薬物乱用・依存等の実態把握に関する研究及び社会経済的損失に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200101002A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物乱用・依存等の実態把握に関する研究及び社会経済的損失に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
和田 清(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 和田 清(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 尾崎 茂(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 庄司正実(目白大学人間社会学部)
  • 相星淳一(日本医科大学高度救命救急センター)
  • 平林直次(国立精神・神経センタ-武蔵病院)
  • 森田展彰(筑波大学社会医学系)
  • 池上直己(慶応大学医学部)
  • 妹尾栄一(東京都精神医学総合研究所)
  • 宮永 耕(東海大学健康科学部)
  • 石橋正彦(十全病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の薬物乱用・依存状況を把握し、薬物乱用・依存対策の基礎資料を提供することを第1の目的とし、薬物乱用・依存が及ぼす社会経済的損失の算出を第2の目的にした。
研究方法
<研究1:薬物乱用・依存等の実態把握に関する研究>1-①層化二段無作為抽出法により選ばれた全国の15歳以上の住民5,000人に対して、戸別訪問留置法による「薬物使用に関する全国住民調査」を実施した。1-②WHO:ATS(アンフェタミン型中枢刺激剤)プロジェクトを継続的に施行し、「覚せい剤精神病」42例について検討した。1-③児童自立支援施設3施設の入所児に対して、ブタン乱用について予備調査を行った.1-④某救命救急センターに搬入された患者の尿をunlinked anonymous法にて抽出し、乱用薬物スクリーニング検査の感度を検討した。1-⑤某救命救急センターに搬送された患者の血液・尿をunlinked anonymous法にて抽出し、REMEDi-HSRにて薬物検出を実施した。1-⑥DARCの利用実態および有効性を調べるための基礎資料記録システムを作成し、利用者の多次元的評価による実態把握とDARCプログラムの有効性の評価、及び心理教育プログラム導入を試みた。<研究2:社会経済的損失に関する研究>2-①マクロ的損失(社会全体に及ぼす損失)に関する調査法を検討した。2-②個人的損失に関する調査法を検討した。2-③低所得状態にあるDARC薬物依存者に対する生活保護制度の運用実態を調査した。2-④薬物依存症と精神分裂病との医療資源の消費量の違いを診療報酬明細書の医療費データをもとに検討した。
結果と考察
<研究1:薬物乱用・依存等の実態把握に関する研究>1-①違法薬物の生涯経験率は、有機溶剤(1.6%)、大麻(1.0%)、覚せい剤(0.3%)、コカイン(0.1%)、LSD(0.1%)、ヘロイン(0.06%)であった。いずれかの薬物の生涯経験率と言う見方をすると、20歳代では5.8%、30歳代では4.9%と高く、特に男性に限れば、20歳代で7.4%、30歳代で9.5%にものぼった。大麻の生涯経験率は1995年に本調査が始まって以来着実に増加していた。1-②単身者が多く,離婚経験者が約20%で,60%前後が失業中など,不安定な生活基盤がうかがわれた。全体の80%以上が逮捕・補導歴を有し,そのうち60~70%が薬物関連であった。HCV抗体陽性は全体の約40%にみられたが,HIV抗体陽性者は認められなかった。覚せい剤関連精神疾患は,女性の方がより早期に事例化しやすい傾向を有していた。薬物関連障害に特化した入院・外来治療プログラムや,医療機関外でのリハビリテーションプログラムを含めた社会資源の充実の必要性が示唆された。1-③乱用ガスの種類は,詰替用ターボライターガスが約80を占めていた。約70%台の者が袋などに噴射して吸入していた。ブタン乱用による精神症状の発現数は,男性2人(22.2%),女性19人(54.3%)であった.ブタンと有機溶剤の合併乱用者では,有機溶剤の方を乱用薬物として好む者が多かった.理由としては有機溶剤の方が酩酊感が強いこと,幻覚作用が強いことなどがあげられていた.一方,ブタン乱用を好む者ではその理由として手軽であることが挙げていた.1-④2種類の簡易スクリーニング検査Tox/SeeTM及びTriage?8による結果を確認分析(GC/MSとLC/MS)すると、それぞれ6例のfalse negativeが認められ、全例がbenzodiazepin
