院内感染を防止するための医療用具及び院内環境の管理及び運用に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200100997A
報告書区分
総括
研究課題名
院内感染を防止するための医療用具及び院内環境の管理及び運用に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成13(2001)年度
研究代表者(所属機関)
山口 惠三(東邦大学医学部微生物学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 太田美智雄(名古屋大学医学部微生物学教室)
  • 武澤 純(名古屋大学医学部救急医学教室)
  • 仲川義人(山形大学医学部薬剤部)
  • 岩本愛吉(東京大学医科学研究所感染免疫内科)
  • 一山 智(京都大学医学部臨床生体統御医学)
  • 河野 茂(長崎大学医学部第二内科)
  • 大久保 憲(NTT西日本東海病院外科)
  • 佐々木 次雄(国立感染症研究所安全性研究部無菌制御室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成13(2001)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
院内環境には耐性菌を含む種々の病原体が存在し、これらが、様々な医療行為を介して院内感染の原因になっていることは周知の事実である。MRSAや多剤耐性結核菌などを代表とする耐性菌の他に、ヘリコバクター、新型肝炎ウイルス、HIV、などによる新興感染症の出現は大きな社会問題となっている。さらに最近では、内視鏡、透析・腹膜透析、血管留置カテーテルといった医療用具を介した感染、あるいは院内環境に関連した院内感染例の増加が報告され、多くの医療施設でその対応をめぐり混乱が生じていることも事実である。このような状況のなかで、実際の臨床の場に則した具体的かつ機能的院内感染対策ガイドラインの作成は社会的要求となっている。すでにいくつかの学会が内視鏡、透析などそれぞれの分野におけるガイドラインを作成しているが、現時点においてこれらが効果的に機能しているとは言えない状況にある。本研究では医療用具及び院内環境に関連した感染症を総合的見地から解析するとともに、具体的かつ実践的な院内感染対策ガイドラインの作成を行なう。完成されたガイドラインは、班員が関係する学会・組織などを通じて広く全国の医療機関に普及させることにより、国民医療の向上に大きく貢献できるものと考えられる。
研究方法
全国医療機関への普及を前提とした医療用具及び院内環境に関連する院内感染防止ガイドラインの作成(2年計画の1年目)を実施した。本ガイドラインの作成にあたり、本邦における院内感染の特徴について詳細に文献調査を実施した。その上で、本邦の院内感染対策の現状においてどの分野のガイドラインが必要であるのかを検討し、最終的に研究結果に示した8項目を選択し、それぞれのガイドライン(案)の作成を試みた。一部の項目に関してはすでにガイドライン化されたものが含まれているが、これらに対しては本研究で得られたドラフトをもとに関連学会・組織との整合性をはかり最終的には本邦における統一的ガイドラインの作成を目標とした。具体的には、平成13年度は(1)感染の種類・頻度、(2)病原体の種類・頻度、(3)医療行為・用具との関連、(4)感染経路及びその遮断法、(5)院内環境における病原体の分布、などを対象に本邦における院内感染の情報を収集した。また、班員全員または分担研究員間による会合を開き、本研究の基本コンセプトを確立するとともに、各研究項目のガイドライン(案)にそれを反映させた。平成14年度には、得られたドラフトをさらに練り上げ、本邦における統一的な具体的・実践的ガイドラインの作成を目標とする。なお、本年度に作成されたドラフトを関連学会(日本消化器内視鏡学会、日本呼吸器学会、日本感染症学会など)および関連施設に配布し、関係者から、これに対する意見を広く求め、既存のあるいはこれから作成されようとしているガイドラインとの整合性の調整を行う。
結果と考察
本邦においてはすでに消化器内視鏡あるいは透析などいくつかの医療用具において院内感染対策ガイドラインが作成されているものの、現時点において全国レベルに普及したものとはなっておらず、必ずしも効果的に機能しているとは言えない状況にある。このような現状を踏まえ、本研究では院内感染を熟知した各分野の専門家により研究班を組織し、医療用具及び
