医療放射線の防護の最適化及び被ばく線量の低減化方策に関する研究

文献情報

文献番号
200100999A
報告書区分
総括
研究課題名
医療放射線の防護の最適化及び被ばく線量の低減化方策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
油野 民雄(旭川医科大学放射線医学教室教授)
研究分担者(所属機関)
  • 草間 経二(日本アイソトープ協会総務部放射線安全課長)
  • 細野眞(埼玉医科大学総合医療センター付属病院講師)
  • 吉川 京燦(放射線医学総合研究所医長)
  • 岡本 浩一郎(新潟大学医学部付属病院放射線部助教授)
  • 成田 雄一郎(千葉県がんセンター放射線治療部物理室主任)
  • 小林 一三(国立埼玉病院放射線科技師長)
  • 渡辺浩(横浜労災病院放射線科主任技師)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
IAEA及びWHOなどは協同でBSSの具体的なガイダンスを提供するため規制当局と他の規制委員の国家団体に向けた“医療被ばくにおける放射線防護(安全指針)"DRFT SAFETY GUIDE(DS22)を示した。
本研究は,このDS22に盛り込まれている医療被ばくの正当化と最適化に関する要件を、わが国の医療放射線防護体系の枠組への取り入れに関する検討について、DS22をいち早く取り入れている欧州連合(EU)の“医療被ばくに関連した電離放射線の危険に対する個人の健康防護に関する指令書(97/43/EURATOM(MED))"の解析、この指令書の取り入れ状況に関する実態調査、わが国の医療被ばくの調査及び医療法施行規則改正後の解釈等の総合的な検討を行って、国際勧告及び指針との整合性を図り、患者の不適切な被ばく線量の低減、患者への合理的線量での最適な診断効果を目指したわが国独自の規制体系を確立することに資する目的である。
研究方法
1年目:(1)医療被ばくの最適化・低減化の一層の充実を目指して、2000年9月に国際原子力機関(IAEA)と世界保健機構(WHO)が中心となって作成された“DRAFT SAFETY GUIDE(DS22)医療被ばくにおける放射線防護(安全指針)"(2000年9月採択)を翻訳するとともに、国際基準、欧州指令書、ガイドライン、諸外国の法令等を検索し重要なものを翻訳した。検索に当たっては、IAEAやICRPから出版されているものをはじめ、欧州連合(EU)、英国放射線防護庁(NRPB)、米国原子力規制委員会(NRC)、ドイツ原子力エネルギー環境省(BMU)が示している指令書、法令、規則及びOPRI研究所の広報誌を収集し分析した。(2)IVR手技の実施状況に関する文献調査、代表的手技による被ばく線量の測定に関する実態調査及び放射線障害の事例報告の収集及び分析を行った。また、線量測定法については、繰り返しIVR等による患者の被ばく線量の評価が可能な方法として、2種類のPLD (Photoluminescence Dosimeter)及び低エネルギー補償用Snフィルタを組合せた3種類の3素子について検討した。(3)行政機関及び医療機関における医療法施行規則改正後の疑義及び問題点を明らかにするため、アンケート調査表を作成した。平成13年度は、主に北海道及び関東圏の行政機関及び医療機関を中心にアンケート調査を実施した。調査対象者は、医療機関の放射線管理実務者、医療行政の医務担当者及び医療監視員(放射線管理担当)の両者とした。なお、本年度のアンケートの内容は、改正法令の認識程度を把握することを主眼としたが、特に行政担当者に対しては、専門分野、専門知識の有無及び研修などの必要性についても調査した。
結果と考察
(平成13年度目)(1) 医療被ばくにおける放射線防護を記載している国際基準、欧州指令書、ガイドライン、諸外国の法令等を検索し重要なものを翻訳した。患者の不適切な被ばく線量を減らすこと、患者への合理的線量での最適な診断効果を目指すことにより、医療設備のスタッフの義務、責任、資格に関する規定等の4種類の要件について追求され、規制当局及び専門家機関に対して、① 医療被ばくの正当化、② 医療被ばく防護の最適化、③ 線量拘束値、 ④ 事故的医療被ばくの報告と調査及び最適化の実施に当たって考慮しなければならない点を具体的に示している。来年度以降は、DS22及び97/43/URATOMの考えを既に取り入れている英国で作成されたMedical and Dental guidance notesの解析、フランス及びドイツでの取り組み方法及びその結果の調査、米国でのガイドラインの調査を実施し、日本の医療現場にあった医療放射線防護の概念と、診断参照レベル、品質保証プログラムをはじめ必要な実施可能な防護基準の作成、および必要な法令改正内容を抽出する計画である。
