを与えて平均値等を算出した。
②モルヒネ代謝率測定
がん疼痛患者で、硫酸モルヒネ徐放製剤を経口投与されている患者、塩酸モルヒネ注射液の持続点滴を受けている患者を対象に、血中モルヒネ濃度が定常状態に達した時点で採血を行った。
③M6Gの消化管運動に及ぼす影響
ビーグル犬を全身麻酔下に開腹し消化管運動記録用フォーストランスデューサーを胃前庭部、十二指腸、小腸の各漿膜筋層内に固定し、背側皮下に導き平型ケーブルに接続し犬用ジャケット内に留置する。2週以降に無拘束・意識下の消化管運動を収録解析用ソフト上に記録した。観察対象は嘔吐の有無、amyogenesiaなどである。
各薬剤は生理食塩水10mlに溶解し約10秒で前肢静脈内に投与する。また持続投与法を追加した。M6G投与量は4、20、100、200microg/kg(Bolus)および1、4、20、40、400microg/kg/hで、モルヒネ投与量は:4、40、100、400microg/kg(Bolus)および4、20、40microg/kg/hとした。
④モルヒネの鎮痛効果と嘔気・嘔吐作用
フェレットを用いて、モルヒネ (0.1、0.3、0.6、1.0、1.7および3mg/kg, s.c.) による嘔気・嘔吐の回数、エピソード数 (嘔気から嘔吐に至るまでの回数)、潜時および発現率を測定した。モルヒネ 0.6 mg/kg を 1 週間反復投与し、毎日上記の指標を測定・観察し、またその耐性形成についても検討した。
⑤適正なrescue doseの検討
徐放性モルヒネ製剤とともに、モルヒネ水が処方されていた患者を対象とした。実際に服用した徐放性モルヒネ製剤の服用量の1日総量とともに、モルヒネ水の服用量と服用時刻を調査し、徐放性モルヒネ製剤の1日総量に対するrescue doseの割合を把握するため、モルヒネ水として服用したモルヒネ量を徐放性モルヒネ製剤の1日総量で除した値を算出した。
結果と考察
①治療効果の評価
医師・看護婦に、鎮痛薬投与前後の VAS値変化を鎮痛効果(著効、有効、やや有効、無効)としてどのように捉えているのかを調査・検討した結果、鎮痛薬投与前 VAS値が0から3cmのときは、鎮痛薬変更により VAS値が不変であれば有効と考えていた。
痛みがコントロールされていない状態で鎮痛薬を増量または変更した場合は、 VAS前値が4cmのときは1cm以上の減少、 VAS前値が5から6cmのときは2cm以上の減少、7または8cmのときは3cm以上の減少、9cmのときは4cm以上の減少、10cmのときは5cm以上の減少が有効であるという結果であった。
②モルヒネ代謝率測定
モルヒネ経口製剤群の代謝率は静脈投与群の約2.5倍であり、経口投与時では腸管粘膜における代謝酵素の関与が大きいことが示唆された。いずれの投与経路においても代謝率は10倍近い個人差を認めた。
③M6Gの消化管運動に及ぼす影響
4microg/kgのM6GとモルヒネはM6Gのみ嘔吐を誘発し、M6Gの嘔吐誘発作用は4microg/kg/hから認められた。amyogenesiaはM-6-Gが2倍量のモルヒネより遷延した。M6Gは低濃度から高濃度まで即時型嘔吐を誘発しamyogenesiaは遷延したが、再び発現してくるMMC周期に影響はなかった。M6Gは同用量のモルヒネに対して消化管運動機能異常を誘発する可能性がある。
④モルヒネの鎮痛効果と嘔気・嘔吐作用
モルヒネ 0.3-1 mg/kg をフェレットへ皮下投与することにより、用量依存的な嘔気・嘔吐の回数およびエピソード数の増加を示したが、鎮痛用量の 1.7-3 mg/kg では嘔気・嘔吐は認められなかった。また、モルヒネによる嘔気・嘔吐の発現潜時は、投与後5分前後であった。一方、嘔気・嘔吐を発現する最大用量であるモルヒネ 0.6 mg/kg を 1 週間投与した結果、投与開始 4 日目まで嘔気・嘔吐の発現が認められたが、投与後 5 日目より有意な嘔気・嘔吐の減弱が認められ、耐性の獲得を確認した。
⑤適正なrescue dose
徐放性モルヒネ製剤およびrescue doseとしてモルヒネ水を同日内に内服した患者は158名であった。
1)rescue doseの服用量
rescue doseの1回当たりの服用量として最少量は2mgであり、最大量は90mgであった。
2)rescue dose係数の分布
rescue dose係数の平均値は24.28%であり、最小値は2.00%で、最大値は100.0%であった。
徐放性モルヒネ製剤の1日総投与量が60mg以下の場合のrescue dose係数は、16.67%が39通り、25.00%が41通り、33.33%が35通り、50.00%が47通りと多かった。
一方、徐放性モルヒネ製剤の1日総投与量が60mgを上回る場合のrescue dose係数は、5.56%が6通り、6.67%が6通り、8.33%が16通り、10.0%が5通り、11.11%が18通り、12.50%が5通り、16.67%が22通りが多かった。
3)rescue doseの服用回数と服用間隔
1日当たりのrescue doseの服用回数が最も多かったのは9回(2名)で、8回の患者は2名、7回が2名、6回が7名で、5回は13名であった。rescue doseの服用間隔の最短時間は18分であり、次に服用間隔が短かった例は20分であり(2名)であった。
結論
①治療効果を正確に評価した上でのrescue doseの量、投与期間を定める必要がある。
②モルヒネ投与時の副作用である嘔気・嘔吐は鎮痛効果を示すモルヒネ量より少ない量で発現する。
③M6Gはモルヒネより嘔吐作用が強いので、モルヒネ代謝率の個人差が副作用発現に関与している可能性が示唆された。

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