院内環境に関連した院内感染に対する効果的かつ実践的なガイドラインの作成を試みた。本年度は、以下の8項目についてガイドラインの試案が作成された。進行状況および完成度に関しては若干の差異はみられるが、何れも班員全員の参加において得られたコンセンサス“具体的・実践的ガイドライン"の作成を目標としたプロダクトであると考えられる。(1)消化器内視鏡消毒のガイドライン(太田美智雄):胃・十二指腸および大腸内視鏡検査時に問題となっている病原体(ヘリコバクター・ピロリ、B型・C型肝炎ウイルス、HIVなど)に対する消毒法についてのガイドライン(案)作成を行った。本年度はガイドラインとしての各手順のみであり、次年度に論文による推奨度などを加え、実践的ガイドラインの完成を目標にする。(2)ICUにおける人工呼吸器関連肺炎と尿道カテーテル関連尿路感染に関する病院感染対策ガイドラインに関する研究(武澤 純):ICUにおける病院感染の頻度の高い人工呼吸器関連肺炎と尿路感染に対する感染対策のガイドライン(案)を作成した。ガイドラインの策定にあたっては、Evidence-based Medicineに基づき、論文の批判的吟味を行い、それに応じて推奨度を定め、研究協力者の合意形成会議を経て確定した。(3)院内感染菌に対する消毒薬の適正使用(仲川 義人):院内感染予防薬として用いる消毒薬には生体用と医療器具用など、明らかに用途が異なるものがある。今回、これら市販の消毒薬の細菌に対する効果および適正使用についてエビデンスに基づき検証した。(4)ウイルス及びプリオン感染防止の観点から(岩本 愛吉):透析施設における血液媒介ウイルス感染の予防策と、ウイルス及びプリオンに対する消毒薬の有効性につき、米国CDCのガイドラインをはじめとして、各国の指針や文献を渉猟し、わが国での最新指針を策定するための検討案を作成した。(5)職業感染防止の観点から(一山 智):職業感染防止の観点から、特に医療従事者の注射針の誤刺によるウイルス感染防止策、結核菌感染発病防止策の2項目について焦点をあて検討した。(6)気管支内視鏡洗浄・消毒に関する研究(河野 茂):気管支内視鏡の洗浄・消毒は現在各施設によって異なるマニュアルで行われているが、その方法は必ずしも院内感染の防止の観点から十分であるとはいえない場合が多い。そこで、気管支内視鏡洗浄・消毒のスタンダードマニュアルを目的に、詳細な文献的なエビデンスの収集を通して現時点において最も妥当と思われるガイドラインの作成を試みた。(7)医療用具・環境関連感染症への対応および無菌保証:院内環境関連感染症への対応(大久保 憲):病院環境における感染対策としては、ベッドの棚、床頭台、ドアのノブなど頻繁に手が触れるベッド周辺における対応が重要である。このような状況を踏まえ、効果的な病院感染防止の実施を目的として、病院環境の管理を合理的かつ効率よく行うためのガイドライン(案)を作成した。(8)医療現場での滅菌に関する指針案作成に関する研究(佐々木 次雄):院内感染を防止するための医療用具及び院内環境の管理および運用に関する研究の一環として、医療現場で使用される代表的な滅菌法(高圧蒸気滅菌、EOG滅菌)の運用指針案を作成した。指針案作成にあたり、関連国際規格を参考に、また欧米の医療現場での滅菌の現状を反映させたものにするため、指針案作成検討会を発足させ研究協力者とともに検討中である。
本研究班は新興再興感染症研究事業(吉倉/倉辻班)において作成された総合的ガイドラインの支援研究班として発足したもので、その主旨にそって各分担研究者がガイドラインの作成を行っている。最終的には、既存のガイドラインを含め、可能な限り関連ガイドラインとの整合性を持たせることが重要である。次年度においては、平成13年度に作成されたガイドライン(案)を関連学会・施設に配布し、その是非、整合性について慎重に検討していく必要がある。
結論
平成13年度より「院内感染を防止するための医療用具及び院内環境の管理及び運用に関する研究」を2年計画で開始し、本年度は8項目のガイドライン試案を作成した。次年度には、さらにこれをブラッシュ・アップするとともに、関連ガイドラインとの整合性を試み、本邦における統一的な具体的・実践的ガイドラインの作成を行う。

公開日・更新日

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