(2) 医療放射線の防護に関する欧州連合の指令書である97/43/EURATOMの取り入れ状況、特にフランスにおける取り組み状況を調査した。IAEAは各国の状況に応じた「ガイダンスレベル」(「診断参照レベル」とも言われる)を確立するために、規制当局は各地区、国で学会等の専門家組織の支援を受けて線量測定をすることを求めている。これに従って、フランスではOPRIを中心にSFRとSFBMN(フランス生物物理学・核医学会)によって共同でガイドライン策定作業が進められている。医療放射線防護における正当化、最適化に欠かせない280の臨床課題についてガイダンスレベルが策定されつつある。このOPRIを中心とした取り組みは、わが国への国際的な勧告を取り入れに当たり参考となるものであり、引き続きガイドラインの分析等の作業を進める計画である。
(3) 医療被ばくにおける放射線防護(安全指針)(DRAFT SAFETY GUIDE)(DS22)を翻訳し、内容を解析した。このDS22の目的は、医療被ばくを考慮した“電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準(Basic Safety Series No.115)"(BSS)の基本要件と調和を保証する方法と協力態勢を明確にするために、公的な管理及び専門家機関に対する実践的なガイダンスを提供することを目的としており、規制当局及び規制の枠組み以外の組織に対して必要な基準を提示している。このうち、患者被ばくの最適化の要件として、診断における医療被ばくのガイダンスレベルの確立、放射線装置に関する承認検査、放射線装置の校正及び医療における過剰被ばくに関する報告義務などが含まれており、医療被ばくに対する責任等8項目の要件について記載されている。来年度は、DS22とBSSとの関連及び規制の枠組みの考え方を詳細に解析し、わが国の規制体系への取り入れに当たって、医療放射線防護の概念及び防護体系の確立、診断参照レベル、品質保証プログラムをはじめ実施可能な防護基準の作成など、法令改正に必要な内容について検討する計画である。
(4) 代表的IVR手法による医療被ばくの線量測定及び全国実態調査に関する基礎的調査を実施した。代表的なIVR手技は、血管系と非血管系に大別され、血管系は薬物注入、塞栓術などであり、非血管系は穿刺・ドレナージ、経皮針生検及びステント留置などに用いられていた。IVRによる患者の被ばく線量は、電気生理学的検査及び焼灼術などの循環器領域での手技で高い傾向があり、短時間で複数回繰り返すIVR手技の患者の皮膚線量が非常に高いことが示された。また、現在まで報告されているIVRによる放射線障害例のすべては皮膚炎であるが、必ずしも線量測定が十分に行われていないと推定される。従って、IVRにおける被ばく線量の把握等を行うためには、高線量被ばくになりやすい手技を中心に調査することが重要と思われる。その際、被ばく線量を推定する測定法の確立が望まれる。
(5) 患者に対して診断及び治療にかかる被ばく線量の適正な測定は、放射線装置の適正診療及び装置の品質管理の確保において重要である。本分担研究は、医療現場で利用可能な線量の簡易的測定法を確立するため、線量直線性、読み取り再現性及び線量場に対する応答特性について検討した。その結果、エックス線CT撮影に用いられる管電圧 130kVpについては、3種類の線量計のうちGD-352M素子が良好な線量直線性を示した。また、GD-351についても読み取りのばらつき及び線量応答性が優れていた。一方、診療用高エネルギー放射線発生装置の管電圧4MeVにおけるX線場では、GD-352MとGD-351の両素子で近似の線量値が得られたが、10MeVのX線場では、両方の素子で40%程度過大評価となり、測定素子の高エネルギーX線場での物理特性が異なることを示した。この点については、測定素子の改良などを含めてさらに検討する必要があると考える。