esであった。また、false positive例はTox/SeeTM7例、Triage?88例で、陽性薬物はbenzodiazepines、opiates、methadone、methamphetamineで、薬物の代謝産物や検査キットの抗体特異性によって影響された可能性が推定された。1-⑤対象151名中64名(42.4%)から何らかの薬物が検出された。Methamphetamineは151名中4名(2.65%)から検出された。10歳未満の小児、55歳以上の成人、高齢者には、非合法薬物の依存・乱用者は含まれていなかった。今後、乱用頻度の低い非合法薬物の乱用率をモニターするためには、尿検体を用いて10歳以上55歳未満の90名~120名を対象に調査を行えばよいことが明らかとなった。1-⑥神経心理テスト(BVRT,WFT,WCST)により、神経心理学的機能の低下、抑うつ・混乱の強さ、陽性・陰性症状保有者の存在(数割)、PIL得点の低さを認めた。有機溶剤乱用歴が1年以上の群は1年未満の群より前頭葉機能が有意に低下し、陰性症状が増大していることが認められた.断薬期間による比較では、断薬期間が長くなるに従い認知機能は回復し、それに伴い自らの心理状態への自覚や底つき感が生まれ、活気やスピリチュアリティは低下すると考えられた.<研究2:社会経済的損失に関する研究>2-①欧米諸国での薬物乱用・依存の経済的損失の推計を収集し、その内容を検討すると共に、疾病に伴う経済的損失(Cost of Illness)の推計の方法論上の課題について検討した。また、推計に必要となるデータの収集を開始した。2-②試行的な調査票に基づくインタビューにより、直近の薬物使用事情は患者本人がある程度記憶しているものの、数年以上前の状況を回想するのは困難を伴うこと、使用頻度と薬物購入単価の推移を正確に記録するこは困難であることが明らかとなった。2-③生活保護の運用は一般扶助原則に基づく最低生活保障制度であるために、薬物依存者を対象とした取り扱いの指針は現在まで明確になっていなかった。多くの福祉事務所では、先行する自治体での運用事例等を手がかりに要領が作成されていたが、マニュアルの内容にも地域の状況を反映して差異が認められた。アルコール依存症ケースに比べて、処遇のための社会資源が乏しく、入寮者の指導はダルクに任せる他はない実態の中で、福祉事務所側はダルクを利用する薬物依存者ケースの保護取り扱いについての明確な指針・拠り所を求めていた。2-④精神分裂症の方が薬物依存症に比べて、入院1回あたりの医療費(総医療費)が有意に高かったが、それは精神分裂症の方が入院期間が長いためであった。入院1日あたりの医療費は、精神分裂症と薬物依存症の間で有意な差はなかった。薬物乱用・依存症等の患者は、他の一般精神疾患患者に比べ、多くのマンパワーと充実した医療チーム、濃厚な医療が必要でありながら、入院1日あたりの医療費は精神分裂病と同様であり、今後医療チームを充実させていく上での診療報酬制度の改訂が望まれる結果であった。
結論
<研究1:薬物乱用・依存等の実態把握に関する研究>2001年のわが国での違法薬物乱用状況は、多くの先進諸国に比べれば良好である。しかし、大麻の生涯経験率が着実に増加しており、また、青年層での各種薬物の入手可能性は高まっており、決して楽観できる状況とは言えない。ガス吸引は入手のしやすさ、乱用のしやすさから、児童自立支援施設児では約80%が詰替用ターボライターガスを使用していた。救命救急センター受診者の2.7%から覚せい剤が検出された。薬物乱用状況の現状を維持し、できれば廃絶を目指すためにも、気の抜けない状況にあると推定できる。<研究2:社会経済的損失に関する研究>社会経済的損失の算出には、各種基礎データが必要であり、現状では入手困難なものが多いことが明らかとなった。しかし、医療費に関しては詳細な結果が得られ、薬物関連精神障害患者と精神分裂病との比較では、総医療費を規定する最大の因子は入院日数であることが判明した。薬物関連精神障害患者の医療的処遇上、最も問題となるのは患者の対人関係的反社会性から派生する管理上の問題であり、今後はこの質的問題を経済的にどう扱っていくかへの提言が重要になると考えられた

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