(6) 平成13年4月1日施行された医療法施行規則改正は、平成13年3月12日医薬発第188号の医薬局長通知に示されているように、ICRP 1990年勧告の取り入れ、エックス線装置等の防護基準の見直し、新しい医療技術への対応である。この規則改正に伴って医療現場で生じた問題に対して調査研究を行い、医療行政に対して実用的、かつな実態に即した解釈を試み、① 第30条 エックス線装置等の防護基準に関する責任は、設置時は製造者、設置後は使用者が負うことであること。② 第30条の2(診療用高エネルギー放射線発生装置の防護)第2号「照射終了直後の不必要な放射線からの被ばくを低減する対象者は、保守又は修理を行う作業者を指していること。③第30条の13(注意事項の掲示)「放射線障害の防止に必要な事項の掲示、」は、放射線診療従事者及び患者に対する注意事項であること。④ 第30条の21(エックス線装置等の測定)「透視用エックス線装置の出力測定」は、自主点検項目として行うことなど、以下資料に示すQ&Aの通りであるが、次年度は、線量評価に関する解釈等について検討する予定である。
(7) 平成13年4月1日施行された医療法施行規則の一部改正に伴い、医薬発第188号による医薬局長通知が平成13年3月12日に発出された。本研究では、施行規則改正後の医療現場で出されている疑問点について、医薬発第188号通知を中心として抽出し、この疑義に対する解釈を試みた。その結果、エックス線装置を中心とした届出事項及びしゃへいの再評価の報告に関する事項が最も多く出された。次に、3月間の線量評価と測定に関する問題、吸収補正に関する取扱に関する問題、サーベイメータの校正が多く出された。また、医療法施行規則で規定していない健康診断と教育訓練の考え方及び対応。さらに、女子に対する除外の対処に関する問題も十分な解釈が十分されていないように思われた。以上に関して49の質問に対して、適切な理解が得られる方向性を示した。次年度は、さらに疑義抽出の範囲を広げて、医療における放射線管理に寄与するための検討を行う計画である。
結論
本研究における患者の合理的線量による最適な診療効果を図るための要件をわが国の医療被ばく防護体系の枠組みへ取り入れに関する検討として、DS22及びDS22をいち早く取り入れているEU連合の97/43/EURATOM指令書、国際基準、ガイドライン及び欧米諸国の法令等の検索、IVR手技の実施状況及び線量評価及び医療法施行規則の実施状況に関する調査を行った。その結果、諸外国の管理システムの、すなわち、医療被ばくの正当化、医療被ばく防護の最適化、線量拘束値等が確立されていることが明らかとなった。また、IVRの実施状況を調査及び線量評価については、IVRによる患者の被ばく事故のほとんどが、皮膚炎であった。このため医療現場で患者の被ばく線量を適切かつ簡易に評価できる測定法の確立すること。さらに、医療被ばくの正当化及び防護の最適化を適用する場合、医療現場及び立ち入り検査員等の教育・訓練制度の確立等が求められることも明らかとなった。
来年度以降は本年度の結果を基礎として、医療放射線の適正診療に関する基本要件について、わが国の規制体系、基準及びガイドライン等に利用可能な具体的な提案を行う計画である。
平成13年度厚生科学研究補助金(医薬安全総合研究事業)
医療放射線の防護の最適化及び被ばく線量の低減化方策に関する研究
1.総括報告書
○ 主任研究者 油野 民雄(旭川医科大学放射線医学教室教授)
2.医療放射線防護に関する国際機関の勧告・指針等の解析に関する研究
○ 分担研究者 草間 経二(日本アイソトープ協会総務部放射線安全課長)
3.医療放射線防護に関する諸外国における規制・基準に関する研究
○ 分担研究者 細野眞(埼玉医科大学総合医療センター付属病院講師)
4.医療放射線の防護に関する諸外国の法体系に関する研究
○ 分担研究所 吉川 京燦(放射線医学総合研究所医長)
5.IVRにおける医療被ばくの実態調査に関する研究
○ 分担研究者 岡本 浩一郎(新潟大学医学部付属病院放射線部助教授)
6.医療放射線発生装置等の品質管理の制度化に関する研究
○ 分担研究者 成田 雄一郎(千葉県がんセンター放射線治療部物理室主任)
7.医療法施行規則改正に伴う医療行政等で利用可能な実用的ガイドライン構築に関する研究
○ 分担研究者 小林 一三(国立埼玉病院放射線科技師長)
8.医療法施行規則の改正に伴う医療現場における疑義抽出に関する研究
○ 分担研究者 渡辺浩(横浜労災病院放射線科主任技師)

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